六人コラボ配信

 コラボ当日、集合予定時刻の十五分前に東横が車で私を送る。


 会場に到着すると鮭酒アンラさんと他数名の方が既に準備を始めていた。


「天使のイブキです。今日は皆さんよろしくお願いします」


 私がそう言うと会場の至る所からよろしくとかよろしくお願いしますと言った声が聞こえてくる。


 ただ何処か冷たい感じがした。


 アンラさんが私に近づいてきて


「良かったよ···無事に帰ってきてくれて···本当に···あと今日はコラボを受けてくれてありがとうね」


「はい、今日はよろしくお願いします···他の出演メンバーは?」


「レモンさんとミキさんが今トイレに行っていて、あとの二人は同じ車で向かっているらしいよ。集合時間までには着くらしいし」


「なるほど」


 話していると扉が開き、私達が居るフリールームに二人の女性が入ってきた。


 動画で確認はしたが金髪の女性がレモンさんで、両耳に三センチ程のリングを付けている女性がミキさんだろう。


 年齢は両方とも二十代中盤で、私とほぼ同じ歳だろう。


 アンラさんが二十代後半なので、メンバーの中で最年長だろうか。


「鮭ちゃんちっす! あ、イブキちゃん今日はよろ〜」


「イブキさん今日はよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 ギャル風に喋るレモンさんと清楚な感じのミキさん。


 チグハグに見えるが二人はミキサーレモネードというコンビ配信を売りにしており、登録者数は四十万人超えの中堅···いや、上位に位置する配信者だ。


 探索者配信者のランキングとしては最上位は登録者数百万人以上で大半は企業勢と言われる。


 上位は四十万人以上の配信者で、中堅は十万以上ここまでが人気者と言われれるラインで、それ以下は千人以上が人権ラインで、更に下は新人、底辺、過疎の三種類に別けられる。


 新人は配信歴一年未満の人物、底辺は数年配信をしていて登録者数百人未満、過疎は人気が無くなって落ちた人とされる。


 前の体の私は底辺配信者に分類され、今は上位配信者に当たるのだろう。


 チャンネル登録者数がいつの間にか、七十八万人にになっていたし···


 ちなみに鮭酒アンラさんが今二十五万人前後をウロウロしているので中堅配信者に当たるだろう。


「ミキサーレモネードのお二人とコラボできて光栄です」


「いや~登録者数だと今イブキちゃんが今日のメンツだと一番多いのと人気に肖りたい感じだし〜、今日はよろね!」


「もしよろしければイブキさんも私達のクランに入りませんか? 配信の機材や技術共有ができますし」


「うーん、クラン加入は考えてないですね。私もクランを立ち上げたい側ですし」


 ミキさんとレモンさんの雰囲気が少し変わる。


「···それは配信者クランを作ると?」


「いや? 探索者として企業にスポンサー付いてもらいたいだけで、配信者としてのクラン創設は考えてないね」


「···あまり言いたくは無いですが、イブキさん、クラン創設の話は配信者だと配信者クランに意図しなくてもなってしまうことがあるので、そうなるとライバルとして見なければならないので···」


「あぁ、なるほどね。まー、子育てが忙しくなるし、クラン所属による運営費徴収が私にはメリットよりデメリットが大きいって話よ。そもそもコラボも私は積極的ではないですし」


「じゃあなんで鮭ちゃんと前にコラボしたの?」


「最初にコラボを申し込んでくれたから。どんなもんか知りたくてね」


「なるほど、イブキさんはあっち側ですか」


「あっち側とは?」


「探索配信者には二種類居ます。探索者をメイン収入で副業として配信する人と逆の配信者をメイン収入源とし副業で探索者をする人で、私やレモン、鮭さんなどは配信者をメインとしています。もう少しで来る二人も配信で食っていきたい人達です」


「配信者だけだと稼げなくない? そこら辺疎いんだけど」


 私の質問にレモンさんが答える


「投げ銭とかグッズ販売、イベント等で確かに探索者メインよりは稼げないよ! でも配信メインでも人気で食っていけるし、何よりそっちのほうが比較的安全なのよ」


 補足としてミキさんが


「勿論事故が無いとは言いません。去年も私達のクランでも売れっ子だった子がモンスターハウスに入って無惨な最後を遂げてしまいましたし···私達みたいな中級探索者の配信者は探索者メインの人達より才能がどうしても劣ってしまうのです。一部例外は居ますが、だから配信で稼ぐに切り替えるのです」


「鮭ちゃんは元々探索者メインの配信者だったけどレベルリセットで配信者メインに切り替えたんだよね」


 レモンさんの言葉に鮭さんは


「はい···」


 と答える。


 私はその様子を見て三人の仲がそれほど良くない事がわかってしまった。


 元々才能があったから探索者として堅実に上に上がり続けていたアンラさんだったが、悪魔病でレベルリセットになり、悪魔になっても才能がそれほど上がらなかったと彼女は前の配信の時に言っていた。


 つまり十年近くの時間を無駄にしたことになる。


 元のレベルに戻るにはまた十年近くかける必要がある···そう考えると容姿は良くなった事を利用して配信メインにしたいと思ったのだろう。


 で、私とのコラボで一気に注目度を上げ登録者が二十万人を超えた。


 一方ミキサーレモネードの二人は探索者学校中退という経歴がある。


 東横の話であればレベルが基準値に足りなかったのだろう。


 そこから数年かけて中堅になり、このクランに似たような経歴ということでセットで受かり、配信者としてデビューしたというデビューまでの流れを調べて私は知っている。


 どちらが苦労しているかと言われたら困るが、それぞれ別の意味で苦労している。


 だから互いの事を敵視しているのだと思うし、アンラさんよりミキサーレモネードの二人の方が配信者として先輩だ。


 そういう上下関係や元のレベル差等の色々が積み重なってこうなっているのだろう。


(二度とここのクランとコラボしたくねぇ)


 そんなにギスギスした関係でも上から言われたら従わなくてはいけないのが企業勢の嫌な所だろう。


 そうこうしているとメンバー唯一の上級探索者のグレンさんと司会役のサトシさんという男性配信者も揃い、軽い打ち合わせの後配信が始まった。





「始まりました『夕方ラジオ』の時間です。イツメンであるグレンさんだけでなくゲストの同じ事務所メンバーのミキサーレモネードのお二人と世間を騒がせた事件の真相を語ってもらおうと鮭酒アンラさん、天使のイブキさんをお呼びしました」


「どうもイツメンのグレンです。よろしく」


「「ミキサーレモネードの!」」


「ミキです」


「レモンです!」


「鮭と酒が大好き! 鮭酒アンラです」


「天使のイブキだよ~! 今日はよろしくお願いします」


 全員の自己紹介が終わり、最初のコーナーとして半年前の事件について語ることになった。


 私は自分の配信で語ったことを短めに纏め、ギミックを解いたら別ダンジョンに飛ばされ、そこで賢者を名乗る辻聖子とであったこと、そこで半年間修行したことを話た。


 アンラさん視点での私が居なくなってからの事も話され。


 それに関連してトラップについてと宝箱についての話に移る。


「私の場合最近宝箱で良い方向に転んではいるけど性転換したり、妊娠したりと普通ならハズレを引いている感覚はあるね」


 司会役のサトシさんは上級探索者で宝箱をよく発見するグレンさんに回答を求める。


「上級の場合ガスが噴出しても能力だけで回避できてしまうことがある。天使病や悪魔病は宝箱からのガスによる事例が多いが、多くは中級か上級でも下位の探索者に多い。それに仲間に宝箱の解除を担うシーフの職種のやってもが居ると宝箱の中身をなんとなくわかるらしいから宝箱のトラップに引っかかる事はまず無い」


「その上で今回受胎のイヤリングの話が業界でも話題になったが、耐性を付与するマジックアイテムの類似品ではないかと予想されている。そのアイテムは身につけて数秒後に壊れるが、一つの耐性を一段階上げる効果があったり、全ての耐性を一段階上げたりする効果がある。付けて壊れた点といいそれに似ているんだよな」


「なるほど···イブキさんはそれにより妊娠してしまいましたが赤ん坊はどうなるのでしょうか?」


「クローンの様な物では無いと思います。ただ母体の影響を受けるのは確かで、現に私の子供は天使病を引き継いで産まれてくるでしょう」


「なるほど···ではそろそろお便りのコーナーに入りましょうか!」


 お便りのコーナーでは視聴者達がSNSを通じて質問を投げかけてくる。


 私はこれを見ながら私の配信でも使えるなと思った。


 流石に直ぐにマネするのは相手や視聴者からの心象も良くないので半年程度置く必要はあるし、配信者ならSNSのコメントの返答はよくやっている。


 ちゃんと時間を置けば真似されたとは思わないだろう。


 私の質問ばかりになると困るのでサトシさんがいい感じに皆に満遍なく質問がいきわたるようにし、時間が過ぎていく。


 質問コーナーが終わると探索者としてどれくらいの頻度でダンジョンに潜るかという話題になった。


「俺は週三だな」


「それくらいですよね」


「あんまり多いと効率が下がるからな」


「週五です」


「は?」


「え? マジ」


「多くない」


「ちなみに何時間くらい?」


「配信が二時間くらいでその後に追加で四から五時間ほど」


「体壊すぞ」


「無茶してない?」


 皆から総ツッコミされるが、慣れればどうってことはないし、疲れが溜まってきたら休みをちゃんと入れているのでそこまで苦に感じない。


 何より前の体だとそれくらい潜ってないと月十万も稼げなかったからその名残のと、今の体だとバンバン稼げるから楽しくてしょうがないってのもある。


 私がそう答えるとダンジョンジャンキー呼ばわりされた···解せぬ


 予定では残り一時間はトランプゲームをする予定だったが、想像以上に探索者の雑談が盛り上がり、そのまま二時間皆でも会話をして終わったのだった。


 配信だと流石にギスギスしていた感じはしなかったが、配信が終わるとミキサーレモネードの二人は関係者に挨拶をしてそのまま帰ってってしまったし、鮭酒アンラさんも少し喋った後に帰ってしまった。


 グレンさんも予定があるとのことで帰り、残りはスタッフ数名とサトシさんだけとなり、私はせっかくですから食事をしませんかと誘い、近くの食べ放題に誘うのだった。

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