ママ友
マンションの公園で子供達を遊ばせる事が多々あったためか、マンションに住むママ友のコミュニティに徐々に馴染んできている。
というかこのマンションの大半の住民が探索者かその関係者であり、子育てをしながらダンジョンに潜る私に同情的である。
TSして母親になった事を気味悪がられる人も出てくるかと思ったが、案外そういう人は居らず、皆人ができているように思えた。
(椎名)華澄や佐倉響、佐藤照の三名もママ友グループに参加し子育てのコツや妊娠時の注意を教わっている。
華澄はマンションの四階にある多目的室にて定期的に行われるヨガ教室に通ったりもしているらしい。
で、私も仲良くなった奥さんが二人いる。
一人目は川嶋奥さんで、お子さんが大和と長門の二つ上の男の子と、一つ上の兄妹に上級下位の旦那さんの四人家族の人。
二人目は狐顔でモデルの様な容姿で男三人兄弟の母親の赤羽さん。
二人共二十代前半で私達チームの女性陣? と年齢が近く、お喋りしたり、ダンジョンの様子を聞いたり、子育てや料理、スーパーの特売日等の情報共有をお茶をしながらしていた。
大抵私の部屋でしているが···
「後藤さんは元男と思えないほど気が利きますよね」
「お菓子も美味しいですし、この前は良いお肉頂いて申し訳ない」
「いいんですよ! スポンサーの方から贈られてきた物で、食べきれない量だったのでお裾分けです」
この日は東横は支部の方に用事があり、萩原と松田も佐倉と佐藤を病院の定期検診に連れて行っており不在だった。
子供達は託児所や幼稚園に預けて、私含めたママ達は久しぶりのリラックスタイムである。
「生々しい話になるけど子供一人当たりの養育費用をどうするかよね···」
「私は今二人だけど赤羽さんは三人でしょ?」
「ええ、もう三人くらいは子供が欲しいから合計六千万に習い事をさせるとなるともっと必要になるわ」
「うちの旦那ももう二人は子供が欲しいって言っているから」
二人の旦那さんは二十代で上級下位に到達したエリート達のため、金銭的な余裕がある。
前にも話したが探索者はレベルが上がるほど種の保存の意思が働き、性欲が強くなる傾向がある。
子供が三、四人は当たり前の世界なのである。
「習い事ってどんなのをさせたいとかあります?」
私が質問する。
「うーん、子供がやりたいって事を私はやらせたいけど、夫のマネをして探索者になりたいって言うのなら武器の取り扱いを教えてくれるところかしら。スポーツクラブみたいに色々なスポーツをさせて体を動かして鍛えるところも捨てがたいわね」
と川嶋さんが言う。
一方赤羽さんは
「塾に行かせるわね。勉強ができれば探索者としての才能が無くても良いところに就職できるからね」
「なるほど」
そういう考え方もあるのか。
私の固有能力で大和と長門はレベルが上がりづらいという心配はしていないが、もしかしたら戦うこと自体が駄目な可能性もある。
そうなった時に勉強ができないと辛いか。
まぁ最近だと日本でも欧米のようにボーイスカウトの運動が活発化しているので、それに参加するとかもありだろう。
一番は子供が興味のあることをやらせるだろうが···
「あとはうちの旦那達が事故にあった時よね」
「探索者という職業上何が起こっても不思議ではないわよね。残された者が食べていけるためにもある程度の貯蓄と保険の加入は絶対よ」
ちなみに私も生命保険や探索者協会が加入を推奨しているダンジョンでの怪我で再起不能になったり亡くなった時に遺族に支払われる保険に加入はしている。
後者の保険の面白いところは、加入している探索者の累計換金金額からランクが決められ、ランク毎に保険金が支払われる変動性の保険だ。
今だと私は二千万から二千五百万の保険金が支払われるらしい。
まぁ大和と長門の場合、私が死んだら探索者協会が引き取って育ててくれると思うが···
保険の話から今度は幼稚園や小学校の話になる。
「川嶋さんと後藤さんは幼稚園選びは進んでいるかしら?」
「そうねぇ···私の子供は天使病だから受け入れてくれる幼稚園は限られてくるよね」
「私は北百合ヶ丘幼稚園にしようかと思ってますが」
「北百合ヶ丘ねぇ···入園試験厳しいわよ」
「先輩ママ達から試験内容は聞いていますが、北百合は行事の参加が大丈夫な方が受かりやすいって聞いていますし」
「百合ヶ丘って名前の付く幼稚園も東西南北と中央の五ヶ所あるし、保育園の数も多いからどこかしらには入れるとは思うけど」
私の場合、勉強よりも大和と長門はコミュニケーション能力を鍛えて欲しいので、人数の多い幼稚園か保育園に入れたい気持ちがある。
小学校に上がれば特別学級になって、高校まで少人数の生徒との関わりになってしまうかもしれないという考えからだ。
どこの幼稚園が良いとかの情報を持っている赤羽さんの話を真剣に聞いていると、結構良い時間になっていた。
「ああ、もうこんな時間。夕飯の買い物に行かないと」
「私もそろそろ掃除をして息子達を迎えに行く準備をしなくちゃ」
と自然解散の流れになった。
「じゃぁまた!」
「またねー!」
「また来るわね」
と私の部屋から出ていった。
私は椅子に腰を掛けると
「思考が完全にママになっとる。いや、子供は好きだったけどこうまで変化するのか?」
この体になってそろそろ二年···肉体に合わせて思考も大幅に変化していた。
「まぁ良いや。東横遅いな···長引いているのかな」
「今年卒業の混血の子供のリストだ」
「拝見します」
岐阜県だと例年十人から二十人くらいが混血の子供になり、今年も十五人の混血の子供が岐阜県探索者高等学校を卒業するらしい。
「ゴブリン、オーク、ローバ、人狼、妖狐、鬼やドラゴン···と種類だけは豊富ですね」
「学生達に後藤君が君達に接触したいと言っていることを話したらぜひともチームに参加したいと売り込んできていたよ。彼らは差別されて生きていくことが決まっているからね」
「イブキにはリストを渡しておきます。面接の会場は」
「ああ、学校の空き教室を用意しておく。そうそう、明聖側からも五名ほどリストアップが届いているが見るか?」
「···アレックス·ドナルドやシーキング·ロドリゲスという明らかに日本人じゃないのがいるけど?」
「国籍は日本人だよ。日本で出産して親達は帰国して、子供だけ置いてきぼりで普通の日本人より苦労している子だ」
「おじいちゃん、流石にこれは···」
「でも能力は確かだ。こちらでも確認は取ったが、ドナルド君はフェニックスとの混血で、ロドリゲス君はベヒモスという象のモンスターとの混血らしい。他にも各地から苦労した人がリストアップされているはずだ」
「とりあえずイブキに紹介しておきます」
「まぁ明聖社側が提示した人員は再来月以降に会うことになると思うぞ」
「わかった。じゃ来月に県内の子で、再来月に残りの五名で調整を進めておくわ」
東横はリストを見ながら今後クランに必要な人材を見ていくのだった。
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