配信を始めた変化 ボスママ?後藤

「本日の動画はここまでになります。次の動画ではリン(小風凛)に協力してもらい、戦国時代の合戦飯を再現していこうと思います! それではご視聴ありがとうございました!」


 六月中旬、僕こと池田真は色々順調に暮らしていた。


 探索者としては連日関ヶ原ダンジョンに潜り、ここ最近は階層を一つ下げ、第二階層を探索することが多い。


 階層を下げると鎧武者の比率が高くなり、馬のモンスターである黒駒、白駒に鎧武者が跨っている事も多くなる。


 そして一番の違いは弓兵が普通に出てくる点だろう。


 第一階層では極稀であった弓兵が普通に出てくることで遠距離でも気が抜けないし、タンクや防御系の魔法が重要になってくる。


 第一階層と同じく殲滅戦ではあるが、イブキさん曰く経験値効率が下の方が高いと言う。


 ただ気をつけなければいけないのは階層を跨いで徘徊する太閤と将軍である。


 下の階層に行けば行くほどこいつ等と接敵する可能性が高くなるので、見つけたら直ぐに逃げなければならない。


 ただ疑問なのが太閤と将軍が本当にボスなのかって点だ。


【関ヶ原】ダンジョンの最下層は城の中みたいな造りになっていて、太閤か将軍のどちらかを倒すと城内の宝物庫の鍵が体内から出てくるのでボスと思われているが、ボスの本当の定義は学校で習う限り中級ダンジョン以上は最下層で徘徊しているハズだ。


 僕は歴史が好きだから太閤と将軍が居るのであれば、その上に居るかもしれないモンスターの名前を知っている。


 第六天魔王···信長だ。


 まぁそもそも関ヶ原と僕達が呼んでいるだけで実際に戦っているのはモンスター···そんな都合の良い物なのかと言われたら疑問が出るし、星持ちが苦労するモンスターよりも更に上が中級ダンジョンに居るかもというのも不思議な話だ。


 ただ経済的な理由でここ数年【関ヶ原】ダンジョンの最下層にアタックした探索者チームは居ない。


 調べ尽くしたとは言い難いこのダンジョン···もし、僕が星持ちになれる実力を持ったら一回最下層まで行ってみたいものである。


 話が逸れたが、約二ヶ月半が僕らは加入から経過し、配信者になったが、皆配信ジャンルがバラバラだったこともあり、イブキさんの視聴者から流れる形で僕達にも一定数の視聴者が根付きつつある。


 僕なんかは動画中心だが、歴史オタク達が集まり、僕が起ち上げたコミュニケーションサーバーで歴史談義や持論を持ち寄って整合性を話し合ったりしている。


 特に近代の謎多きダンジョン出現から十年の混乱期はその時代を生きていた人がまだまだ多いので色々と話を聞くことができて楽しい。


 僕はこの身体なのでなかなか聞きに行く事ができないが、当事者の息子や親族の方が話を聞いてサーバーに持ち寄ってくれるので新事実が集まること集まること。


 その当時の空気感を間接的に知ることができて嬉しく思うし、歴史的転換点の話を聞くと、戦国時代や幕末、二度の大戦期などの様な英雄と呼ばれる歴史を大きく動かす人物が出てくることがわかる。


 僕の場合はイブキさんかと思ったが、イブキさんは自身の師匠である辻聖子さんこそが時代を動かす英雄であったと語る。


 まぁそんなオタトークや各戦国大名とか、当時の民衆の日常や娯楽にフォーカスしながら動画を作ると、僕の声がハーピィと言うことで通る為聞きやすく、平均二十万から三十万の再生数を出すことができている。


 あとよく歌ってと言われるので練習して歌ってみたをカラオケ配信してみると同接二万三千人に配信のアーカイブが作業配信に使いやすいとループされてあっという間に百万再生を叩き出した。


 ちなみに百万再生を持っているのは僕とスカーレットのみで、スカーレットのAI将棋バトルは元々ある程度は指せることもあり、急速に成長し、興味を持った女流棋士の方とネット対戦する動画が百万再生を突破していた。


 女流とはいえプロなので負けはしたもののそれすらも学習して百人組手と称した企画を起ち上げ、視聴者をボコボコに、見事百連勝していた。


 配信を初めて一ヶ月でこのレベルなのでスカーレットはイブキさんに次いで箱の顔になりつつある。


 まぁオートマターなのに時折キツめの下ネタをぶち込むのも人気の秘訣かもしれないが···


 配信を見てくれる層がいると言うのは大きく、マンションの住民の子供に


「兄ちゃんの配信見たよ! 今授業で習っているところだからわかりやすくて助かる!」


 と最上階のラウンジでノートパソコンを使って動画編集をしている時に中学生くらいの男の子からそう言われた。


「ありがとうね! もっと為になる動画作るね!」


 と返すが、今まで気味悪がられていた事が多かったのに、純粋な好意を見ることができて配信をやって良かったと思えた。


 勿論モンスターが配信をやってんじゃねーよ気持ち悪いみたいなDMが送られて来る事もあるが、僕らのバックには岐阜県の探索者支部や大企業の明聖社が付いている事や愚痴を言える仲間が居るためストレスは感じてない。


 僅か一ヶ月だがほんの少し変化しつつあることがとても喜ばしい。


 その機会をくれたイブキさんに僕はついて行こうと更に思うのだった。









 椎名が予定日が近くなったが逆子になってしまったらしく、帝王切開で産むことが決まり、六月下旬に手術が行われ、無事女の子が産まれたと報告がされた。


 治癒魔法で傷跡も残らないし、入院日数も一週間だけで退院できるらしい。


 椎名一家は出産後の手続き関係でドタバタしているので手伝いながら、マンションに帰ってきたら赤ちゃんのプレゼントを用意しないとと皆で話し合っていた。


 そんな空気を感じた我が子達は


「妹、産まれたの?」


「かわいい?」


 と聞いてくる。


 妹ではないが、これから十数年は幼馴染として関わるので妹分と言葉を教えると楽しそうにしていた。


 大和と長門の成長も早く、最近はトイレや箸の練習を始めたし、意味のある物を描く事を覚え、車の絵や外の風景、鳥やキャラクター、私の似顔絵等をよく描いてくれる。


 あとは服を用意しておくと時間はかかるが自分で服を着たり脱いだりができるようになっている。


 言葉はまだたどたどしいが、単語を組み合わせて喋れるし、アニメのセリフを真似したりして順調に育っていることがわかる。


 親バカモード全開で可愛がっているが、託児所では周りの子のリーダー的な立場で遊んでいるんだとか。


 それで年上の子と喧嘩となった事もあったが、レベルが高いため相手の子に殴られてもキョトンとして、押し倒して泣かせたってことがあり、自身が他の子よりも強いことを自覚したらしい。


 大和は男の子のリーダー、長門は女の子のリーダーで、家では全く喧嘩をしないが、託児所の庭ではたまに喧嘩をして空を飛びながらの空中戦を繰り返しているのだとか。


 それを他の子が見て戦隊系のヒーローみたいだと盛り上がるらしい。


 託児所の先生からは二人共正義感が強くて周りを楽しませたり、喧嘩の仲裁をしたりしてくれて助かっていると言われた。


 託児所に通うママさんからも評判は良く、是非二人と一緒の保育園か幼稚園に我が子を通わせたいという人も居た。


 それが気に食わない奥さんも居たが、あれよあれよと私が新ママ達のボスママ的な立場になってしまい、先輩ママの赤羽奥さんや川嶋奥さんに色々教えてもらいながら育児と探索者、配信者の三役をこなすのだった。

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