新人研修

 私達は何を見せられているんだろうか。


 どうも皆さん小風です。


 歓迎会の翌日、早速中級ダンジョンである【関ヶ原】に連れてこられています。


 そこで最初ははぐれ足軽と一対一をやるように言われ、イブキさんが見つけてきたはぐれ足軽と戦っていく。


 下級中位クラスのモンスターに負けることは無く、私達は瞬殺する。


「おお〜」


 と先輩達から感心した声が漏れる。


「じゃぁ少し数を増やして戦ってみようか」


 そう言われ、十体の足軽の集団に私達新人チームが戦うこととなった。


 まぁこれも問題無く倒すが、魔法の使用率の低さを指摘された。


「なんで魔法を使わないの?」


「いや、魔法は温存してここぞという場面で使う物じゃ?」


 池田君の言葉に私達は頷くが、イブキさんは違う見解を示す。


「使ってなんぼでしょ。ここは中級の一層なんだから例外でボスが上の階まで上がってこない限り経験値でしか無いんだから」


 そう言ってイブキさんは手のひらを前に突き出すとビームを発射した。


 前に居た足軽たちがビームで焼き切られてドンドン倒されていく。


 あっという間に三十体くらいを倒していた。


「魔法は使えば使うほど熟練度が上がる。練度が上がれば魔法の出力のコントロールも威力の調整も魔力の節約も覚えられる。ここのダンジョンはメインは経験値稼ぎ、お金稼ぎは二の次なんだからガンガン魔法を使って倒す。南波と内藤は身体強化の魔法をかけた状態で倒していきなさい」


「「はい!」」


 確かに魔法を使えば簡単に倒せるが、ガス欠ならぬ魔力の枯渇をしないか心配になる。


 一時間後に案の定魔力が枯渇し、立ち眩みや目眩状態になる。


「少し休憩していて良いよ。私達はもう少し周りのモンスターを減らしておくから。魔石拾いには参加してね」


 イブキさんにそう言われる。


 イブキさん含めて私達よりも魔法を使っているのにまだまだ元気なのに驚きだ。


 イブキさんだけでなく他の先輩方もそうだが···


「やっぱりすげぇ···これが岐阜県で今一番勢いがあるチームか!」


「僕達もああなりたいね!」


「魔法理論の基礎を覚えないとね!」


 特にサンレイという魔法を皆使っているが、強力で、一瞬で鎧武者の鎧を貫通していた。


 イブキさんは空中に水鏡を幾つも出現させて反射したり屈折させたりでレーザーの角度を調整して、大量の足軽や鎧武者を葬り去っている。


 三十分ほどレーザーが舞っていたが、乱射も終わると足軽や鎧武者の集団が一部装具と魔石を残して消し去っていた。


「新人〜魔石回収タイムだよ〜拾うよ〜」


 と言われて休憩を終えて、私達も魔石を回収していくのだった。








「ほい、今日の分け前ね」


 私達の学校から支給されて、そのまま使い続けているスマホに今日の分前が支払われた。


「ろ、六十万!?」


「え、こんなに貰っていいんですか?」


 私こと小風凛と池田君が声を上げる。


「チームの間は分け前は換金総額を人数+一人分のチーム運営費で割るから今日は約八百万だったから八百万から割る十二で約六十六万になるね」


「こ、これだけあればスマホを買い替えたり、服や備品に当てることができます!」


「それは良かった。あと貯金しておきなよ。大丈夫だと思うけど大金持って身を滅ぼすなんてことがあるからね」


 正直新米に平等にお金を分けるのは聞いたことがない。


 学校の授業でもクランに加入したては、見習い金として一回のダンジョンアタックでも二十万ちょっとしか貰えないこともザラだと言われていたが、その三倍である。


「皆が戦力になれば更に稼げるようになると思うし、スポンサーの明聖社から武器や防具を安く購入できるから、お金を貯めておこうね」


 と言われた。


 マンションに帰り、私達新人組は池田君と南波君の部屋に行って今日の反省会を開く。


「戦闘の方法が全く違うと感じたな。短期間に全力で倒すことを主としているよな」


「僕もそれは思った。僕ら知らず知らずのうちに長時間潜ることがレベルアップに繋がると思ったけれど、イブキさんが前に動画で言っていたことが正しいなら、短時間でも大量にモンスターを倒せればレベルが上がるってことだよね?」


「とりあえず慣れていく必要があるだろう。私達もなるべく早く学校から餞別で貰った学校の備品の装備から脱却したいし」


「そうだね。東横さんから明聖社のカタログを借りたけど、私と池田君は弓と矢を揃えたいよね」


 そう言って弓矢のページを開く。


「僕は空中戦ということでクロスボウタイプにするけど、小風ちゃんは?」


「和弓···いや、コンパウンドボウかな。連射性と威力を上げるために弓自体に補助があった方が扱いやすいと思うし」


「小風ちゃんは一般人に比べたら非力じゃないけど、どうしても体格で不利になっちゃうからね」


「腕の長さが普通の弓だと足りないんだよね」


 私の身長は百三十五センチと小学生高学年程度しか無い。


 その身長と短い腕だと剣や槍の扱いは難しく、結果弓に落ち着いた経緯がある。


「あーあ、銃火器が使えればなぁ」


「銃火器は中級ダンジョンなら良いけど、上級ダンジョンなら火力不足になっちゃうんだよね」


「そもそも銃は免許の取得が凄くめんどくさいし、保管場所の指定が厳しいじゃん。探索者高等学校でも扱わせてくれないし」


 銃の立場は微妙だ。


 自衛隊や各国の軍隊はダンジョンの素材を使った新型の銃を開発し、威力を上げたが、重量が嵩み、レベルが低い隊員は新型の銃を扱えないという問題が発生し、既存の銃は二線級隊員に、一線級の隊員には新型の銃や装具を装備できるという軍内部でも格差が起こっていた。


 ダンジョン初期の混乱期に大活躍だった銃も、コストパフォーマンスが悪いと探索者からは嫌厭され、強力な魔法の出現により陳腐化する有り様であった。


 そもそもダンジョン出現により各国の軍事力は国内のダンジョンに集中しているため、対外戦争が三十年以上起こっていない。


 ダーティーなイメージの武器商人がダンジョン用の武器屋にジョブチェンジしたことで市場に流通する銃の量も激減し、テロを企む組織もまずは構成員のレベルアップや資金確保をダンジョンで行うため、銃より剣や槍が求められてしまった。


 一番割を食ったのは攻撃ヘリである。


 ヘリを見つけた瞬間に高火力の魔法が放たれる為、防御力が低いヘリは真っ先に狙われて撃墜されることがとある国の内戦で判明し、攻撃ヘリは各国の軍から姿を消したのであった。


 閑話休題。


「まぁ問題は弓が鎧武者や足軽と相性が悪いこと何だよね」


「僕の場合上から魔法を放てばある程度倒せるけど小風は弓に毒や痺れ薬を塗っての状態異常で倒す戦法が得意だったから···」


「うん、ちょっとイブキさん達に相談しようと思う」


 私は部屋から出てイブキさんの部屋に向かった。









「失礼します。イブキさん、夜分にすみません」


「はいはーい。小風今日はお疲れね、どうしたの?」


「いや、今日のダンジョンアタックで少々悩み事ができたので」


「···入って、お茶出すから」


「ありがとうございます」


 私はイブキさんの部屋に入り、ちゃぶ台の前に置かれた座椅子に座る。


「ネーネ? 遊ぼ!」


「遊ぼ! 遊ぼ!」


 イブキさんの子供達が私の手を引っ張る。


 私はイブキさんがお茶を入れている間、大和君と長門ちゃんと遊ぶことにした。


「何して遊ぶの?」


「ふんふん!」


「え?」


「「ふんふん!」」


「えっと···イブキさん、二人が言うふんふんってなんですか?」


「あー、腕立て伏せだよ。私のしているの真似てやるんだよね。二人共レベルが十五もあるからできちゃうんだよね腕立て伏せとか腹筋とか」


 ふんふんは腕立て伏せ、押さえてが腹筋、ピョンピョンがウサギ跳び、だんだんがジャンプらしい。


「ウサギ跳びって体に悪いんじゃ?」


「二人共天使だから浮くって感じで本当はジャンプしてないから屈伸しているだけなんだよね」


「「ふんふん!」」


「はいはい、ふんふんしようね!」


 イブキさんが腕立て伏せの体勢になると子供達も真似をする。


 とりあえず私も同じく腕立て伏せを始める。


「いーち!」


「「いち!」」


「にーい」


「「にー!」」


 とイブキさんが言うのに合わせて数を言い始めた。


 まだ一歳ちょっとなのに数を認識しているのは凄いと思う。


 五十回やると満足したのか積み木で二人共遊び始めてしまった。


「さて、話を聞こうか」


 改めて私はイブキさんに弓では鎧武者や足軽にダメージを与えるのは難しい事を話す。


「そっか···となると弓主体の池田も効率が悪いかな?」


「いえ、池田君は魔法が得意なので特に問題は無いかと···私だけモンスターを倒せないとなるとイブキさんが言う経験値が足りなくてレベルが上がりづらいんじゃないかと思って」


「ああ、そういう事ね。うーん、そういうことなら皆で潜る日以外の日に私下級ダンジョンに潜ってるけど付いてくる?」


「いいんですか?」


「配信用だし余裕があるなら連れて行くけど」


「是非お願いします」


「オッケー、ただ私から見て疲労が溜まっているように見えたら休ませるからね」


「わかりました」


「ご飯は食べた? コロッケあるけど食べてく?」


「いいんですか!」


「いいよ~、料理の練習で多めに作っているだけだし」


「ありがとうございます」


 私はイブキさんのコロッケをいただくのだった。


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