土岐氏親という男
松田と萩原が調整してくれたことで土岐氏親さんと直ぐにアポを取ることが出来た。
私なりに土岐氏親さんのことを調べてみた。
経歴は百合ヶ丘で育ち、高校は岐阜県で有名な進学校に通い、そのまま京都の大学に現役合格し、卒業後父親の秘書として二年間下積みをし、百合ヶ丘の支持基盤でそのまま県議会議員に当選した経緯がある。
所属政党は国会で与党である政光党の岐阜県支部の岐阜県政光党である。
年齢は三十歳で若手議員の中心人物であるが、目の難病にかかり、常に色付きのメガネをかけなければならないというエピソードがある。
ただそんな逆境をものともせずに、サングラスの兄ちゃんと百合ヶ丘の人には認知されている。
松田から聞いたら切れ者とかカミソリの異名があるらしい。
私が調べられたのはその程度だったが、渾名から相当できる人なのは間違いないだろう。
会う場所は百合ヶ丘の権力者達が懇意にしている老舗で、その個室を松田と萩原が用意してくれた。
顔合わせの日は二人も同席してくれるそうだ。
そんなこんなで当日となり、武家屋敷みたいな料亭に予定よりも少し早く到着し、中に入ると、個室には既に土岐先生が座っていた。
「初めまして後藤さん、少し早く到着してしまってこうして寛いでおりました。土岐氏親です。本日はよろしくお願いします」
「後藤伊吹です。本日はよろしくお願いします」
とりあえず挨拶と名刺を交換する。
チームを結成した際というかスポンサーと契約するのでちゃんとした名刺を実は作っていた。
名刺交換を終え、私も席に着くが、その様子にクスクスと松田と萩原が笑っている。
「氏兄、堅すぎるよ」
「後藤さん普通の人だからそれだと参っちゃうよ」
と言う。
土岐さんは顎に手を当て
「ふふ、硬すぎましたね。いやはや、上の者ばかりと相手をしているとどうしても堅くなってしまってな。弟分達が世話になってます」
「いやいや、松田と萩原にはこちらもお世話になりっぱなしで」
「大丈夫です、こいつ等が警護対象ほっぽって色に溺れた馬鹿と言うのは聞いているので···まぁ説教はお盆の親族会の時にきっちりするからな」
「そ、そんな〜」
「うへー、爺さんや父さん達にもう結構絞られたんすよ氏兄!」
「お前らマジで後藤さんの器が広かったのと惚れた相手の背後が全く無かったから良かったが、ハニトラかけられてもおかしくない立場ってことを自覚しろ。後藤さんは岐阜県だけでなく日本に多大な利益を与える可能性を秘めているんだぞ、しかもお前らは岐阜の重鎮の松田の一族だ。蹴落とそうという勢力はゴロゴロ居るんだぞ」
「「すみません」」
「と、ここからは食べながら話しましょうか」
料理が運ばれてくる。
出されたのは汁物、山菜の天ぷら、ざる蕎麦であった。
「流石に昼間から酒を飲むわけにもいかないので量を頼みましたが、後藤さんも食べると聞いていましたがそれで良かったですかな?」
「ええ、その方が助かります。高いお酒を楽しめるほど舌が肥えてないので」
「ではいただきます」
「「「いただきます」」」
食事を開始し、ざる蕎麦をいただくとコシがしっかりしていてツルッと食べられる。
山葵も天然物でつーんという辛さの中に甘さが控えている。
天ぷらはたらの芽、わらび、こごみ、ふき、よもぎでどれも癖なく食べることができるのと、パリッとした食感の衣、塩と天つゆが用意してあり、最初は塩で、次に天つゆで食べるとまた違った味わいになる。
汁物は口の中をリセットしてくれ、お麩が入っているくらいで周りの料理を引き立ててくれる。
次に運ばれてきたのは馬刺しの盛り合わせであった。
馬産地とは言えない岐阜県だが、このお店では昔から出しているらしく、各部位を小皿に分けて食べ比べができるようになっていた。
醤油ベースのタレでいただくとこれまた美味い。
「さて、少しお話をしましょうか。後藤さんのチームは県議会でも話題になっているんですよ。混血を積極的に採用していることとそれを配信を通じて魅力を広めようとしていること、また魔法理論による底辺探索者の救いあげ···政府が支援金を送るよりも効果的で費用対効果が素晴らしい活動だと言えるでしょう。政治家を代表してお礼を言いたい」
「いえいえそんな、私も利益と恩返しの為にやっているので」
「だから良いんですよ。無償の善意より怖いものはない。弱者はしがみつける物には何でもしがみつきます。それが破滅に向かう爆弾に繋がっていたとしても···宗教にしがみつく分にはまだいい。犯罪に走る者もどうしても出てきます。そんな潜在的な脅威を後藤さんは社会全体に利益の出る労働者へと少なく無い数を変換させた···いや現在進行系でしている」
「今はまだ小さな波紋かもしれないが、それがやがて大きな波となる。私はそう思っています」
「大げさですよ」
「···さて、遠くの未来の為に直近の未来の話をしましょうか。後藤さんは今後も岐阜県の混血の探索者を採用するつもりで?」
「ええ、人数も少ないですから新卒から二十代の方···できれば四十代でソロもしくはフリーでやっている方も採用を視野に入れています」
「クランとなると政治が絡んできます。クランは一つの企業とも言えます。政治ができる人材はいますか?」
「松田と萩原は駄目ですか?」
「こいつ等は探索者協会の幹部にはなれますが政治的手腕には期待できないでしょう。後藤さんの今の腹心である東横さんも期限付き、混血で採用する人は社会情勢から上に立つ教育をそもそも受けられてないので政治力は皆無ですよ」
「他のクランともし政争みたいになった場合に不味いと?」
「ええ、多分それを見据えて何人か東横さんに教育してもらっている椎名洋介君と混血の子が居ると萩原から聞いています」
混血は小風と山姫、月精だ。
椎名洋介と華澄は最初期から東横の教育を受けていたため、他クランともし交渉とかをしても一応は任せられる。
残りの三人も潜在的な才能があるだろうと見込んでの事である。
ただ政治力がちゃんとあるのは現状チームで東横しか居ない。
「どうでしょう、私が紹介しましょうか? 政治力がある人材を」
「うわぁ~胡散臭い」
「後藤さん、漏れてる! 心の声漏れてます」
「まぁ私が紹介できるのは政治力は有るけれども探索者としての才能に乏しく、このままでは表に出ること無く燻る人材なのでね」
「ほう?」
「家長相続って言葉はだいぶ昔に廃れましたが、優秀な兄弟のスペアってのはどうしても埋もれてしまうんですよね。上の方ではまだ政略結婚に近いのが残っていたり···企業の令嬢だったり、そういうスペアを私は自身の駒にしてきました。なに、そういうのは一人だと暗躍して組織を乗っ取ろうしますが、二人、三人居ると陰では蹴落とし合いをしますが、組織的には循環するんですよ。そして後藤さんは良くも悪くも後藤さんありきでチームがあります。ワンマンとは言いませんが、後藤さんに何かあればチームは瓦解する」
「例え暗躍したとして後藤さんを傀儡にはできないのですよ。後藤さんには唯一無二の価値があるから。極めれば恐らく魔導書を作成することは他の人にも可能になるのでしょう?」
「支部長から聞きましたか?」
「いいえ、カマかけをしただけです。どうやら正しいようで···まぁそれは別に良いでしょうが、あなたの役割はメッセンジャーだと多くの人は見ていますがそれは違う」
「後藤さん、あなたも十分に創造をする側の人ですよ。そうでなければわざわざ混血を拾おうなんて発想にはならない。混血の地位が向上した時、あなたは偉人の中に名を連ねるでしょう」
「後藤さんも政治力を扱う素質はあります。磨けていないだけです。三人ほど面白い令嬢達が居るのでクラン起ち上げの際には考えてみてくださいね」
と言って土岐先生はプロフィールの纏めたファイルを出していた。
ペラペラとファイルを軽く見ると三人の令嬢は岐阜県に根ざした社長の令嬢で才能はあるが男を引き立てるというより操ってしまう可能性が高いため、政略結婚の弾にするには勿体無いと思われているらしい。
男尊女卑でもない時代によくもまぁこんな事をしているなぁと思う。
まぁ私にとって都合の悪い話でもない。
彼女達を受け入れれば新たなスポンサーが付く事にもなるし、三人は不動産、建築、ダンジョン管理と今のスポンサー達と被ることは無いし、不動産と建築はクランでマンションを新たに建築する時に土地を紹介してもらったり、建ててもらうのに都合が良いし、ダンジョン管理の会社は複数箇所のダンジョン管理を所有者から代行していたり、ダンジョンそのものを買い取ったりとダンジョンの経営的な事をしているので椎名一家にはそのノウハウを吸収する意味でも都合が良い。
マンションだけでなく混血の地位が向上し、探索者以外でも働ける場所をこちらから提供できれば更に混血かつ優秀な人材を集めることができる。
「多少の腹黒が来てもなんとかなりますかね」
「そこは後藤さんの匙加減と腕の見せどころですよ。こちらとしても紹介したことで各企業の社長さんから覚えが良くなるのでね」
「政治家って大変ですね」
「結局政治家も人なので愛着ある土地を豊かにするか金と癒着するか権力を握ってやりたいことをやるかのどれかですからね。どれが良いとかは無いですし、本当に国を憂いてとかは政治家でも絶滅危惧種ですし、そういうのは自衛隊に入っちゃいますからね」
「なるほど···で、先生は郷土愛タイプと?」
「いやいや、私は強欲で郷土愛も金も権力もどれも欲しいんでね。父の基盤を継いで国政にそのうち出ますよ。私は総理の座を狙っているんでね」
「そりゃ良いや。総理になる人にお墨付きを頂いたクランとなれは泊が付くし、巡り巡って私に還元されるわけだ」
「これは私から後藤さんへの貸しです。クランが大きくなった際には投票お願いしますよ」
「勿論ですよ土岐先生」
私と先生は握手をするのだった。
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