ケルベロス三兄弟
大家さん一家に面倒を見てもらっていた大和と長門を迎え、アパートに帰って料理の準備を始めた。
そろそろ十一月···気温も低くなるため子供達が風邪を引かないように用心しないといけない。
「今日はお鍋にしようかなぁ」
私が料理を作っているとピンポーンとチャイムが鳴った。
「はーい」
私がのぞき穴から外を見ると宅配屋が小荷物を抱えて立っていた。
「ごめんください。宅配です!」
私は特に気にすること無くドアを開けると宅配屋が荷物を渡してきた。
「サインの方をお願いします」
そう言って私にサインの用紙を差し出した時に、殺気を感じた。
私はその方向に防御魔法を展開するとガンと何かが高速で防御魔法にぶつかった。
「な!?」
私が驚くと、宅配屋の男が袖に忍ばせていたナイフを繰り出す。
私はナイフをギリギリで回避すると天井に張り付いて状況を整理する。
「何者」
「···」
宅配の服を着た男は何も答えない。
「敵襲!!」
私は思いっきり叫ぶが音が何故かかき消される。
落ちた荷物から何かが飛び出している。
三角形の頂点に丸い球体が付いている何かだ。
何なのかわからないが声をかき消す効果があると見て良さそうだ。
「ちい!」
家の中の子供達の事も気になる。
今わかっている人数だけで宅配の男と狙撃をした男の二人。
もしかしたらもう数人居てもおかしくはない。
手口からして彼らは殺し慣れている。
「声がかき消されるのなら!」
私はライトアローを外の通路にある消火器の入った箱にぶつける。
するとバンと大きな破裂する音と消火器から大量の消火液が噴出した。
声以外の音ならばもしかしたらと思ったが···どうだ。
バタンとドアが勢いよく開き、東横が飛び出した。
私が天井に張り付き、宅配の男がナイフを持っているのを認識すると東横は宅配の男に攻撃を加えようとする。
私はサーチを全開にし、八百メートル先にこちらを狙っている存在と、アパートの裏から私の部屋に侵入しようとしている存在に気がついた。
遠方より私を狙っている人物に向けてサンレイを放った後、そのまま部屋に戻り窓を開けて裏から襲撃しようとしている者を攻撃する。
「あっぶねぇ。あの距離、夜の暗さの中で俺を正確に当てに来るとはな」
ケルベロス三兄弟の長男、狙撃のコウがそう呟く。
当人は対魔法装甲の車を盾に狙撃をしているが、イブキのサンレイにより車の扉が大きく凹んでいた。
「五千万した特注の車だぞ···中級と聞いたが魔法の威力が桁違いじゃねぇか」
コウが再びスコープを覗くとイブキが消えて、宅配屋の役をやらせている次男のサイが素手の女と殺り合っていた。
「ちい、声をかき消す魔道具を宅配の荷物に紛れ込ませ、強い衝撃で発動するようにしたが、どういうわけか仲間を呼ばれたか。まぁ良い。俺は出てきた奴から始末するだけだ」
二人が至近距離で戦っているため直接的な攻撃はできないが
「そらよっと!」
発砲してアパートに伸びている電線に当てると断線して、明かりが消える。
「次はこれだな」
ガスボンベをぶち抜き、プロパンガスが爆発する。
アパートに引火し、火が上がる。
「さぁ穴熊はできねーぞ」
俺は銃を持って、裏から回ってイブキの部屋に突入し赤ん坊を殺害する予定の三男デーブをアシストするため移動を開始するのだった。
「爆発!」
「おらよぉ!」
拳銃を持ったデブと対峙している私は防御魔法で弾丸を防ぎながらどう無力化するか考えていた。
目の前で二丁の拳銃を発砲する太った男は実弾と魔法の弾丸を織り交ぜることでリロードのタイミングをわからなくしていた。
拳銃が魔法の媒体になってもいるっぽい。
「おらおら! 守ってばかりじゃ俺が勝っちゃうぜぇ!」
防御魔法が弾丸を防いでいるが、ジリジリと押されている。
「下がったな!」
男は私の部屋の横にいつの間にか移動しており、銃口を部屋にいる長門に向けていた。
私は部屋を守るように防御魔法を展開したが、私を守っていた防御魔法が解除される。
男は二丁のうち片方を私に向けて発砲する。
「くっ!」
咄嗟に翼を前に出すと、まさかの翼は弾丸を貫通せずに受け止めた。
これには男も焦る。
決まったと思ったら防がれたのだから。
動揺した瞬間に男の頭上にサンレイを展開し、両腕をサンレイが撃ち抜いた。
「···?」
男は手首から先が消えて無くなったことに気が付き、悲鳴を上げて失禁しながらも逃げようとする。
私はライトアローで男の足を撃ち抜き、行動不能にさせる。
プロパンガスが爆発した音でアパートの住民達も異変に気がついて部屋を出てくる。
松田と萩原は東横が何者かと戦っていることを認識すると武器を手に取り、参戦した。
戦闘能力の無い榊原は警察と消防に通報し、東横の戦闘の映像を携帯で録画する。
佐倉と佐藤はイブキの部屋に駆け込んで赤ん坊達を回収して車に投げ込み、貴重品等を外に投げていく。
松田と萩原が参戦したことで数的劣勢になった襲撃者は逃げようとするが、その一瞬の隙に東横が体に触れて氷像に変えた。
「ち、デーブの奴しくじりやがったか」
ここに居たらヤバいと察知したコウは車に飛び乗り、逃げようとしたが、イブキが複数箇所からのサンレイで車を破壊し、行動不能にしてしまう。
ボコボコにフレームが歪み、ドアが開かなくなったことで車の中に閉じ込められたコウは自身の失敗を悟り、懐にしまっていた拳銃を口に咥えての引き金を引いた。
車だった物の中で血液や肉片が散乱するのだった。
東横が火の鎮火を直ぐにしたが、アパートは半焼してしまい、警察や消防が来て事情説明を受ける。
襲撃してきた氷漬けにされた男と両手首を失った男が連行される。
私達も事情聴取の為に連行され、警察署にパトカーに乗って移動した。
警察署では榊原さんが録画した動画と現場から拳銃や狙撃銃が発見されたこと、錯乱していた太った男に警察がダンジョンの素材で作られた自白剤を飲ませると自身の犯行や聞いてもいない依頼人まで話し始め、私達が被害者であることが確定した。
ただダンジョン以外での魔法の使用で厳重注意を受けたが、暗殺されかけたということで罰則は無かった。
東横守さんも探索者支部から駆けつけ、私達から事情を聞き、無事であることに安堵していた。
一応皆の貴重品は佐倉と佐藤のお陰で無事であったが、アパートが半焼してしまったので住むことができなくなってしまった。
大家さんに連絡したところ、最初に無事であった事を安堵された後、アパートは気にしないでと言われた。
「火災保険が今回のは降りると思うし、元々古かったからもう十年もしないうちに壊そうと考えていたから気にしないで。それよりも住む所とかどうするの」
「どうしましょう···ちょっと探索者協会とかと相談します」
東横守さんと相談した結果、探索者協会が保有する宿泊施設に当面は使って良いことと、襲撃が実際に起きてしまった為、ダンジョン都市の百合ヶ丘への引っ越しが進められた。
一応東横守さんが幾つか物件をピックアップしていたが、警備レベルが高いほうが良いと、数日後に新居を紹介すると言ってくれた。
巻き込んでしまった皆に謝ったが、チームの皆は大丈夫と言ってくれて、榊原さんも
「なに、貯金が全部吹っ飛んだわけじゃねぇからな。パソコンは逝ったがタブレットやスマホが無事だし、金はあるからな。当面は俺も探索者協会が住む所を提供してくれるから新しい住居を探すことにするよ」
と言っていた。
こうして私達は古いアパート生活から百合ヶ丘のダンジョン都市に移住することになるのだった。
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