中級

中級

 オークのダンジョンに週三で通い、他のダンジョンに週二でアタックし続けること約三ヶ月、季節は夏真っ盛りの八月。


 子供が産まれたのが三月だったのでかれこれ五ヶ月が経過していた。


 大和と長門はずいぶんと早く寝返りができるようになっていたので離乳食を七月段階で始めていたが、まぁ好き嫌いしないでよく食べること食べること。


 離乳食なのでお粥の様な物だし、食事の半分はまだ乳を飲んでいるが大きな進歩である。


 まぁ夜泣きが始まり、最近寝不足気味であるが···。


 そんな夏のある日、私が食事を作って東横が子供達と遊んでいると


「うぇー!?」


 と東横の声がした。


 何事かと振り向くと大和と長門が立ち上がって歩いている。


「え? ハイハイは?」


「ハイハイすっ飛ばして歩いてる!?」


 私も東横も困惑であるが、触ってみるとカラクリがわかった。


「あ、浮いて起き上がってるように見えるだけね」


 全然足に力が入っていなかったが、私達が歩いているのを真似しているっぽい。


 歩き方も恐る恐るみたいでぎこちなく可愛い。


 数歩歩いたフリをするとステーンと転んでしまいうわぁぁぁーんと泣き出してしまった。


「ハイハイ、頑張ったね」


 二人を抱き、ほっぺをスリスリすると泣き止んでキャハハと笑い出した。


「でもこの調子なら成長めちゃくちゃ早そうですね」


「そうだね。浮いているとはいえ立てる様になったからね。つかまり立ちの前に立ったからなぁ」


 ベッドに赤ん坊達を寝かせて、ミルク作りを再開する。


「最初はどうなるかと思ったけど立派にママやってるねイブキは」


「パパであり、ママだからね。この子達の為に頑張らないと」


「そういえば松田と萩原が来ませんね」


「あー、あの二人は休み与えたから多分遊んでるよ···風俗行くって言ってたし」


「はぁ···あのバカ共は」


「ガス抜きしないと···ただでさえここ娯楽が少ないんだし、私や東横みたいな美女が近くに居たらそりゃ性欲も高まるもんよ」


「自分で言いますか?」


「まだ私の男の部分は死んでないからね。男の気持ちもわかるから」


 ちなみに男の頃は金が無くてそんな場所に行けなかったから童貞ではあったし···ん? 童貞処女で子供孕んだのか? 


 更に闇が深くなったぞ···私···


「でも探索者と花街は切っても切れない関係だよ。どうしてもダンジョンは命のやり取りをする場所だから気持ちが擦れていくから心の休憩が必要だよ」


「いや、週五で潜っている人に言われたくはないよ」


「アハハ、そりゃそうだ。でも東横も発散はしっかりしないと駄目だよ」


「···はい」







 お盆休みが終わり、クラゲが大量発生したというニュースが世間を賑わせている頃、私のレベルが遂に三十に到達した。


「うぅぅぅしゃい!」


 簡易測定機に三十とちゃんと表示され、これで探索者証明証を更新すれば晴れて中級探索者だ。


 予定よりも早いのはオークのダンジョンでバンバンオークを倒していたからだろう。


 それに嬉しいことはもう一つ···


「山田、魔法を放ってみて」


「···いきますよ!」


 山田が放った火炎の魔法を私は右手を前に出し


「シールド」


 私の前に正立方体のキューブが複数個出現し、集まって菱形モドキに形作ると火炎の玉がシールドに当たってかき消えた。


「次は椎名!」


「いきますよ! ウォーターカッター!」


 水の刃が襲いかかるがそれがシールドに当たるとバシュバシュと水が硬い壁に当たるような音がしてかき消えた。


「最後、東横サンレイを」


「サンレイ!」


 東横から放たれたサンレイがシールドに命中すると光が上下左右に分散され、私には全く影響がなかった。


「···よし、じゃあ萩原ハンマーで思いっきり叩いてみて」


「おう、いきますよ!」


 萩原がハンマーを叩くと最初はガキンと金属同士がぶつかる音がしたが、数回叩くとバキバキとヒビが入り、七回目でバリンとシールドが崩れた。


「物理強度も申し分無し···できたぁ! 万能防御魔法!」


 便宜上シールドと呼んでいるが、万能防御魔法である。


 結界の魔法、障壁の魔法、物質を浮かべる魔法、展開箇所を決める魔法、魔法を減衰する魔法、物質を接続する魔法、魔法を透明にするの魔法の計七つを組み合わせた大魔法である。


 消費魔力量はそこそこ多いが、サンレイを防げる魔法が完成したのだ。


 あとはこれを言語化して魔導書を作るだけである···まだ先は長いな。


 そんなこんなで、椎名の実家である焼き肉屋で中級祝いを兼ねた食事会をした。(簡易測定機は椎名から借りた)


 赤ちゃん達はミルクだが、私達はデカいステーキを頬張りながら、今後の事を話し合う。


「だいぶ待たせたけどこれでチームとして動けるね」


「エースの山田、椎名は中衛、近接もできる魔法使いのイブキ、前衛の松田と萩原、後衛の私···結構バランスが良いのでは?」


 と東横が言う。


 確かに六人で結構パーティーは完成してきている。


 山田が


「強いて言うならサポーターが欲しい気がする」


「サポーターか」


 中級ダンジョンからはダンジョンの構造が多層となり複雑化し、モンスターのレベルが上がるだけでなく罠等が多くなる。


 耐性にあった毒、火傷、眠り、麻痺、呪い、石化、魅了を付与してくるトラップだったり、直接攻撃してくるトラップだったり···そういうのがある。


 それを解除したり、戦闘のサポートをするのがサポーターである。


 ただサポーターは基本兼業であり、剣士兼サポーターや魔法使い兼サポーターみたいに言われたりする。


 それとサポーターは引っ張りだこの人気職業で、レベルが高いサポーターはそれだけで重宝される···チームやギルドだけでなく探索者協会からも。


「とりあえず募集をかけてみますか···何人か来れば良いなぁ」


「どんな条件で募集するの? というかどこで募集をするの? 探索者協会?」


「いや私のSNSで」


「大丈夫なのそれ? コメント欄で大喜利とレスバしているような人ばっかりじゃないの」


「あー、条件に六つの基礎を習得済みなことを書くわ。吸うができる動画を載せてもらえば意欲が無いのは弾けるでしょ」


 ということでパーティー限界の二名分サポーターの募集をかけたところ百名近くから応募が届いた。


 その中から東横の伝手で探索者協会でサポーターとして実績がある人をピックしてもらい、最終的に五人に絞り込んだ。


 で、東横と私がリモート面接をして、二名を決めたのは九月の終わり頃となっていた。


 二人共女性で、住み込みオッケーかつ近くで私の魔法を学びたい

 という熱狂的な私のリスナーだった。


 一人目は東京で活動しているレベル三十九の佐倉響さん。


 年齢も私と同じ今年二十五歳、探索者歴は高卒からの七年のベテランで、趣味が筋トレのメスゴリラ。


 職業はヌン(女性版のモンク)兼サポーターでモーニングスターを振り回しながら修道服を着て戦うらしい。


 もう一人は北海道で活動しているレベル三十三の佐藤照さん。


 年齢は今年二十歳で探索者歴は探索者学校出身なので、五年ほど。


 職業はシーフ兼サポーターでトラップ解除や小技を使って戦うらしい。


 熱意は私宛に二人共最初のメールで一万文字を超える長文を叩きつけてきたから印象に残っていた事もある。


 とりあえず採用するからリモートではなく一度会おうと言って、私は二人に飛行機のチケットを送るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る