サンレイの改良

 ゴールデンウィークが過ぎ、かれこれ私が天使になって一年が経過した。


 濃密過ぎる一年だったが、大きく成長を実感できた。


 配信者としても登録者数がなんだかんだ八十万人を突破し、メンバーシップも二万人が登録してくれた。


 最近は大和と長門の赤ちゃんチャンネルみたいになっているが、探索者としての私を見たい視聴者、魔法理論を学びたい視聴者、大和と長門の天使の赤ちゃんを見たい視聴者の三者に分かれている気がする。


 お陰でコメント欄はいつもバトルが起こっているし、ネットにコメント欄の治安が終わっている配信者ランキングのトップテンにランキングしてしまうくらい荒れていた。


 まぁ私は基本動画のコメント欄は見ない様にしているので気にしないが···


 今年の目標は中級に上がることだろうか。


 今のレベルが十九なので残り十一レベル···秋ぐらいには上がりたいものである。


 金銭面では配信業のお陰でだいぶ安定している。


 収益化が通ったことで再生されればされるほどお金になるし、配信では投げ銭をしてくれる人もいるし、月額五百円のメンバーシップも二万人なので配信サイトに幾分か取られるがそれでも数百万円近くが毎月入ってくる。


 お陰で軽自動車のローンを完済し、高性能のパソコンや配信器具一式を買い替えることもできた。


 勿論大和と長門の育児費や私の食費、学費の積み立て等でそこそこ支払っているがここまで資金に余裕が持てるようになったのは大きい。


 そんなある日、東横から


「資金ですけど貯めておくの? 投資とかはしないの」


 と聞かれた。


 投資は正直私では運用が難しいし、かといって他人に任せても良いとは思えない。


「し、将来クランを作った時の運用資金にしたいかな···」


 と私が言った。


「なるほど、それならいっぱい貯めないとね」


 よし、誤魔化せた。


 実際クランはプロスポーツチームみたいな物なのでクランに所属している人にメリットが無ければいけない。


 スポンサーにもよるが、関連飲食店の食事無料や住宅の支給、武具を格安で調達してもらえる等、クランによって特色が出る。


 鮭酒アンラの所属しているクランは配信者のコミュニティであり、コラボをしやすくしたり、クランが雇ったマネージャーにマネジメントしてもらったり、動画の作製の手伝いをしたり等配信者にとっては嬉しい特典があった。


 まぁその分クラン運用費という高い徴収があったが···


 今の私に出せそうなのは···レベルが上がりやすくなる事と魔導書の共有くらいか? 


 いや、普通に良いな。


 ただ両方とも表に出せない物なので目玉となる物が欲しい。


「まぁ今はそれを考えるよりも早く中級になってチームを作らないと」










 松田と萩原の二人に大和と長門を預け、私は出産後初めてダンジョンアタックを行くことにした。


 挑むダンジョンは山田と椎名のホームの【ケーナーティオ】であり、山田と椎名に『サンレイ』を教えることも含まれている。


 東横を助手席に乗せて、久しぶりに運転をしたが、気分転換になって心地よかった。


「そういえばチャイルドシートを買わないと···二人共首が座ったし、私には翼があるから抱っこ紐を翼に括り付ければ大和と長門を飛ばしながら買い物とかもできるかも」


「それ大丈夫なの?」


「モンスターでもできてるし大丈夫でしょ。翼柔らかいし、温かいから、二人共暇な時は私の翼をモフモフして遊んでるし」


「それで良いのか···」


 そんな事を話しながらダンジョンに到着すると山田と椎名が他の探索者とお喋りしていた。


 二人と同じ歳くらいに見える。


 私と東横が準備を整えていると山田と椎名はその探索者達と別れ、私達の所にやって来た。


「ずいぶんと仲良さそうだったじゃん。高校とかの同級生?」


「あー、さっきのは後輩ですよ。俺や椎名が一気に上級まで上がったって知った知り合いや後輩が最近探索者デビューをしてるんですよね。同じ歳の奴らはアルバイトとかして稼いだ金で装備を整えて、後輩は親に買ってもらったり、先輩探索者に装備を借りたりしていて」


「なるほど、確かに支部に行って研修を受けたりしていたら一ヶ月は直ぐに経過するから、この時期か···一人でダンジョンデビューするの」


「まぁあいつ等は仲の良い奴らとチーム組んでましたけどね」


「私達みたいに上級になるんだって張り切ってました。イブキさんの動画も見てたみたいですよ。初心者シリーズ好評でしたよ!」


「それならなにより···色んなメーカーが新作出しているから今年バージョンの初心者オススメ装具の動画を出しても良いかもね」


「それよりも!」


「今日はサンレイの修行ですよね! 二人でダンジョンで試し撃ちをしたりしてたんですけどしっくりこなくって···」


「別に太陽光線に固執しない方が良いよ。人それぞれのビームがあるから」


「「はい!」」


「しっかし装備ずいぶんと充実したね」


「俺達上級ですから」


「ねー!」


 山田は紺色の忍装束に背中に野太刀を背負っており、腰には瓢箪と小物入れ、太ももにはクナイが数本固定されていた。


 一方椎名は羽が着いた大きな帽子と緑色主体のボーイスカウトみたいな服装をし、相変わらずトロンボーンの様な大きな笛を担いでいた。


 ちなみに東横は基本スーツ風の戦闘服で、丸洗いしても皺がつかず、動きやすいながら防御性能が高い。


 武器は鉄扇でこれで叩くというよりは魔法の触媒にしており、魔法の威力を上げる効果を重点的にした特注品らしい。


 鉄扇を開くと色鮮な魔石が埋め込まれている。


 私は相変わらずツナギで農作業をするような格好だが···


「じゃあ入るか」


 とりあえずリトル鹿牛を狩るためリアカーを借りてダンジョンアタックを開始するのだった。








「サンレイ!」


 山田がゴブリン目掛けてサンレイを放つ。


 ゴブリンに命中するとゴブリンの体が熱膨張して破裂し、周囲に肉片が散らばった。


「俺のサンレイなんですが当たると爆破するんですよね。イブキさんみたいに貫通しないんですけど」


「爆破でもいいんじゃないの?」


 私はそう答えるが


「爆破しちゃうと素材が」


「あーね」


 確かにいちいち爆破していたら素材が剥ぎ取る事ができない。


「熱で焼き切るイメージのほうが良いかも。山田は火魔法の適性が高いからサンレイに熱の膜を作る感じにすればたぶん爆破しないんじゃないかな」


「なるほど」


「椎名はコントロールだね。慣れるまでは指先を対象に向けて、発射位置も体の目の前にすればズレが少ないから命中しないってことはなくなると思う」


「ありがとうございます」


 椎名はコントロールに苦戦していたのでそう教える。


 私も最初は魔法がなかなか当てられなかったから苦労がわかる。


 というか椎名はウォーターカッターを扱っていたんだからその応用でやれば良いのに···そう伝えると


「あ、確かに」


 とウォーターカッターを十字に放ち、その中心にサンレイを放つ特訓を始めると、直ぐにコツを掴んだらしい。


「サンレイ」


 東横は魔法のコントロールが学校で勉強してきたこともあり上手く、既にサンレイを鉄扇の先端の数(五ヶ所)分放てるようになっており、頭上や発射位置をズラしても対象にちゃんと当てることができていた。


「アイスブロック!」


 東横は氷のブロックを幾つも作り出し、感触を確かめてから、もう一度サンレイを生み出し、木にぶつけると、木がみるみる凍っていった。


「おぉ! 早速改良?」


「サンレイに私の氷属性の魔力を決めてみたところ、当たったら凍ったね」


「サンレイは改良しやすい様に作られているらしいからね。アイスレイかな?」


「安直だな〜」


「ぐへ、駄目か」


「いや、安直の方がイメージしやすいから良いかも」


「なら良かった」


 実際に東横のアイスレイをリトル鹿牛狩りで使うと、鹿牛が突っ込んできた時に地面にアイスレイを放つと地面が凍り、鹿牛は滑って突進の威力が皆無になる。


 動けなくなったところに私が飛んで『ショック』の魔法を当てると簡単に気絶してしまった。


「はい五万確保〜」


「めっちゃ楽じゃん」


「良いなぁ私達のサンレインだと殺しちゃうから羨ましい」


 次に見つけたリトル鹿牛を東横はリトル鹿牛の足に当てると、足が凍りつき、動けなくなったところを尻尾をぐいっと折ると気絶してしまい、こちらも簡単に捕まえることができた。


「モンスターの動きを止めたりするにはそのアイスレイの方が良いね」


「捕獲や足止め、温度を下げれば低温で仮死状態に持っていけますし、海鮮系のダンジョンに向くかも?」


「俺の熱で斬る系のサンレイは金属系モンスターに相性が良いかも。椎名の水魔法を含んだサンレイは質量がある感じか?」


「確かにウォーターレイって言った方が良いかも···水流で押し流すって感じになるね」


 三人が属性を付与したサンレイに色々と意見を言い合う。


 私が


「魔力の消費量は付与前の通常のサンレイが一番良いから、場所によって使い方じゃない?」


 と言う。


 私も雷の属性を纏ったサンレイをたまたま徘徊していたビッグ鹿牛に当てるとバチンというと電流が流れる音と共に鹿牛は白目を向いて気絶した。


「あー、意識を奪うのは雷の属性のサンレイっぽいわ」


 結局私達は飽きるまでゴブリンやバウ、リトル鹿牛に様々なサンレイを試し、ビッグ鹿牛の買取り含め二百五十万近くを稼ぐのだった。


「あ、レベルが上がった感じがした」


 私のレベルも上がった気がした。

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