明聖

 明聖株式会社···約五十年前のダンジョン出現よりも前は衰退の一途を辿っていた刀鍛冶の一族が母体であり、ダンジョン出現により武器の需要増加と、ダンジョンの素材をいち早く利用したことで会社の規模を拡大し、今では多くの職人による比較的安価で高い性能と堅実なデザインでライバル社がとにかく多い武器防具製造メーカーで十指の中に毎年入っている大手企業である。


 そんな企業からのスポンサー契約であり、多くの上級探索者達やクランが望んでもスポンサーになってくれないレベルの大企業だ。


 私達が部屋に入室して待っていると優しそうな男性と狐の様な女性、サングラスをかけたスキンヘッドの男性が入室してきた。


 私達は席を立ち、彼らに挨拶をする。


「チームガイアのリーダーをしている後藤伊吹です。本日はよろしくお願いします!」


 メンバーの皆も挨拶をしていく。


「明聖株式会社の人事をしている坂田です。本日はよろしくお願いします」


「明聖株式会社所属クラン白狐組の組長の朝倉といいます。よろしくね」


「明聖株式会社所属クラン、重鬼組のリーダーの伊達だ。よろしく頼む」


 ボソッと東横が私に耳打ちをする。


「女性は星四探索者の朝倉緑子さんで、スキンヘッドが星二探索者の伊達晴元さんです」


「星持ちねぇ···」


 私は二人を興味深そうに眺めると、二人は殺気を飛ばしてきた。


 佐倉と佐藤が萎縮するが、それ以外の面々は殺気を軽く受け流す。


「へぇ···効かないか」


「坂田、こりゃ当たりだぞ」


 伊達さんが坂田さんにそう言うと、坂田さんはニコニコしながら


「私の眼力に間違いはないんですよ」


「よく言いますよ。良くて七割弱でしょ。あなたの人を見抜く力は」


「ははは、手厳しい」


 朝倉さんも坂田さんに突っ込むが、坂田さんは笑っていた。


「さて、後藤君···いや、天使のイブキの方が親しみやすいからイブキ君と呼ばせてもらうが、明聖社では西日本に五つのクラン、東日本に四つのクランをスポンサーとして支援していてね。東日本側の五つ目のクランとして君達チームガイアを選ばせてもらった」


「ありがとうございます」


「なぁそもそもクランの役割ってイブキの所はしっているのか?」


 伊達さんが私達に聞いてくるが


「お恥ずかしい話ですが、チームを立ち上げたばかりでクランの事までは理解できていません! 企業がクランに求めることってなんですか!」


「おお、ド直球に来たな···俺から答えて良いか?」


「たのんだわ〜」


「お願い伊達さん」


「おう、企業がクランに求めることは企業宣伝もそうだが、クランが見つけてきた資源や素材、マジックアイテムの優先購入権が付与されることだ。例えば明聖だとダンジョンで採集される金属をとにかく集めている。チームのイブキの所にはまだ他の企業からその話は言われていないと思うが、クランになると企業側から取ってきてもらいたい素材や資源をクエストとして依頼される。それをこなすことで企業側から信用を得られるんだ」


「企業側と仲が良くなればさらなる支援をしてもらえるし星持ちの条件を満たすことにも繋がる」


 私は伊達さんに質問する


「星持ちの条件? レベルと各種ランキングで決まるのでは?」


「モンスターを倒した数の討伐数、レベルの高いモンスターを倒した高位討伐、ダンジョンでの救援要請の成功数の救援成功率、半年間で倒したモンスターの素材の総売却金額の四冠だろ? もちろんそれもあるが、他にも企業貢献度やスポンサー企業の規模も星の数に影響してくる」


「そもそも探索者協会の運営には各企業からの多額の献金で成り立っているんだぞ。そこはギルド関係者のイブキは知っていると思うが···うん、知らなかったんだな」


 私は鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていたので伊達さんが更に詳しく教えてくれる。


「企業側の献金や取引額で探索者協会以外にも星を付与することができるんだよ。俺やそこの女狐も初めは明聖に星を付与してもらうところから始まったからな」


 ここに坂田さんが補足を入れてくれた。


「イブキさんみたいに探索者協会とズブズブ···認知されていれば良いですが、探索者協会も上級探索者を全員把握しているわけではありませんから···実力があるのに営業が下手だったり、チームメイトばかり目立ち、埋もれてしまった人材がいることもありますからね」


「俺も自分のクランを持つ前はチームの荷物持ちからスタートしているし、女狐はチーム運が悪くて安定するまで七回もチームが何らかの理由で崩壊しているからな」


「ハゲ、女狐言うな。私にも調停をしなかったり、守りきれなかったりと落度はあるけどね···まぁ悪名ばかりが募っていたところに坂田の上司である人に拾われたんだけどね」


 坂田さんが更に言うには


「明聖の東日本側のクランは育てて育ったら利益を貰うというスタンスです。チームガイアさんを選んだのはイブキさんの話題性と山田さんと椎名さんの成長力、探索者協会とのコネが太い等の理由です」


「クランのランクが上がれば上がるほどメディア等にも取り上げられていきますので、昔のスポーツチームの様な影響力があるんですよ。なのでそれのコラボグッズを作ったり、イベント等で集客しつつ、会社のイメージも上げてもらえれば幸いです」


「明聖は初期の混乱期はともかく、凄く堅実を売りにしてきた企業だからそれは忘れないでくれよ」


 と伊達さんに釘を刺された。


 言われなくても守るが···


 坂田さんから全員に契約書を回され、私達はサインと印鑑を押し、明聖のスポンサーは決まった。


「あとここだけの話だが企業がクランを使って他社の契約を取ってきたりクランの人気探索者を引き抜いてクランのイメージを落としたりとかもある。探索者は良くても企業の方がダメージを受ける場合も考えて行動してくれると嬉しい」


 そう坂田さんに言われた。


 今後坂田さんが私達との連絡役になるらしく、岐阜県の支部で待機してくれるらしい。


 ちなみに伊達さんは新潟から、朝倉さんは石川県から私達の為にわざわざ来てくれていたらしい


「なに、会社の金を使った旅行だ。気にすんな」


「私達はこのまま名古屋に行って観光するだけだからね〜坂田じゃぁね〜」


「くぅ、いいもん、岐阜で美味いもの食ってやる! イブキさん、ここらで美味いもの知らない?」


「私はここら辺に土地勘が無いので東横、松田、萩原···なんか美味しいとこ知らない?」


「キムチオムライスの店がありますよ」


「スゲーのが出てきたな」


「キムチチャーハンをオムレツで包んだオムライスですね。美味いんですよこれが」


 萩原の提案で朝倉さんと伊達さんも含めて行くのだった。


 ちなみに想像以上に美味しく、キムチの辛さをオムレツが緩和してくれるのでとても食べやすかった。








 翌日、旅館生活も終わり、メアリーヒルズに引っ越しである。


 荷物が届く前に各自、下の階に挨拶巡りをしていく。


 マンションの上の階に住んでいるので金持ちか上級の探索者の家族が多く、私の事を知っている人もちらほら居た。


 中にはクランを創った際には息子や娘をお願いしたいという人も居た。


 そんなこんなで業者が来る時間となり、家電の運搬を業者が、家具類を私達が運んでいく。


 ベッドを組み立てたり、本棚やカラーボックスを組み立てたり、萩原の本を本棚に入れていったり、しているとあっという間に夕方になっていた。


「終わったぁー!」


「疲れたー」


 引っ越しが終わり、一息ついた後、全員でパーティーを私の部屋で行った。


 東横が持ってきたホットプレートで肉を焼き、刺し身に焼き鳥と漬物でビールや日本酒を飲む。


 椎名はお茶だが、皆で飲酒するのは初かもしれない。


 ワイワイ二十二時頃騒いで解散したが、飲み足りないと萩原、松田、佐倉、佐藤、東横の五人はそのまま繁華街に飲みに行ってしまった。


 ···翌日東横だけが部屋に来て


「あいつらそのままホテル行きやがった。私だけ取り残されたんですけど!」


「···いや、東横はギルドナイトの良い男を捕まえてくるんでしょ?」


「それは···それは! そうなんだけど!! なんか負けた感じがする!」


 可哀想に思えた私は東横に朝飯を作ってあげるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る