オークナイト
家に帰り簡易測定機でレベルを調べると二十に上がっていた。
これで下級上位に上がったことになる。
「下級上位というと···」
オススメのダンジョンを調べるとオークが徘徊する下級のダンジョンがあった。
下級ではあるがボスモンスターは中級中位クラスで、オークナイトとオークウィザードというモンスターが草原タイプのダンジョンで徘徊しているのだとか。
ここのダンジョンには体の不調を治す薬草が自生しており、薬の材料として一房で買取りされている。
オークもおっちゃんのダンジョンとは違い、買取りをやっていて、オークの死骸でも外傷がそこまで酷くなければ値引き無しで買い取ってくれるらしい。
レベル的にも経験値的にもちょうどよいダンジョンだ。
車で一時間の位置だし、配信の許可も降りているダンジョンだ。
今回東横はお留守番で、松田と萩原を育てる意味も込めて二人を連れて行くことにしよう。
「だうー」
ふよふよと長門が浮かびながら私に近づいてきた。
大和も長門も首が座ってから浮遊して遊ぶようになり、ベットにいないな〜と思ったら天井に張り付いていたってことがあった。
狭い部屋なので今は良いが、外出時は抱っこ紐で基本固定しているが、犬用のリードを頭のリングに取り付けて浮かせる時もある。
リングの近くしか飛べないらしく、リングに合わせて二人共移動するのでリングさえ抑えておけば何処かに飛んでいってしまうことは無い。
「キャッキャ」
長門を抱っこするとニマーっと笑顔になり、頭を擦り付けてくる。
めちゃくちゃ可愛い。
「あぶぶ」
長門が何かを指差して話している。
その方向を見ると大和がなぜかマヨネーズを抱えて寝ていた。
勿論蓋は空いてない。
大和はケチャップやマヨネーズの容器の形がなぜか好きらしく、空のケチャップやマヨネーズの容器に水を入れて抱えさせると寝付きが良い。
一方長門はマイ哺乳瓶が大好きで、コレと決まった哺乳瓶じゃないとミルクを飲んでくれない。(母乳は気にせずに飲むが)
「ま〜」
「お腹空いたのかな? お乳飲もうか」
「だー」
乳を飲ませてからオムツを交換し、動画の編集をするのだった。
翌日···天気は快晴、絶好のダンジョン日和だ。
「暑いっすね···春が終わったら一気に夏ですからね」
「あー、アイス食いてぇ」
車のエアコンをガンガンかけてダンジョンに出発する。
松田は槍使いで、萩原はハンマー使い。
それぞれ武器は分解収納できるようになっていて、楽器ケースくらいのケースにしまわれている。
トランクがリュックと武器ケースと翼でパンパンになっていた。
「後藤さん、翼下敷きにしてますけど大丈夫なんです?」
「あー、翼雑に扱っても全然毛艶落ちないし、意識して抜こうとしないと羽が抜けないから別にって感じ」
「ならいいですけど」
なんだかんだ松田と萩原の三人でってのは初めてだったので移動中に色々と聞くと、松田も萩原も大学の探索者学校は出て、親族のコネで探索者支部で働けているが、レベルが上がりづらく、大学でもレベルが規定に足りなくて一年留年してしまったらしい。
松田がレベル三十二で萩原が三十四だ。
「あれ? じゃあ今年二十四歳? もしかして一個下?」
「そうなりますね」
「ですね~」
「んー、じゃあ山田、椎名ペアが一番下で今年二十歳、東横が今年二十一歳、二人が二十四歳で私が二十五になるのか···私が一番上かよ」
「まぁ俺達が派遣されたという理由として年下ってのもあると思いますよ。その方が気を使わないと判断されたんでしょ」
「あー、確かにこれで四十歳くらいの人が来られても困ったかも」
年齢の話しの後は趣味の話しをする。
「二人の趣味って何なの?」
「俺は競馬観戦で、萩原は絵を描くのが趣味っすね」
スポーツがダンジョン出現により衰退していたが、例外もある。
競馬と競艇、モータースポーツ系の人間だけで完結しない物である。
特に競馬はギャンブルよりもスポーツの代わりとして人気を博し、ここ五十年で日本のみならず世界規模で成長し続けている。
モータースポーツの長距離レース等も自国のダンジョンで採集できる素材を使って車のパーツに組み込むので各国で特色が出て結構盛り上がりを見せる。
日本だとスライム燃料の研究が進んでいるので燃費効率の良いスライム燃料とそれに見合ったエンジンやシリンダーが開発されているのに対して、イギリスはエンジンと車体フレームにドラゴンの素材を使うことでどんなに過酷な環境でも傷一つつかないとんでもなく頑丈な車を作り、アメリカはダンジョンで発達した加工技術と豊富な鉱石資源、最新の科学力で他国には真似できない内部構造にし、総合力の高さで勝負してくるといった感じで毎年大きなレースが始まるとニュースで特集が組まれるくらいには人気だ。
まぁ一番の娯楽はダンジョン探索になってしまうのだが···
「萩原の絵ってどんなの?」
「ファンタジー系の漫画を書いてますね。魔法のイメージの練習にもなりますし」
「あー成程ね」
話を詳しく聞くと同人誌としてネットで売るとエロ漫画でもないのに千数百冊分毎回コンスタントに売れるらしい。
流石に趣味の延長なのでそれで食っていこうとは思わないけれど···と言っていた。
「もしかして配信とかのサムネ絵とかも描ける?」
「描けますがそんなに筆早く無いんで毎回は無理っすよ」
「お金払うから頼むよ!」
「まぁいいっすけど」
「やり!」
趣味の話をしているとダンジョンに到着し、駐車場に停める。
「あー、ここはお肉屋が併設されている感じか」
「オーク肉は基本ミンチにしますからね」
「オーク足は豚足の代わりにラーメンとかで使われるらしいですけど」
「オーク系ラーメンね。あれはあれで美味しいんだけどねぇ」
「好き嫌い分かれますよね」
ここのダンジョンは僻地にあるにもかかわらず結構儲かっているのかアイテム屋や換金所が広く、アイテム屋に食堂が併設されており、さながら道の駅やサービスエリアに近い感じだ。
トイレとかも奇麗だし個室も多い。
軽く軽食をとってからダンジョンにアタックする。
テキパキと松田と萩原が武器を組み立てると立派な槍とハンマーが完成した。
「支部長の爺さんが卒業祝いに買ってくれたんですよ」
「長く使えるようにって上級クラスの買ってもらったんで武器だけはいっちょ前なんすよね」
ただその武器に見合うように努力していることを私は知っている。
アパート近くの空き地で素振りをしたりしているのを何回か見ているからだ。
「じゃあオーク狩りしながら、薬草採取をしようか」
「「はい!」」
アイテム屋で借りた籠は背中に背負うタイプなので、いつものように翼にベルトでくくりつける。
リアカーも二台借りて松田と萩原が引いていく。
入口から潜るとザ、草原って感じで木々も無く広々とした空間が広がっていた。
「見通しが良いね。薬草は···」
流石に入口近くは他の探索者に刈りつくされていて無いが、少し奥に進むと紫色のたんぽぽの様な花を咲かせた草が所々に生えていた。
これが薬草である。
配信を回しながら
「薬草は根っこまで使いますので小さなスコップで根っこごと掘り起こすと良いでしょう」
と実演してみせる。
松田と萩原も近くで薬草を採取し、私の籠に入れていく。
そうこうしているとオークの群れが現れたので、私のサンレイで数を減らしつつ、残ったオークを二人が抑えつける。
五分ほどで六体いたオークは全滅し、亡骸をリアカーに積んでいく。
このリアカーなんと魔石で補助がつくタイプなので、二体だけは魔石を抜き取り、リアカーの燃料として魔石をはめ込む。
すると電動付き自転車の様にアシストがつき、百キロ近くのオークが二体乗っているのにもかかわらず軽々と動かせる。
そのまま薬草を取りつつ、オークの群れがいたら倒していくを繰り返し、二時間ほどで二台のリアカーにオークの死骸が山積みとなった。
私の薬草籠もパンパンに詰まっており、さあ帰るかという時にガシャンがガシャンと金属の音が近づいてきた。
ふとその方向を見るとオークが西洋甲冑を着用して動いている。
「オークナイトか!」
「人だったら返事をしてください!」
そう言っても返答が無い。
ダンジョンにおいて顔を全て隠すのはあまりよろしくないとされている。
それは動く甲冑やオークナイトの様な顔まで覆う兜を被っているモンスターがいるからだ。
また今回のようにそういうモンスターと思わしき者には奇襲性を捨ててでも必ず声掛けを行うのがマナーであり、声掛けを行っても返事をせず、更に攻撃を仕掛けてきた場合、それが人でも怪我や殺してしまっても記録が残っていれば処罰されることはない。
今私は配信をしているのでその心配はない。
「グオオオオオ」
叫び声からしてオークナイトで間違いはない。
「サンレイ!」
私は向かってきたオークナイトに対してサンレイを放つが、マジックアイテムの甲冑のようで魔法があまり効いていない。
「松田! 萩原!」
「任せてくださいよ!」
「時間稼ぎますよ!」
まず松田が槍でオークナイトの剣を受け止め、腹部がフリーとなったオークナイトに萩原がハンマーで殴る。
「ちぃ! パワー不足か! でも!」
「ナイスアシスト!」
私は空を飛んでオークナイトの頭上を取ると、グレート・ヘルムと呼ばれるバケツの様な頭の兜を掴み、思いっきり引き抜いた。
するとオークの顔が露わになる。
そこにもう一度サンレイを放つと頭が消し飛び、オークナイトは膝から崩れ落ちた。
「ふぅ、倒せた」
「お疲れ様です。やっぱりサンレイは強いですね」
「そりゃ上級の複合魔法を一つの魔法に組み替えた物だからね。それに私の魔力量は上級に匹敵するし、六つの基礎で魔法の威力も底上げされているから魔法に抵抗がない部分に当てればこうなるよ」
「なるほど···いやぁでも全く効かなった時にはビビりましたわ」
「魔法に抵抗があるマジックアイテムねぇ···剥ぎ取って売るか」
私がそう言うと二人も賛成する。
「オークサイズなので調整は必要ですけど需要はありますからね」
「剥ぎ取っちゃいましょう」
こうしてこのダンジョンのボスの片割れを倒すことに成功し、お待ちかねの換金タイムに移行するのだった。
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