打ち上げ 出産準備

「いや、申し訳ないことをしましたねイブキさん」


「いや···お疲れ様でしたサトシさん」


 食べ放題で私の奢りで残ったスタッフとサトシさんを労う。


 その中には勿論東横もいる。


 私は皿いっぱいに食事を持ってくると『吸う』で次々に体内に消えていく。


「凄い食べますね」


「食事法を心得てますので食べても全て体のエネルギーに変換されるのですよ」


「イブキさんの唱える魔法理論の六つの基礎ですか?」


「その一つだね」


 黙々と食べていたが、私は彼に聞く。


「そっちのクランの運営···外部の私が見た感じヤバい気がするけど」


「まーヤバいですよ。運営費として結構な額を給料から引かれますし、クラン内の待遇格差や仲間意識もボロボロですし···」


「配信者クランとしては業界五本の指に入ると思うけど···そもそも私は企業勢と何が違うのかよくわからないのだけど」


「企業所属の配信者とクラン所属配信者の違いは企業が直接配信者を管理しているか、企業がクランをスポンサーとして支援する形なのかの違いですね。クランはそれ自体が一種の会社です」


 サトシさんの話を要約すると企業勢は法人化した企業から配信者が給料をいただくサラリーマンと同じ感じで、クランは個人事業主である配信者を纏め、あくまで歩合制で、共同のコミュニティとして配信者を支援するのが目的らしい。


「まぁうちのクランは大きくなりすぎてしまい、歪みが出てきてしまっています。たぶん鮭さんやミキサーレモネードの二人から勧誘の話があったでしょう」


「ええ、ありましたね」


「上からイブキさんは目を付けられています。勧誘できた時のメリットが大きいと。ただ俺は反対の立場にいますけどね」


「おや? サトシさんは話を聞く限り運営に近い立場の人間じゃないのですか?」


「まぁクランからの信用も発言力もありますがね···反対の理由はクランだけにしかメリットが無いからですね。イブキさんがクランに入ってもメリットらしいメリットが納税関係が楽になる程度で、それ以外のメリットが無いんですよね。鮭さんも運営に言われたからコラボ誘ってましたけど、本音はあの事件が起きたことによる罪悪感とイブキさんの成長力に嫉妬しているんですよ。リスタートが綺麗に決まったじゃないですか、自分は色々失ったのにって」


「ミキサーレモネードの二人はぽっと出の新人が取り上げられて気に食わない感情がありますし、うちのクランの女配信者はちやほやされることを望んでいる人が多いのでガチ探索者を目指しているというか新しい探索者の形を作ろうとしているイブキさんと相性が最悪です」


「男性配信者は成長しないと視聴者が付いてこないのでシビアですし、意見や教育論を聞きたい人は沢山いますが、それが女性陣はちやほやしているということに繋がりそうなのでただでさえ危ういうちのクランのパワーバランスが崩れかねないから俺は反対の立場を取ります」


 サトシさんはクランを客観的に見ている。


 こういう人材が優遇されているからたぶんこのクランは崩れてないんだろうし、逆にできない人は優遇されないから不満を溜め込んでいるんだろうな。


 今日の配信でアンラさんと関わるのも辞めようと思ったし。


「私個人の意見としてはサトシさんやグレンさんとはまたコラボしたいと思いましたが、他の三人とは無理ですね」


「でしょうね。俺も居心地悪くて正直早く帰りたかったけど、イブキさんの探索者として稼ぐ知識と魔法理論は勉強になったので面白かったですよ。まぁあのままトランプをやってもギスギスするだけでしたし」


「そうでしょうね···」


「一応連絡先交換しませんか? これも何かの縁でしょうし」


「わかりました」


 連絡先を交換して今回のコラボは本当の意味で終わった。


 ちなみにコラボの再生数は百万再生を突破し、終盤語った私の探索者としての持論は切り抜かれていたのだった。







 出産予定の一ヶ月前ということで、一度出産する探索者支部直属の病院を見学することになった。


 前にも話されたが、探索者がモンスターに強姦される事がある。


 多くは中絶することで事無きを得ているが、気が付かなかったり、廃人になってしまったりして発見が遅れてしまうこともある。


 そうなると探索者協会直属の病院に担ぎ込まれる。


 まぁ探索者協会直属の病院は本来上級探索者だと病気の治療の際に通常のメスが通らないため、特殊な素材のメスや道具を使って治療しなければならないとか、ダンジョンから採れる物質や素材を使って難病を治療する事を行う病院である。


 中を見せてもらうと最先端の医療器具が整っているのとホテルみたいに入院用の個室が綺麗だった。


 食事とかも栄養士がちゃんと管理しているし、売店も広い。


 流石に手術室は見せてもらえなかったが、安心感はあった。


「どうですか岐阜県最先端の病院は」


 東横が自慢げに話す。


「ホテルみたいだね。ここなら治療が間に合わなくて死ぬって事はなさそうだね」


「まぁ愛知とかの大きな県の支部病院には負けますが、身体の欠損や脳梗塞等や十五分以内の心肺停止なら蘇生も治すこともできますからね」


「逆に大都市の支部だとどこまで直せるの?」


「身体の半分を欠損した上級上位探索者が、自己治癒で生きながらえていたのを完全治癒して翌日には探索者に復帰したみたいな話は聞いたことがあるよ」


 私はどんだけだよと思いつつも上級上位ともなれば生存能力をもバグリ始めるんだろうと思ったし、それでも死ぬこともある上級ダンジョンの恐ろしさに少し恐怖を覚えた。


「そう言えばモンスターとの混血の子供って学校とかどうしているの?」


「小中学校は探索者支部が支援している特別学校に通わせて、高校からは普通の高校に行くか、探索者高等学校に行くか選んでるね。私の同級生にも混血の子が居たけど探索者の学校は実力主義だから能力があれば混血でも人気者だし、能力が無ければ辞めていくし」


「なるほど···探索者じゃないと混血は生きにくそうだけど」


「それはそうだね。たぶんイブキの子供も小中学校は探索者支部の支援学校に通うことになるよ」


「···まぁイジメられるよりは良いか。皆容姿が異っていたら多少はマシかな」


「···そういう子供は寮で生活することになるけどイブキはちゃんと育てるって選択しただけ立派だけどね」


「そう?」


「怖くないのマジックアイテムの子供って?」


「いや、全く···産む痛みの方が怖い。産んだ後は別に気にしてないかな」


「そう···」


 東横の話によると混血の子供は親から捨てられてしまうらしい。


 で、探索者協会が引き取って育てるのが普通で、私みたいに責任を持って育てるのは稀なのだとか


「病院の施設が整ってるのと綺麗で安心しました、欠損の再生治療ができるなら出産で死ぬこともなさそうだね。入院はしたほうが良いのかな?」


「陣痛が来たら入院だと思うよ。出産後十日は入院を覚悟したほうが良いね」


「うへぇ、入院できるように準備しておくか」


「それが良いよ」


 家に帰った後、出産による入院に必要な物をネットで調べていつもの探索用のデカいリュックに詰めていくのだった。

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