登録者数百万人 鎧武者のボス

「イブキ、佐藤と佐倉と馬鹿二人のことだけど···大切な時期に妊娠して本当に大丈夫なの?」


 ある日東横が私に四人のことで質問をしてきた。


「大丈夫とは?」


「まずスポンサーが付いていざこれからって時にチームの約半数が産休で離脱することになるじゃない。スポンサーの心象も良くないし、チームの計画もグチャグチャになるんじゃないかって」


「スポンサーについては問題ない。各方面に私の考える今後の予定及びチームの修正案を提出したし、こうなった以上佐倉と佐藤、(椎名)華澄もだけど今後のチームの戦力構想から外れてくる」


「外す?」


「探索者という命懸けの職業上、種を残そうと性欲が強まる傾向が男女共にある。それに中級上位以上なら子供を沢山養える財力があるから子沢山になりやすい。椎名一家は華澄から五人は子供が欲しいって言っていたから毎年ではないにしろ十五年の実働期間中五年は産休や育休で潰れると思う」


「佐倉と佐藤にも子供は何人欲しいか聞いたら最低五人って言っていたからこっちも五年は覚悟しなきゃいけないし、そうなるとブランクが開くことになるのと、子供を成人まで育てるために万が一が起こり得るダンジョンに奥さんを向かわせると思う?」


「あー、守りに入ると」


「そう。だから悪いけどチームの構想から外す。華澄には産休に入った時に、佐倉と佐藤には妊娠が発覚した時にこの話をしている。代わりに育児の面で大和と長門がお世話になるから事務員としてチーム···後々のクランのバックアップをお願いしたよ」


「···ちょっと腑に落ちないところはあるけど納得はした。華澄が六月下旬から七月上旬が出産予定日で、佐倉さんと佐藤は十一月頃出産予定になるのか···」


「大和と長門の世代的には二個下になるのかな? 大和と長門は早生まれだし···親の繋がりが深い幼馴染は貴重だからね」


「チームの再建はどうするの?」


「東横に前に話した様に新人育成に重点を置く。通信教育でとりあえず教官免許の三級は取れそうだし、七月までにはレベルの上がり方的に上級下位を目指せると思うからそれまでに何名かリストアップをお願いするよ」


「わかりました。ただ岐阜県内の人しか私の権限では引っ張ってこれないので了承してくださいね」


「んー、それなんだけど、明聖さんにも話をお願いしようかなって思ってて」


「ほう?」


「明聖さんにもスカウトチームがあるし、混血はどうしても忌避されちゃうから私のところが受け皿になるって立候補すれば東日本から人材を引っ張ってこれるかもしれないんだよね。岐阜県は学生も対象だけど、明聖さんには高校卒業している二十代前半の人を対象にね」


「それならばある程度の人数が集まるかもしれませんね」


「それまでに産休組もクラン会計士免許や事務系の免許を習得してもらわないとね。初期は東横が色々な免許を持っているから回るとは思うけど」


 東横とはこの時点で私が一番信頼しているチームメイトになっており、東横がいる残り四年でクランを形作る必要がある。


 焦りは禁物だが、最低でも二年は東横がいるうちにクランとして運用したいという気持ちがある。


 その気持ちが経験値の多いダンジョンへと私を向かわせる。


「地上波で映像が流れたことで私への認知度が上がっている。雑誌や新聞、テレビの取材を積極的に受けて認知度をもっと上げないとね」


「無理しないでよ」


「勿論!」









 遂にチャンネル登録者数が百万人を突破した。


 地上波効果はやはり大きく、私の初心者シリーズから魔法理論の動画の再生数や、それに伴いメンバーシップの参加人数も爆上りしていた。


 特に電子魔導書が既存の魔導書の需要を私の予想よりも食い合いをしない事が判明した。


 というのも宝箱から出る魔導書は覚えるというより投機目的が主流となっており、使う人も上級探索者等の上澄みであり、下級探索者向けであった事と、万能防御魔法というどの層にも需要がありるが、魔法理論六つの基礎を習得していないと覚えることができないことと、日本語で書かれているので海外の探索者は覚えるためには日本語を習得しないといけない、翻訳すると意味が変わってしまい効力を失うという縛りから盛り上がったのは国内の一部に留まった。


 それでも多くの人達が魔法理論に興味を持ったのは事実であり、SNS上では基礎を習得し、『ノッキング』や万能防御魔法を習得できたという報告がジワジワと増えていた。


「登録者数百万人突破ありがとう!」


 私も私で登録者数百万人を突破したことで感謝のイベントを開催し、スポンサーとも協議してメテオブランド社のリュックとツクール社のパソコンやキーボード等のセット商品の記念コラボモデルと記念写真集と記念グッズの販売を告知し更に盛り上がったのだった。





「本当、ここのダンジョンは毎日合戦をしているね」


「異質といえば異質ですよね」


 ちゃっちゃと外周部の部隊を殲滅し、魔石を回収したあと、入口近くの丘の上でお弁当を食べながら合戦の様子を眺める。


 ダンジョンの外は春だが、ダンジョン内は秋の様な感じで、木々が赤や黄色に色づいて綺麗な紅葉風景が広がっている。


 リヤカーに積んできたブルーシートを広げて、女性陣が準備した弁当を食べていると


「お? 後藤さんじゃん」


 と声をかけられた。


 下のフロアに住む円堂さんだ。


 四十代半ばで上級下位。


 奥さんと高校生の息子が二人、中学生の娘が二人の六人家族だったハズだ。


「円堂さんにチームの方ですか?」


「おう、チームカツ丼のメンバーだ」


 ずいぶんと美味しそうなチーム名だが、二十年間五名のメンバーが誰も離脱すること無く中級ダンジョンで稼ぎ続ける熟練冒険者の一行だ。


 全員中年男性だが、引き締まった肉体をしている。


 ダンディーという言葉が似合う。


「ちょいと一服···」


「円堂さん達も帰りで?」


「ああ、嫌な予感がするから今日は早めに帰ることにした」


「嫌な予感ですか?」


「このダンジョンボスは二体いるんだが、太閤と将軍って言ってな。そいつ等は星持ちでも倒せないほど強いモンスター何だが時折前線にでてくることがあるんだ。···ほらあそこ」


 円堂さんが指差すとやたらと装飾が激しい鎧武者が大きな白駒に乗って前線を練り歩いていた。


「ありゃ太閤の方だな。知らないで突っ込んだ馬鹿がいるぜ」


 私も注視すると確かに探索者らしき若者達が挑んで縦に真っ二つにされたり、首が吹き飛んでいるのが見えた。


 八人のチームのうち三人が亡くなった為か、一斉に逃げ出していたが、鎧武者達に囲まれて次々に若者達は討ち取られていった。


「南無三」


「見た目だけでもヤバそうとわかりそうですが」


「普通はそうだが、若い探索者が中級になって強い魔法を覚えると万能感みたいなのが溢れ出すからな。実力差を計れるほど経験も足りなかったみたいだし」


「···人が殺されるのを見るのはあまり良い気分では無いですね」


「全くだ。だけどこのダンジョンに挑む以上見ておく必要はあっただろ?」


「まぁ確かに···でも円堂さん、嫌な予感と言ってましたが、ボスが前線に来ているのがわかったは勘だけですか?」


「鎧武者の動きとか経験則に基づくのはあるが、やっぱり勘だな。嫌な予感がしたら逃げる···長生きの基本だ」


「なるほど」


「後藤さんも帰った方がいいよ。ボスが前線に来ている以上、下手に刺激すると飛び火するから帰った方が良いぞ」


 そう言って円堂さん達は荷物を纏めて帰っていった。


 私達も食事を終えるとリヤカーを引いてダンジョンから出るのだった。

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