恋バナ

「氏兄はどうだった? 後藤さん」


 帰りの車の中で松田が私に先程の会合の感想を聞いてくる。


「彼は私に人材を紹介するだけで自身に最大の利益を獲得していたね。いや、私には人材が必要だと思ったから人を紹介してくれたけど···相手が望む物や言葉を言ってより大きな対価を貰う···それに人誑しだと思ったかな」


「人誑し?」


「相手の間合いに入るのが凄い上手いってこと。めちゃくちゃ話しやすいし、私の思ってなかったことを褒めてくれたのも人誑しだなぁって思ったよ」


「なるほど···紹介された三人には会うの?」


「後々ね。確かに政治ができる人材は欲しいんだけど、私の固有能力で才能が付与できるからその人達が政治力だけでなく戦闘能力も身につけたらどうなるんだろうね」


 と私は懸念点を言うのであった。







「ママ、赤ちゃん」


「大和、その子鈴音ちゃん」


「長門、わかってる」


 椎名夫婦の子供の椎名鈴音を見た大和と長門は自分達の妹分だとわかっているのか鈴音の似顔絵を描いたり、自身が遊んでいた玩具を貸したり、ガラガラを鳴らしたりしてあやしている。


 二人は赤ん坊が好きなようで、鈴音ちゃんが産まれてから鈴音ちゃんを気にかけることが多かった。


 真夏の八月···岐阜も例外なく暑くなり、外に出るのが億劫になりながらも週に三日、私は週に五日ダンジョンに潜り続けていた。


 その成果は着実に現れており、皆ガンガンレベルアップを繰り返していた。


【関ヶ原】ダンジョンの第二階層の経験値効率がだいぶ良いのか、一週間に一レベル、時々二レベルのペースで上がっている。


 私も皆んなよりはペースが落ちるが、それでも上級下位まで残り一レベルの五十九まで上がっていた。


 なので高卒組もレベルが六十を突破し、上級下位に到達した。


「イブキさんのチームに入ってからレベルがガンガン上がってあっという間に上級に到達できました! 感謝してます!」


 と南波が私に言ってきた。


「よかったよかった。でも元々四十レベル近くあったから成長速度はあまり変わってないんじゃない?」


「いえ、高校の時は毎日死にものぐるいでやって一年十三レベルペースでしたが、今のペースだと一年で六十レベル近く上がる感じで明らかにペースがおかしくなってます···小風からイブキさんの固有能力の事は聞いていますが、これ程とは」


「まぁそれで驕るようならチームから容赦なく追い出すけどね。目標は高く星持ちでいこうや!」


「うっす!」


「ところで上級下位になって何か変化あった?」


「適性職業がタンクだけでなく重装歩兵が追加されていました。大盾に片手斧のスタイルで戦っていたので適性が変わったみたいです。やることはあんまり変わりませんがね」


「盾の調子はどう? 当分は中級ダンジョンだけど上級ダンジョンだと性能不足でしょ」


「クランができたら新調しようと考えてます。そういえばニチームに分けるって話を前にしていましたが、してないですよね?」


「あー、【関ヶ原】ダンジョンが広くて戦いやすいからチームを分ける必要が無いからね。集団のほうが戦いやすいし」


「まぁそうですね」


「何か困っていることは無い?」


「···どこか性欲が発散できる場所無いですかね。混血だとそういうお店入れなくて···」


「あー、その問題もあるか···女性陣と接触は?」


「え、でもそういうのはチームの内部崩壊を招くって学校で習ったんですが···」


「別にそれはそれ、これはこれ···なるべくクランが整うまでは子供作って欲しくはないけど···もうチーム内で複数家庭ができちゃってるから今更なんだよね。小風といい感じって聞いたけど実際どうなん?」


「···自分は小風の事が好きなんですけど小風はどう思っているか···」


「うーん、それとなく私も探ってみようか?」


「え、いいんですか?」


「もちろん!」


 と私が言うが、前に小風はこのチームの中だと南波に気があるという発言をしていたので気が変わって無ければ南波にチャンスはあると思う。







 ダンジョンから戻り、未婚の女性陣を呼び出してパーティーを開く。


 東横にも南波が小風に気があるらしく、小風がどう思っているか探りたいというと協力してくれたが


「子供はクランが安定化するまでは我慢してもらいたい。じゃないとまーたチームが半壊しますよ」


「わかってるよ。南波にも二年は待てって言ってあるから」


 と相談し、メンバーを呼んでいく。


 大和と長門は二時間ほど椎名一家に預けてあり、二人も快く受け入れてくれた。


 なんでも大和と長門が鈴音と遊んでくれているとオムツとお腹が空いた以外で泣く事が無いので助かるのだとか。


 そんなこんなでメンバー集合し、私が焼いたクッキーと炊飯器で作ったチーズケーキを切り分けてみんなに渡し、パーティーが始まる。


「炊飯器ケーキですか!」


「甘くて美味しいです」


「山姫、月精ありがとう。子供達もケーキ好きだけど買うと高いから、五合炊きの炊飯器を買ってきてそれをケーキ用にしているんだよ」


「色々作れるんですか?」


「具材を変えれば色々作れるよ。チーズケーキだけじゃなくてバナナケーキ、アップルケーキ、桃のケーキにチョコケーキ···スポンジケーキに色々なジャムを垂らしても美味しいよね」


「どれくらいの炊飯器使ってます?」


「タイマーいじれるやつならそんなに高い物じゃなくて良いから一万ちょっとので良いと思うよ。まぁ私は料理の手間を少しでも減らしたいからあとは万能調理器使ったりするけど」


 と料理の話から始まり、それとなく恋愛の話に誘導する。


『チーム内恋愛って有りですか無しですか?』


 とスカーレットがぶっ込んでくれた。


 内藤は


「ナシじゃないですか? チームのモラルが終わりますよ」


 と言うが、私が


「いや、それだとうちのチームは既に三組あるんだけど」


 と言う。


「別にチーム内で恋愛はしていいんだけど。拗れたり空気が悪くなるような事は止めてねって話。子供もグランができて安定するまでは我慢してもらいたいけど、安定したら子作りは推奨するよ」


「それまたなんでですか?」


「そりゃクラン運営が次世代を見越しているからね。私の固有能力があるからレベルが上がらないってことはまず無いから、性格的に大和か長門が不向きでなければどちらかにクランのリーダーを世襲させたいと考えているよ。その時に脇を固めるのは君達の子供達だと私は思っているけど?」


『沢山子供を産みたいとスカーレットは答えます』


「スカーレット、私達の子供も差別されて育つかもしれないんだよ」


 と月精が言うが


『逆に兄弟が居たほうが良いとスカーレットは思います。というよりスカーレット達には愛情を受けた両親というのがいないじゃないですか、子供達には悩みを聞いてあげられる親がいるだけ恵まれていると考えますが? とスカーレットの意見を述べます』


「確かに私達が悩みを聞いてあげられるのは大きいけれど、子供になんで産んだのとか産まれてこなければ良かったとか言われたら···」


『否定、それは月精が逃げているだけだと述べます。普通の人間でも言う子供は言いますし、虐めは混血じゃなくても起こり得ます。問題なのは相談できる人物が居ないで抱え込むことにあるとスカーレットは考えております』


『なので混血のコミュニティを拡大させ、血縁を増やすことで苦労を共有し、負担が軽減できると考えておりますし、生物として子孫を残すことは義務だと思っております。とスカーレットは自分の意見を述べます』


 スカーレットの熱弁に恋バナというより議論は白熱していく。


 内藤は恋愛は外でしたい派。


 スカーレットは恋愛よりも子供を沢山産みたい派。


 小風はチームで良い人が居るなら付き合いたい派。


 月精と山姫は恋愛に消極的。


 こんな感じで小風と南波が付き合える可能性は十分にあると思えた。


 東横はギルドナイトと付き合いたいって人なのだが、内藤とスカーレットがそれに食いついて、良い人が居たら紹介してほしいと言っていた。


 私的には東京に幹部候補として授業を受けていた東横よりも岐阜県内なら松田と萩原の方が知ってそうだなと思い、今度それとなく聞いてみようと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る