託児所

 十二月になり、松田と萩原がチームの車の選定をカーディーラーと相談しながら、自分の車もちゃっかり購入しようとしている頃、山田と椎名の結婚式の準備が整い、結婚式の日付が決まる。


 私は私で配信機材がツクール社から届き、自宅での配信を再開していた。


「配信を心待ちにしていた皆さんこんにちは! 天使のイブキです!」


『イブキのライブだ!!』


『半月ぶりの配信待ってた!』


『火災大丈夫だった?』


「はい、新居の準備をしたり、配信機材が昨日届いたりしていたので、配信の再開が遅くなってしまい申し訳ありません!」


『よかったよかった!』


『✕✕✕』


『まーた規制コメント書き込んでる馬鹿が居るよ』


『通報しました』


『アンチも飽きないねぇ』


「さて、放火されたので今後は住居に関する情報は減らしていこうと思いますが、防犯が行き届いた部屋を借りられたので今はそこで配信しています」


『そりゃそうだ』


『ガチ犯罪の後に配信を再開してくれただけでもありがたいよ』


『犯人は捕まったの?』


「はい、捕まりました。実行犯がプロの殺し屋だったことに驚きましたが、裏に名前は伏せますが私の理論を形だけ真似して親族が亡くなった金持ちがいたらしく、逆恨み? で私を殺しに来たらしく」


『うへ! ヤバ』


『暗殺者!? 今の御時世に!?』


『日本にも居るんだそんなの』


「探索者という肉体的超人がいる以上、そういう職業になる人も一定数いるでしょう。私が狙われるとは思いませんでしたが···詳しく話すことは警察と探索者協会に止められているのでこれくらいにしておきますね」


「さて、他に色々と報告が幾つかあります。まずは、なんと! 私達のチームにスポンサーが付きました!!」


『チームにスポンサー!?』


『おめ!』


『珍しい』


「スポンサーの企業は岐阜県探索者協会、パソコンメーカーのツクール社、耐久性の高いリュックでお馴染みのメテオブランド社、岐阜県の食卓を支えるディープフーズ社、椎名の実家のケーナーティオダンジョン運営会社、そして武器防具の大手製造メーカーの明聖社です」


『チームに六社もスポンサーが!?』


『そこらのクランよりもスポンサーが付いてる!』


『底辺配信者からここまで成り上がれるのか』


『スポンサーからの資金も合わせれば億超えも目指せるのでは?』


「配信と探索者の収益も合わせれば年収が億に届くと思いますよ! 皆さんのお陰です!」


『ダンジョンでの収益で日本景気が上向いて二十年か』


『ここ二十年は昔の高度経済成長期までとはいかないけれどダンジョン景気が続いているからなぁ』


『日本の武器防具は海外でも高い評価を受けているし、日本のダンジョンでしか採掘できない鉱物を使って武具を造っているから海外に工場をというより国内に工場が建てられるのも経済に好循環を生み出しているよな』


「探索者も命の代わりに大金を手に入れられる職業なので、小金持ちが生まれやすい環境は整っていますよね···まぁ昔はスポーツ選手や格闘家と呼ばれた人達が皆探索者にジョブチェンジしたのもありますがね」


『レベル差でスポーツの技量が覆されてしまうからな』


『格闘技はダンジョンでの戦闘技能として生きているけど球技類は壊滅したからな』


『スポーツとはまた違うかもしれないが競馬、競輪、競艇のギャンブル系とモータースポーツは代わりに人気だからな』


『海外だとコロシアムがあるからな。ダンジョンで捕まえてきたモンスターを会場で探索者と戦わせる奴』


「コロシアムは経済効果から日本でも建造が進められていましたよね? 確か神奈川県の人工島と淡路島に建てられるって聞いていますが」


『五年以内の開業を目指しているらしいよ』


『カジノと併せて金が渦巻く場所になりそうだな』


『まぁ経済の起爆剤にはなりそうだから』


『人工島や島にすればモンスターも島の外に出れないからな』


「うーん、私のいる場所だと両方遠いですね···話を戻しましてスポンサーですが! ···」


 私は各スポンサーの特徴を視聴者に話していく。


 一通り話し終わると次の話題に入る。


「次の報告です! 椎名と山田が結婚することになりました!」


『おめでとう!』


『おめでた!』


『よかおめ!』


「ちなみに椎名が妊娠しているので結婚式から一、二ヶ月後には彼女も産休に入ります。仕方がないね」


『欠員が出る感じ?』


『新しくチームに誰かいれるの?』


「いや、当面は新メンバーは考えていません。今のメンバーでやりくりするのと、山田と椎名がレベルが突出していたので休んでいる間にもレベル差を埋められるようにレベリングを重視します」


 結婚の話で視聴者から私は結婚しないのとか意見が出てくるが、結婚しても良いなぁと思える人物は出てきていないので、当面は子育てに集中したいので恋愛とかは無いと断言した。


 あとは大和と長門の話題になり、最近は部屋が広くなったので、よく走り回ったり、室内用の滑り台やジャングルジム、大きな熊の人形に抱きついたりして遊んでいた。


「クマ! クマ!」


「キャッキャ!」


 ドアを開けるとそんな声が聞こえてくる。


 ちなみに配信中は東横や松田、萩原、佐倉、佐藤の五人が交代で二人の面倒を見ることになっている。


 今は東横が面倒を見てくれている。


「最近はテレビとかもよく見るようになりましたね。まだ良くわかってないと思いますが、戦隊モノとか児童アニメや昔話のアニメとかを見て喜んでいますよ」


『可愛いなぁ赤ちゃん達は』


『離乳食に切り替わったの?』


「今は離乳食が一日三食で、母乳が二回になっていますね。食べる物も乳歯が生えてきてスティック野菜程度なら食べられるようになりましたね。あ、二人はパンケーキやクッキー等にイチゴジャムを塗って食べるのが好きみたいです。他にはくまさんカステラみたいな小さなカステラも好きみたいです」


『だいぶ成長が早いな』


『蜂蜜は与えないように気をつけてね』


「はい、蜂蜜は一歳と数ヶ月超えるまでは与えないように赤ちゃんの育児の本に書かれていたので気をつけています」


「あとハイハイをしないで立ったことでだいぶ発達が早いと思います。特に足を鍛えられているのと私みたいに翼を物を運ぶために使うのではなく、翼に包まって眠る事を大和と長門はしているので私よりも翼の使い方が上手いかもしれません」


「お風呂も嫌がる子が多いと聞きますが、二人は喜んで入るので助かります」


「夜泣きも少なくて助かっています。昼間疲れるまで遊ぶと六時間は起きませんから。お腹が空いてぐずる事はありますがね」


 と近状を視聴者に報告した。


 時間を見ると一時間以上喋っていたのでこの日は配信を終了するのだった。









 結婚式の前に私と椎名はダンジョン支部にある託児所を見に来ていた。


 バスで二十分、車だと十五分でダンジョン支部に行けるのは立地として凄く大きく、バスの乗車無料券を見せてバスで今日は移動し、大和と長門も連れて託児所に行くと、五十人以上の子供達が十五人近くの職員の人達に面倒を見られながら遊んでいた。


 職員の一人が私達に説明してくれる。


「首が座り、ハイハイができる様になったお子さんからこの託児所に預けることができまして、探索者のお子さんを預かっています。保育園もありますが、どうしても人数がパンク気味なので幼稚園までここで預けたいという人もいます。この託児所では幼稚園入園の満三歳まで預ける事ができます」


「委託料金は一日五千円になります。少し値段は高いかもしれませんが、中級探索者の稼ぎから逆算された金額をしているのと、値段を高くすることで質の担保、職員の人数にゆとりを持って子供達を預かることができるのでご了承ください」


「お子さんの預かる時間は最長十一時間で、朝八時から夜の七時まで営業しています」


「食事は専門の職員五名が子供達全員の成長度合いに合わせた料理を作らせてもらっています。レストランに出るようなお子様ランチみたいなのを一歳半以上の子には出させてもらっています」


 と色々と説明してくれた。


 職員の数はまだゆとりがあり、託児所のキャパも百人は受け入れることができるらしいので、幼稚園まではここに預けることにした。


 妊婦の椎名に大和と長門を預けるのは酷だし、こういう施設があるなら活用した方がいい。


「それにこの施設を通じてママ友ができたりしますので是非活用を考えてみてはどうですか?」


 確かにママ友みたいなネットワークと繋がれるのは大きい。


 井戸端ネットワークじゃないが、ママ友の輪というのも馬鹿にできない。


 施設的にも学校の教室みたいな広さの部屋が三つに床は転んでも大丈夫なようにマットレス素材になっている。


 お昼寝の時間のお布団は毎日業者が洗濯、乾燥してくれるので清潔だし、食事も良いものを提供してくれる。


 外の広場にも遊具が幾つもあり、子供達が走り回ったり、砂場で遊んだり、シーソーやブランコ、ジャングルジムではしゃいでいる。


 先生方もちゃんと子供達と同じ目線で話してくれているので好感が持てる。


「私の子供達をよろしくお願いします」


 とりあえず口座引き落とし形式を選択し、大和と長門の登録をするのだった。

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