魔法理論のイベント 新たな出会い

「吸ってー、吐いてー、止めてー、吸ってー」


 私はマンションの多目的室にてマンションに住む探索者の方々に魔法理論を教えていた。


 事の始まりは赤羽一家と川嶋一家と私の後藤一家で郊外にある会員制の巨大スーパーに着いていった際、赤羽の旦那さんが魔法理論を教えてほしいと言う会話から始まった。


 川嶋の旦那さんもお願いしますと言われ、私が了承したが、赤羽の奥さんがマンション内で後藤さんの魔法理論を教わりたい人は多いから、せっかくなのでマンション内のイベントとして開催してみては? と言われ、少しでも魔法理論を広めることができるのならばと買い物を終えた後に、マンションの管理人と相談してマンションのイベントとして月に二回授業を開催することになった。


 講師役はチームガイアの初期メンバー(椎名華澄と佐藤、佐倉の三名を抜いた動ける人員)が務め、新規加入したチームメンバーも勿論参加する。


 ただ定員が五十名のところ、定員をオーバーして参加希望者が続出したため、開催日を毎週の土曜日にし、チームメンバー以外は予約制にすることで人数を捌いた。


 というのも社会人の探索者の方は勿論、岐阜県探索者高等学校に通っていたり、普通の高校だが学生探索者として既にダンジョンに潜っている息子や娘さん達からも参加していた。


 二時間ほど授業をして一時間はフリータイムの三時間。


 住民とのコミュニケーションの場として活用したい側面と探索者の人達が集まるので情報収集でもある。


 私達チームガイアもアンテナを張ってはいるが、どうしても他のチーム事情までは知らなかったり、知らなかったオススメダンジョンの情報がポロッと出てくることもある。


「やぁ赤羽さん、調子はどうですか?」


 赤羽の旦那さんに私は声をかける


「心身ともに絶好調よ。『吸う』を覚えればいよいよ仕上げだろ。俺も是非とも万能防御魔法は覚えておきたいからな」


「私的にはそれだけでなく『ノッキング』や『サーチ』も覚えてもらいたいですがね」


 私が三番目に魔導書にした魔法は『サーチ』であり、これも使いこなすには時間がかかるが、使えば使うほど精度があがり、一年もすればどこにどれくらいの大きさのモンスターもしくは人が居るかわかるようになる。


 それだけで無闇にモンスターを探し回る事をしなくても良いし、周囲より強い反応はボスモンスターなので不意のエンカウントを避けることにも繋がる。


 結果生存性の向上に繋がり、人的に損失を抑えることに繋がる。


「後藤君に求めているのは探索者の被害をいかに抑えるか、採取効率を上げるかだ。死ななければそのうち強い魔法を自然に覚える機会も金をためて装備を一式そろえてより強いモンスターを狩れるようになる。巡り巡って使える人が増えることに繋がり、ゆとりが生まれる」


「ゆとりができれば結婚等の次世代を残そうと動くのが探索者というものだ。命のやり取りのダンジョンで活動する以上余計に性欲が増すからな」


 と松田努こと支部長が前に会った時に言ってきた。


 それでもなお少子高齢化が進む先進諸国はどうしようもねーなと思うが、ダンジョンで多くの若者が無理をして亡くなっているのと、才能の無さに気がついた人達が絶望して自殺してしまっているという事が問題だ。


 その解決策が私の魔法理論であることを探索者協会の上層部は気がついているし、希望を持てれば人は死なない。


 無理をするのも夢を見るためであり、安定して強くなれるなら無理をする必要もない。


 現に六基を習得率が高いのは下級探索者で、切羽詰まっているから必死になって覚えるからというのもある。


 そんな彼らは覚えた魔法を使って今まで倒せなかったモンスターを倒し、ジワジワと経験値を蓄積していっていると聞く。


 まぁそういう人口減少をなんとかするのは政治家や上の人の役目であり、私はメッセンジャーとしての役割を全うする。


「赤羽さん、私達は【関ヶ原】と【サザン海】をメインに潜っていますが、赤羽さんは【百合大森林】をメインにしてますよね? 稼げます?」


「【百合大森林】は宝箱が出るからな。ボスもチームならば倒せるレベルだし、安全を考えれば十分に稼げるダンジョンだと俺は思ってるよ。ドライアドや食人植物が多いが、採取して売れば結構な金額になるしな」


「それはそれは···」


「食人植物って名前が物騒だが、栄養価の高い食べ物だからな。それを食べて育った子供は五センチ以上身長に差が出るとも言われるし、食べていれば病気知らずとも言えるくらい体内の調子を良くしてくれるんだよな。ただ中級ダンジョンだからどうしてもマンパワーが足りないんだよな」


「うーん、ただ聞く限り経験値効率はよろしくなさそうですね」


「後藤さんが言う経験値理論は正しいと思うが、安全には替えられねーな。無理したら子供達や妻が困るからな」


「そりゃそうだ」


「ただそれでも万能防御魔法があればチームメイトを咄嗟に助けられたり、俺自身の命綱代わりにはなるからな」


「奥さんがまだ子供が欲しいって言ってましたから頑張ってくださいね」


「下世話やな! 言われなくても頑張るわ!」


 そんな話をしながら魔法理論学習イベントは進んでいく。


 混血のメンバーも最初は居心地悪そうに参加していたが、周りはお金に余裕がある大人達ばかりである。


 話してみると気さくな良い人や常識人ばかり、その子供達も良い教育を受けている子が殆どの為、差別的な意識が薄い。


 差別して落とすことで自分を優位に見せる必要が無いため、住民達も多少の色眼鏡で見ることはあれど、学校や底辺とは違い、当たりも柔らかい。


 更にイブキ達が間に入り、住民との架け橋になることで、数回イベントが終わる頃には歳の近い人達と自然に喋るようになっていた。


 とくにスカーレットと外国人二人組は子供達から人気で、スカーレットはゲームが上手いから話が合いやすく、外国人二人組は自己鍛錬で鍛えた筋肉に色んな人からプロテインは何を使ってるかや食生活等の筋トレ談義で盛り上がっていた。


 南波や小風みたいな肌の色を気にしている組も歳の近い人達が色々な話題を振ってくれて楽しそうである。


 この時の伝手で小風は近所の料理教室に参加するようになるし、南波は郊外の畑を借りて、暇な日に野菜を作ったりするようになる。


 半年近くすると殆どの人が六基を習得することとになり、混血組との蟠りみたいなのも消えていくのだった。







「松田、萩原、二人は佐藤と佐倉の親には説明したの?」


「勿論です。本当は挨拶に行くのが筋なんですが、育児の資金を貯めたい事を話して子供が産まれたら挨拶しに行くことで納得してもらいました」


「結婚式はあちらの親族とこちらの親族、チームメンバーのみの家族婚にしようと思ってます。産後半年後を目安に行おうかと」


「となると予定日が十月後半から11月だから来年の五月から六月頃かな···楽しみにしているよ」


「それでなんですけど···後藤さんは将来的に県外に住処を移すことはないっすよね?」


「無いし、クランでマンションを建てたり買ったりしない限りここからも出る気無いけど」


「いや、俺達金が溜まったら一軒家買いたいなって思いまして」


「良いんじゃない? 将来二人も探索者協会の方で働くかもしれないんだから一軒家の方が都合が良いでしょ」


「爺さんや親族の権力とかもあるんで申し訳ない」


「良いよ気にしないで。うちのクランは結局岐阜県探索者協会とズブズブでないと成り立たないわけだし···東横含めて二人も上に登った方がこっちとしてもありがたいし」


「護衛なのに後藤さんを振り回してしまい申し訳ない」


「あと後藤さん、政治家の兄ちゃんが今度会うことができないか聞かれたんですが」


「関わりがある人の感じ?」


「俺と萩原の再従兄弟の兄さんで俺達の爺さんの妹さんの孫なんですが、政治家の一家で、俺達から見て伯従父さんは国会議員の土岐正吉さんで、兄さんは県議会議員の土岐氏親兄さんです」


「へぇー、あーそりゃ支部長が岐阜で様々な事に権限あるわけだ」


「元々松田家は岐阜県の大地主で一定の地位はあったんですけど、ダンジョンが出現し始めた頃に暴落したダンジョン周辺の土地を俺等の曾祖父さんが買い取って息子の爺さん達にいち早くダンジョン利権に食い込ませ、政治工作の一貫で娘を政治家一家に嫁がせて基盤を固めた経緯があります。なので支部長の爺さんが外れたとしても松田一族が岐阜県の支部を掌握している状態なので···」


「後藤さんもクランになった場合遅かれ早かれ県の政治には関わってくるので兄さんが橋渡しになるのは良いと思いますので会ってくれませんかね」


「何が転じるかわからないし、二人が兄と慕う人なら悪い人じゃないでしょ。会うから日程調整お願いね」


「「うっす」」


 こうして県議会議員の土岐氏親さんと会うことになるのだった。

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