出産

出産

「うっ痛たたた」


 お腹を下したかの様な痛みがいきなり始まった。


「あー、これ陣痛かもな」


 現在妊娠三十八週目···予定日より少し早いが早産でも無い正期産な為お腹の子供も十分に生育できているだろう。


 直ぐに東横に電話して、車で運んでもらう。


「やっべぇ···波があるけどすっごい痛いわ」


「車で出産はやめてくださいよ」


「我慢するけどなるべく早く頼むー」


 車で二時間かかって探索者支部の病院に到着すると直ぐに分娩室に連れて行かれた。


 陣痛の感覚がどんどん短くなり羊水が出てきた。


「痛い···痛いけど我慢できなくはないか?」


「後藤さん、大丈夫ですかー、意識しっかりしていますかー」


「あ、看護師さん、大丈夫です。予想より痛みがそこまでです」


「力む事できますか。下腹部に力を入れてー」


「あ、はい」


 ふうっと息を吸って力むと何か飛び出す感覚がした。


 え? もしかして産まれた? 


「一人目出ました。もう一人行けますか」


「あ、はい」


 もう一度力むとスポーンともう一人も飛び出した。


「え? 終わり?」


「いえ、胎盤を出さないと行けないのでもう少し頑張りましょうね」


「あ、はい」


 子供がすんなり出たのに胎盤が出るほうが時間がかかり、三十分かかって胎盤を摘出した。


「うっ、うぅ···すっごい疲れた···汗やべぇ」


 赤ちゃん達はへその緒が切られ、看護師さん達がお湯で体を洗っているが、羊水を吐き出して泣き始めた。


「ふう、無事に産まれた」


「お疲れ様です。大きな男の子と女の子ですよ」


「大きい? すんなり生まれたけど」


「それは後藤さんの骨盤が安産に適していたのと、しっかりとした肉質あってのことですよ」


「···痛みが少ないのは良いことか···ふうっ」


「じゃあ今から治癒魔法をかけますね」


「え? なんのためにですか?」


「子宮がダメージを受けていて出血していますので止血するためと後陣痛を促すためです。子宮が一気に縮みますのでそれによる痛みを軽減するためですね」


「まだ痛みがあるんですか···そりゃ出産は大変だ」


「治癒魔法が無かった頃は先進国でも死亡事例がありましたが、治癒魔法が整った現在は子宮破裂によるショック死以外であれば死ぬことは無いですからね」


「恐ろしいこと言わないでくださいよ」


「まぁイブキさんが今から死ぬことは無いので安心してください」


「いや、だから言うことが怖いのよ」


 汗を拭かれて汚物を処理してもらった後に赤ん坊を抱く。


 夢で見たようにちゃんと男女で持ってみると予想よりも重かった。


「普通の子の二倍くらいの重さがありますよ。ずいぶんと育ちましたね」


「やっぱり大きいか···丸々していて可愛いなぁ」


 しわくちゃで髪の毛もほぼ無く、顔を真っ赤にして泣いているが、凄まじく我が子が愛らしい。


 これが母親になるということか···と思いつつ、この子達をこれから育てるという責任が私の中で生まれた。


 やっぱり赤ん坊の頭にリングが、背中に翼が移動し、この子達も天使なのだと実感した。


 健康診断と産後の経過観察で赤ん坊達と別れ、私も個室に移動する。


 流石に疲れたので直ぐに眠ってしまったが、数時間後にチクチクと下腹部の痛みで起きた。


「あーこれが後陣痛か」


 確かに痛いっちゃ痛いし気持ち悪い。


「起きましたか」


「あ、東横送ってくれてありがとう助かったわ」


「いえ、間に合って良かったです」


 東横はバックから書類を取り出して


「起きたばっかりで悪いですが書類書いてください。出産届とか各種手当や医療控除、補助金の申請とかです」


「うへぇめっちゃいっぱいある」


「入院中に書いておいてください。書き終わったら私が出しに行きますから」


「本人じゃなくても大丈夫なの?」


「本当は本人か親族じゃないといけないですが、イブキさんは親族とは絶縁状態ですし、探索者支部から重要人物指定されているので代理でも通りますよ」


「あ、そうなの」


「とりあえず最初は子供達の名前を決めてください」


「名前かぁ···男の子は大和、女の子は長門にしようと思うかな」


「理由を聞いても?」


「両方戦艦の名前からで、大和は王朝でもあったし、ヤマトタケルとかの偉人もいるし···長門は昔象徴だった戦艦だし、戦争を生き抜いているから生命力のある子に育ってほしいからね。何より二つの名前とも大きく、力強く···美しくね」


「あー、感性が男ですね」


「駄目かな?」


「いや、良いと思うよ。大和の男は多いですけど長門は苗字に多いイメージあるけどね」


「伊吹も船の名前であるから船シリーズで揃えたいってのも少しだけあるけどね」


「絶対にそれがメインだろ」


「テヘ」


 こうして天使の男の子の後藤大和と女の子の後藤長門が誕生したのだった。


 正直私は神が産まれるとマーちゃんから言われていたので腹を食い破って出てきたり、脇から産まれたりするのかと覚悟していただけに、普通に産まれてきてくれて安心したが···


(マジックアイテムで孕む自体が普通ではない)


 入院期間中はSNSで赤ちゃんが無事に産まれたことを報告したり、探索者の動画を見たり、書類と格闘して過ごすのだった。







 赤ちゃん達の検査が終わり、体重が大和と長門共に五キロ超えと大きな赤ちゃんであり、授乳の乳が足りるか心配になるくらい二人共乳をよく飲んだ。


 母乳が出るようになってからバストカップがスリーサイズほど大きくなっていたため、よく乳が出ること出ること。


 食事が出されるが足りないと感じたので看護師さんにお願いしてご飯を大盛りにしてもらい、それでも足りないので東横に差し入れとしてパンやおにぎり、牛乳などを買ってきてもらった。


 産まれたばかりはあまり母乳を飲まないというか産まれて二日は赤ん坊はミルクを飲まなくてもいいし、母親もミルクが出ないが、産まれてから二日間の間に母乳が出る体質に変わる。


 産まれたての赤ん坊はミルクを平均体重で四十グラム程飲むらしいが、大和と長門は平気で百グラム以上飲んでいるし、なんなら回数も二時間おきである。


 夜も平気で起こされるのでそりゃ母親はノイローゼになるわなと思った。


 私の場合は六基をしっかりやることで睡眠の質を向上させられるのであまり気にならないが、そりゃ父親が協力しなければ母親倒れるわと思った。


 必要な書類を書き終わり、東横に提出してもらうと、私は家にベビーベットが無いことに気が付き、東横に退院までに買ってきて組み立ててもらったり、色々助けてもらった。


 東横が居なかったらと思うとゾッとするが、東横も


「仕事ですから」


 と割り切って助けてくれた。









 退院し、アパートに帰ると赤ん坊達をベビーベットに寝かせて、大家や榊原さんに無事に赤ん坊が産まれた事の報告をした。


 あとやっぱりお腹はたるんでしまい、妊娠前までハリのあったお腹は皮がたるんで少しだらしない感じになっている。


 子宮の大きさも治癒魔法である程度は縮小したが、完全に治るには早くても二ヶ月くらいはかかるし、たるみに至っては半年近くかかるらしい。


「二人はよく飲むねぇ」


 夜は腹持ちの良い粉ミルクを多めに与えているが、それ以外は普通に母乳を与えているが本当によく飲む。


「そう言えば」


 私の固有能力はレベルアップが早くなる才能の付与らしいので、お腹の中にいた大和と長門も影響を受けているかもと簡易測定機に大和から手を当ててみると


「嘘···」


 レベル十五と表示された。


 長門も測定すると十五と出た。


「え? ヤバ」


 とりあえずこのことを東横と私の出産祝いを持って来た山田と椎名にも伝える。


「レベル十五!?」


「本当ですか?」


「本当だよ。ほら」


 私が大和の手を簡易測定機に当てると十五と表示される。


「本当だ」


「赤ん坊でレベル持ちって聞いたこと無いんですけど」


「東横ある?」


「一応例はあります。妊婦がダンジョンに潜っていた赤ん坊がレベル二で生まれてきたというのが海外の後進国では起こったらしいですが···十五は聞いたことが無いね」


「ですよねぇ···東横、上にはどう説明する?」


「規格外の子供が産まれたと説明しますが」


「···うーん、話すか」


 三人に天使病には固有能力があり、私の場合は任意の相手に才能を付与してレベルが上がりやすくする能力があると伝える。


「そりゃ俺達のレベルが異常に早く上がる訳がわかりましたわ」


「おかしいですもん。私達が同じペースでレベルが上がるの」


「最近レベルの上がる間隔が急激に短くなったのはそういうこと···なんで教えてくれなかったんですか!」


「いや、だってこれ以上拘束されたくなかったし···ただ赤ちゃん達の件で隠せないなって思って···」


 三人は、はぁとため息をして


「隠されていたことに少し悲しいですけど、イブキさん、俺達仲間でしょ?」


「そうそう」


「赤ちゃん達のレベルについてはまだ隠せるので上には報告しますが、追加で人員が送られてくるかもしれませんが、必ず悪いようにはしません。引っ越しもあと一年半は待ちますから」


「ごめんよ」


「配信では言わないでくださいよ」


「勿論」


 大和と長門は天使病の才能付与プラス私の才能付与の固有能力のダブルで成長補正が入っているチート赤ちゃんであった。


 私は本当にこの子達を導けるのか少し不安になるのだった。

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