山田と椎名の結婚式

結婚式

 結婚式当日、先に会場入りして準備をしている椎名と山田。


 私達チームのメンバーは二人に頼まれて受付をやっていた。


 成人式前に二人が結婚ということもあり、二人の高校や中学の友達達も結構な人数が参加しに来ている。


 というか探索者として一流に短期間で上がった二人の結婚式がどんな物か皆興味があるのだろう。


 式場はちゃんとしたホテルで参加人数が膨らんだので百人が収容できる様にプランを組み換えたらしい。


 まず参列した内訳だが、両名の親族が二十三名、椎名の所のダンジョンの職員が二十名、私達チーム(大和と長門は託児所に預けた)で六名、二人の恩師である教師や友人達が残りみたいな感じだ。


 山田側の親族席が少なく感じたが、椎名の親族が多い感じで、婿養子とかになる関係とかもあるのかもしれない。(実際は遠方に親族が多く、日本全体が早めの寒波襲来で大雪の地域が多く、来れない人が多発しただけだが)


 事前に二人にどれくらい予算をかけたか聞いたら約五千万もの資金を結婚式に当てたらしい。


 食事や引き出物に多くの予算を費やしたらしく、引き出物も一人当たり十万円ものカタログギフトや選べるお菓子、縁起物のセットを用意したとのこと。


「稼いでいる以上来て良かったと思われたいじゃん」


 と山田が言っていた。


 料理はビュッフェ形式だが、リトル鹿牛の150グラムステーキから、ワイバーンの肉を使ったカレー、ドライアドの果実を使ったデザート等のダンジョン食材をふんだんに使った料理が多く準備されている。


 一人当たりのクオリティだと数万···もしかしたら十万を超えるかもしれない。


 質も良いが量も多い。


 食べきれなかった料理は好きな物を選んで持ち帰ってもらうため全員に大きめの折箱も用意してくれている。


 というかスタッフに伝えれば折箱を追加でもらえるようにしてある。


 スーパーで買えるような食材ならまだしも、ワイバーンの肉とか黄金鮭のような中級上位から上級のモンスターの食材はスーパーに流れないで、料理屋等に流れるので滅多に食べることができないし、来てくれた人達にも家族がいるので、そういう人達にも幸福のお裾分けができればと新郎新婦の二人は考えたらしい。


 会場の花の数も多く、気合が入っている。


 受付が始まると親族の方やスーツやドレスを着た若い人達が入ってくる。


 若い人達はルールを調べて来てはいるが辿々しかったりし、教師と思われる初老の男性にアドバイスを貰う人も居た。


 雰囲気的には同窓会に近いかもしれない。


 卒業以来会ってなかった人達同士で盛り上がっていたり、何人かはケーナーティオで見た探索者達も居た。


「天使のイブキさん、応援してます! 山田のことこれからもお願いします」


 と言ってきた山田の友達で私のリスナーの方も居た。


 年齢的に大学生が多く、ご祝儀も封筒の結びから見て三万円以下の方が多かった印象だが、それでも彼らにとって安くは無い金額だ。


 そんな友人達が得をしたと感じられるような配慮として、男性はネクタイを変えればスーツをそのまま来月の成人式でも着用できるようにという山田なりの優しさがあった。


 また冬なので暖房がしっかりしているホテルの会場にして寒さを感じないようなプログラムにしたりと椎名も色々と考えているらしい。


 私達女性陣? が受付をして、萩原と松田の男性陣が席に案内する。


 特に遅刻する人もおらず五分前には全員が着席し、式が定刻通りに始まる。


 司会は高校の時に生徒会長をしていた人と仲が良かったので山田が頼んだらしい。


 スピーチ慣れしているのか、進行が上手い。


 新郎新婦入場が始まり、拍手の中二人が会場に入ってくる。


 ウエディングドレスと純白のスーツに身を纏った二人は少し照れくさそうにしながら会場の通路を歩き、壇上に上がる。


 ウェルカムスピーチが始まり、司会から新郎新婦にお祝いの言葉を代表して言い、新郎からもゲストの皆にお礼を言う。


 次に司会から新郎新婦の簡単なプロフィールの紹介が行われ、主賓挨拶となる。


 両家を代表して椎名のお父さんが主賓挨拶を行う。


 熊みたいな人で、腕の太さでスーツがパツパツしているが、二人を幼少期から知っているので気持ちが溢れ出して感涙が頬を伝っていた。


 そこからグラスを持ち、乾杯をする。


 白ワインも良いものを使っているのか飲みやすくさっぱりとした味わいだ。


 乾杯後食事がスタートして会場に幾つも用意されたテーブルから料理をよそっていく。


 ゲストの男性陣はガッツリ系、女性陣は少量で多くの品をよそい、食べ始めると皆料理の美味しさに驚いていた。


「すげぇ口の中で肉が溶けた」


「舌の上でプリプリした食感がこの魚からする」


「糖尿病だから優しめの料理にしたがこれは良いな」


 と皆料理の感想が自然に漏れ出ていた。


 食事が少し進んだ段階でケーキ入刀が始まる。


 ウエディングケーキは何層にも重なっている四メートルサイズの巨大なフルーツケーキで、フルーツが埋め込まれていた。


 ケーキ入刀後、ゲストの人達に切り分けたケーキを新郎新婦の二人が渡していく。


 同級生からは祝福の言葉が、恩師からは大きくなったことへの喜びを、親族からは一族になるからこれからよろしくと言われていく。


 私達チームのメンバーも


「これからもよろしくお願いします!」


「一流のクランにしましょう!」


 と二人に言われた。


 ケーキは甘酸っぱい感じでフルーツの良さが引き立っており、甘さが後味をひかない食べやすい物だった。


 ケーキよりも料理にメインを置いており、料理の邪魔をしない料理なのだろう。


 新郎新婦が中座し、戻ってきたら私達チームガイアで作ったプロフィールムービーの上映を始める。


 二人の幼少期からの成長を流していく。


 二人の関係が一気に縮まったのは社会人になってからで、元々いつかは付き合うと思っていたが、学生の間は進展がなく、社会人になったら自然消滅かと思ったら、ちゃんと結婚に進展したことに高校の同級生達は口々に言う。


 友人達によるスピーチが始まり、私の番が来た。


「探索者でチームを組んでいる後藤伊吹です。新郎新婦のお二人とは、二人が探索者になろうと悩んでいる相談を受けたところから関係が始まりました」


「動画配信者をしていますが、当時は底辺も良いところで、私の初めてのリスナーが二人出会ったので、本当にたまたまの縁でした」


「新人教育をしましたが、二人の方が最高に恵まれ、あれよあれよと上級探索者にまで成長し、今はうちのチームのエースをやってくれていることに感謝しています」


「今後も二人とはチームメイトとして支えていくつもりです。椎名華澄さんのお腹にはお子さんもいらっしゃいますので、先輩ママとしても一家を支えていきます。親族の皆さんは勿論、友人の皆さんも洋介君と華澄さんを支えて上げてください」


 とスピーチを行った。


 スピーチが一通り終わると記念品の贈呈があり、新郎新婦から謝辞をし、退場となった。


 フォーマット通りといえばそうだが、全体的に質の高い式であった。


 料理の持ち帰りは保存の効きやすい料理が人気で、大量にあった料理は殆ど残らなかった。


「凄い良かった!」


「私の結婚式もこんなのがいいなぁ」


「山田の奴椎名と結ばれて良かったよな」


「山田君カッコよかったなぁ」


「椎名さん綺麗だったなぁ」


「二人の子供が成長した頃には私は退職しているなぁ···是非教鞭をとりたかったがなぁ」


 ほぼ全員がこんな結婚式ならまた来たいと思えたらしく、新郎新婦の二人は司会を務めてくれた友人をねぎらっていた。


 私達は後片付けを手伝い、新郎新婦は親族に呼ばれ、特に山田···いや、椎名洋介は椎名の親族の男性陣に可愛がられていた。


 私達はそれで解散となり、大和と長門を迎え、マンションに帰るのだった。

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