不人気ダンジョン 二

「こことここの壁には触れないでください」


 私の名前は佐藤照、自身を優秀な探索者だと思っていた者だ。


 私はトラップ解除をしているが、戦闘面でも役立てると思った矢先、格の違いというか上級探索者との差をまじまじと見せられた。


「ここの空間は安全です。一旦休憩にしませんか?」


「よ~し、じゃぁ休憩」


 イブキさんの号令で休憩となり、私はいそいそと水を生み出すマジックアイテムのポットでお湯を出し、全員分のお茶を用意する。


「温かいお茶だ! ありがとうね佐藤!」


「気遣い完璧じゃん」


「助かるよ〜」


「いえ、戦闘ができてないのでこれくらいは」


「いや、今日一番働いてるのは佐藤だから気を使わなくて良いんだよ。もっとも肩の力抜いて楽にしなよ」


 とイブキさんに言われてしまった。


 お茶をチビチビ飲んでいると佐倉さんが横に座って


「イブキさんが育てたメンバー皆凄いね」


「ええ、私達が居なくても連携が完璧でしたから余計に···自信無くしますよ···これでも自分優秀な探索者だと思ってたのに」


「いやいや、佐藤ちゃんは十分に優秀だよ。私は佐藤ちゃんみたいに罠の警戒とかもしてないから」


「でも佐倉さんは戦闘でしっかり役立っていたじゃないですか···私立ってただけですよ」


「若いねぇ若いよ」


「確かに佐倉さんよりは若いですが」


「おん、喧嘩売ってる? ···いや、隣の芝は青いっていうみたいに他人のできる事を羨むのは仕方がないけど、佐藤ちゃんは自分の役割に徹すれば良いよ。戦闘面はイブキさんに魔法を教えてもらって、それを鍛えたりすれば良いじゃん。不得意を得意にする必要はない。得意を更に伸ばせば皆の穴が埋められるんだから」


「達観してますね」


「そりゃ社会経験が違うもん。···でも楽しいでしょ?」


「それは勿論。憧れの人が目の前にいて肩を並べて戦えていますし」


「なら良いじゃん!」


 佐倉さんが私の背中をバンバンと叩く。


「お互いにこのチームの新入り同士仲良くいこうぜ!」


 そう言って佐倉さんは萩原さんの近くに行ってしまった。


「何か悩み事?」


 松田さんが近づいてきた。


「···あの」


 私は不安点や自身の不甲斐なさをぶちまけるが、松田さんは笑いながら


「それを言ったら俺のほうが役立ってね〜よ。でもな。ここにいる人は誰が欠けてもこう上手くはいかないと思うんだ。山田と椎名は戦闘能力は高いが罠解除が苦手、東横は卒なくこなせるが近接が苦手、俺や萩原は遠距離が苦手、後藤さんはレベルが低い。それぞれ何かしらの欠点があるんだ。戦闘が苦手でも別に気にするなよ。俺等が守るから、佐藤は佐藤の仕事をしてくれ」


「ねぇ、佐藤じゃなくて照って呼んでよ」


「じゃ俺も松田じゃなくて歩で呼んでほしいな。俺正直お前が好みのタイプ何だわ」


「···今度デート連れて行って。映画が良い」


「お! 映画かジャンルは?」


「家族ものが良い」


「了解しましたお嬢様」


 出会って数週間だけど私も歩の事が気になって仕方がない。


 彼に慰めされて少しうれしかった。









「···ねえ、東横」


「なにイブキ」


 休憩中、山田と椎名、萩原と佐倉、松田と佐藤がイチャイチャしているのを見て少しモヤモヤした気分になってくる。


「すっごい皆恋愛してる! 羨ましい! 私もああいうのに憧れる!」


「それはそう。ただあんたの場合男なのか女なのか判断に困るわ! 男と付き合えば精神的BLじゃん、女と付き合えば肉体的百合じゃん。あんたにそういう未来はねぇ!」


「う、うぎゃぁぁぁ! 天使病による性転換による弊害がァァ!」


「あ、私は将来が約束されてますので有望そうなギルドナイトの人か実績あるお兄さん捕まえて籍いれるんで」


「裏切り者め!」


「いや〜惨めだねぇ〜やーい恋愛敗北者〜」


「うるせぇ、恋愛経験無しで子供を授かるとか業が深すぎるんだよ〜! 小説でもこんな惨めなキャラいねーよ」


「恋愛に一切発展しない主人公とか見ててキツいわな」


「ちくしょう···さ、切り替えるか! 休憩終了! 先に進むよ!」


「切り替え早! ···はいはい、行きますよ!」








 過疎ってる不人気ダンジョンなだけあり、三時間進めば宝箱が普通にあるわけで···佐藤がトラップが無いか確認をする。


「イブキさんは触れないでください」


 東横に釘を刺された。


「ええ〜なんで~」


「なんでも何もあんた宝箱直近はどうだった?」


「孕ませのイヤリングでした」


「その前は?」


「天使病のガスです」


「二度あることは」


「三度あります···」


「ということで開けるのはその道のプロの佐藤に任せましょうね〜」


「はい···」


 ということで佐藤に宝箱を開けてもらうと、中から出てきたのは液体の入った瓶だった。


「···東横さん、これ」


 佐藤が瓶を差し出したので東横が受け取り、横から私も見る。


「瓶の開け口が金色のリンゴだね」


「···類似品の毛を生やす薬はリンゴではなく葉っぱだけだけど···これは果実が実っている?」


「誰か飲む?」


「いや、普通に鑑定してからにしましょうよ」


「いや、ボケたつもりなんだけど」


「イブキさんが言うと冗談に聞こえないっすよ」


「本当本当」


 山田と椎名がうんうんと頷いている。


 解せぬ。


「とりあえずもう四時間潜っているから帰ろうか。モンスターの湧き方が凄いから当分間引きしないと溢れるよこのダンジョン」


「一応協会の方にも報告しておきます。私達が潜っているから間は大丈夫ですが、それ以降はわかりませんからね」


「溢れたら面倒くさいからねぇ。ここら辺は近隣に住宅地も無いから被害は少なそうだけど、中級のモンスターが溢れるのは一般人からしたら軍人が襲いかかるのと同じくらい危険だからね」


 帰路についたが少し時間が経過したらモンスターがまた大量に湧いていたので倒していく。


 結局八時間ダンジョンに潜っていて、私や上級組はレベルが二回、中級組は三回上がった感じがするのだった。







「ご利用ありがとうございました」


 換金所から出て、お金を分配しながら今日の反省点を言い合う。


「結局ゴブリンポーンやゴブリンナイトからマジックアイテムは落ちなかったね」


「マジックアイテムが出れば各自二十五万は超えただろうな」


 結局合計の買取金額は約百三十八万円で各自に渡る金額は十六万とちょっとだった。


 中級ダンジョンの収益と考えるとべらぼうに安い。


 ただ過疎って私達以外にはダンジョンの大きさの割に入場者が数組しかいなかったので経験値効率を考えるととにかく良い。


 経験値の仕組みも人の才覚に左右されてしまい統計が取れないので、本当にモンスターを倒せば経験値が入るのかどうかという疑問が付き纏うが、私の場合マーちゃんこと辻聖子からレベルアップの仕組みも教えてもらっているのでマーちゃんが間違ってない限り、ダンジョンでモンスターを倒し、一定範囲にいる人には魔物がダンジョン内で倒された時に出る特殊な魔力を浴びることで経験値が蓄積し、レベルアップに繋がる。


 呼吸法を極めればその特殊な魔力の吸収効率も上がり、レベルアップしやすくなるらしい。


 だから私の固有能力のレベルアップの必要経験値ダウンと呼吸法による経験値獲得量上昇が組み合わさると、一日に複数レベルアップみたいな感じになる。


 あと私の固有は付与する形だが、私と共に戦った方が固有能力の効果が強まるらしい。


 人数制限は特に無いので、八名でレベリングをすればあっという間に上位に行くことができるだろう。


 宝箱から出た薬は東横が後日支部にて鑑定すると持ち帰った。


 今日はこのまま解散となり、私達は帰路に就いた。


 明日は配信をしながらのダンジョンアタックでレベリングを行おうと決めるのだった。


 夜に一騒動あることを知らずに···



--------

追記

【閑話】は新事実があるので読んでおいて損は無いハズ···

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