メアリーヒルズ

「おはよー」


「おはよう」


 翌朝、山田と椎名が旅館に合流し、東横守さんを皆で待つ。


 するとマイクロバスを運転してきた守さんに乗れ乗れと言われ、私達はバスに乗り込む。


 旅館から車で二十五分、昨日Dマンションと言ったマンションに到着する。


 マンション名はメアリーヒルズと言い、十四階建てで駐車場の広さも申し分ない。


 敷地内には遊具付きの公園があり、周辺にはコンビニとドラッグストアに、レストランと食堂が入った飲食ビルが建ち並んでいる。


 バス停が本当に目の前にあり、バスの本数も十分に一本と多く、路線も駅や探索者支部や学校、病院に大型スーパーや近場のダンジョンと探索者に必要な場所は軒並み揃っていた。


 入口の自動ドアから中に入ると綺麗なエントランスが広がっており、フロントスタッフが待機していた。


「いらっしゃいませ。チームガイアの皆様ですね。本日案内を務めさせていただきます松井です。普段はフロントスタッフをしておりますのでよろしくお願いします」


 と挨拶された。


 エントランスはロビースペースとフロントの他に宅配ロッカーがあり、宅配物をそのロッカーで受け取ることができる。


 フロントでは郵便物を出したりクリーニングを頼んだりコピーのサービスをしてくれるらしい。


 二階以降が居住する階層になっており、エレベーターはキーカードと顔認証で上の階に上がれるようになっている。


 今回は松井さんが案内してくれるのでエレベーターに全員が乗り込む。


 一番上の階である十四はラウンジスペースになっており、定期的に交換される本や雑誌を読みながら外の景色を見ることができるようになっている。


 コーヒーサーバーやドリンクバーが設置されており、本を読みながらコーヒーやジュース、お茶を飲むことができる。


「おお、ここから百合ヶ丘を色々見ることができるんだね」


「あっちが学校で支部があっち、駅があそこか」


「グルっと壁際は本棚になっているんだね」


 そのまま一つ下の階である十三階が私達に割り振られる階層で、部屋は三LDKの角の部屋が四箇所、二LDKの部屋が四箇所の合計八部屋が私達のチームが使って良い部屋らしい。


「え? こんなに使っていいんですか?」


「はい、ただ前に住んでいたクランが移動した為空いてしまったんですよね。その為探索者協会が買い取り、協会がスポンサーとなったクランやチームに貸し出しているのです」


 部屋の中を見させてもらうとリビングダイニングが十二畳、キッチンが三畳半、個室が一部屋六畳となっていた。


 参考にだが前住んでいた安アパートは一DKで、全部トイレや風呂場等を全部合わせて十二畳である。


 リビングだけでその広さを超えている。


 トイレもウォシュレット付きだし、お風呂はユニットバスではなくまさかの円形のジャグジー。


 広々としており、シャワールームも壁で囲われている。


 バスルームから出ると洗面台のある洗面室になっており、大きな鏡は開けると内側が収納スペースになっている。


 勿論洗面台の下も収納スペースで物を置く場所には困らなさそうである。


 キッチンに戻り、色々と確認するとコンロは三つのベーシックタイプのシステムキッチン。


 これに洗い場の蛇口はノズルが伸びるので隅々まで洗うことができる。


 洗い場の横にも小物が置けるスペースがあり、食器乾燥機が置けそうと思った。


 皆部屋を見て大興奮である。


「え? 本当にこんな部屋を使って良いんですか!」


「はい! ご自由にお使いください」


 興奮が冷めぬまま部屋を後にし、八階に降りるとそこにはランドリースペースがあり、住民が使える大型洗濯機と乾燥機が数台常備されていた。


「これも無料で?」


「はい、自由にお使いいただけますが、泥や血で汚れている物は入れないでください」


 と言われた。


 あとは二十四時間のゴミステーションと、探索者が多く住む関係か、駐車場近くに装具を洗え、整備する場所と武器類の保管用ロッカーが指定されており、マンション内に武器は持ち込み禁止、防具は許可された物は持ち込みOKとのこと。


「はい、もう決定、ここに住みます!」


「超優良物件過ぎる···ちなみに家賃は? 守さん」


「流石に全額支給はキツイから一部屋当たり月五万だな」


「八部屋だから月四十万···ん? あれ? 他のスポンサーから資金援助があるんだよね?」


「あぁ、明聖が月百万、メテオブランドが月二十万の支援金が支払われるな」


「余裕やん」


「スポンサー切られても月四十万は中級探索者なら稼げる金額!」


「ここにします!」


 住居は決まったが、チームとして動くのに必要な物が存在する。


 チームの口座である。


 今後収入の数パーセントはチームの共同資金として貯めていく事を決め、その口座を作りに探索者支部と提携する銀行に作りに行った。


 私達みたいにスポンサーがすんなり付けば良いが、付かなかった場合銀行から融資を受け取る事もある。


 そのローンを支払うためにダンジョンに潜り···という循環になることもある。


 そう考えると私達は恵まれている。


 一度旅館に戻り、全員で今後の予定を決めていく。


「入居手続きの関係で一週間はこの旅館生活が続くけど、家具とか家電は手続き後に届くようにしないとね」


「まず家電とかの買い物をして、次にスポンサーへの挨拶回りをして、入居して、小物を整える感じになるかな」


 私の言葉に皆が頷く。


「一気に生活水準が上がったけど、金銭管理は気をつけながらいきましょう!」


「あ、あと俺から話が」


 山田が話をする。


「ダンジョンアタック再開がたぶん生活が落ち着いてからだから一ヶ月後とかになると思うからもう少しダンジョンのアイテム系を整理しないか」


「整理とは?」


「まず車だけど全員が乗れる様にするならマイクロバスとかの方が良いだろ。一応探索者協会から東横が借りているけど、汚しちゃうから移動用の車を買ってミニバンは返した方が良いと思うんだよな」


「それはそうだね」


「ただ車は金額が高いからダンジョンに潜りながらにしよう。経験値が稼げるダンジョンも良いけどせっかくダンジョン都市に住めるんだから人気の稼げるダンジョンにもいこうぜ」


 山田の言うことは最もである。


「次に一ヶ月以内に俺と(椎名)華澄は式を挙げることにする。それからでも良いか?」


「私は良いよ。皆も良いよね」


 誰も否定しない。


「ありがとう。あとは短期で取れる免許取得をしないか?」


「免許?」


「モンスター調理免許みたいに長期間かかるやつは流石に今は無理だけど、モンスターの解体の初級免許なら数日で習得できるし、将来クランを運営するならクラン会計士だったり新人育成の教官免許とか無くても回るけどあったほうが便利な免許が色々あるからそれの勉強を始めておかないか?」


 山田の言うことは確かにと思った。


 クランを運営するには必ず一名以上のクラン会計士の資格を持つ人物が必要になるし、クランに初級探索者を入れる場合三級教官免許が必要だ。


 他にもあれば便利な資格は山程あるし、なによりそういう勉強を教えてくれる塾や講習所がダンジョン都市内に必ず一箇所はある。


 せっかく移住するんだから使える施設は使うべきだ。


「逆に今皆が持っている資格ってなんだ?」


 松田が聞くと全員が持っているのは当たり前だが探索者の資格と、マニュアル車の運転免許、私と男共が中型以上の免許を持っていた。


 で、東横が事務系の資格を幾つかとアイテム鑑定士三級の免許を、佐倉が医療治癒士の免許、佐藤がモンスター調理師免許を持っていた。


「東横はこのチームやクランに居る年数が決まっているからあれだけど、椎名と佐倉、佐藤がクラン会計士免許や事務系の免許を、私は教官免許を三級じゃなくて二級を目指す。男共はモンスター調理師免許と三級の教官免許習得を目指そうか」


「···あれ? そういえば忘れていたけどこの前宝箱から出た薬品の鑑定ってしたっけ?」


「ああ、それなら口座を作っている時にしてきたよ」


 と東横が鑑定結果の書類と箱に入った薬品を出す。


「植物の成長剤でこれを使うと植えたての木の苗が翌年には果実が実るくらい急成長するらしい。薄めて使えるし、量的に三十回分だから値段は九十万の品」


「なら売って良いな。その資金はそのままパーティー資金で良いよな」


 萩原が言う。


 異議は出ない。


 こうして色々な準備が始まるのだった。

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