夢見の魔法

 妊娠三十二週···二月となり、岐阜県北部は豪雪により移動困難となり、私達が住んでいる場所は美濃の方面よりなこともあり、雪はそれほど積もっていなかった。


 ただ豪雪地帯のダンジョンが行けないとそれだけ行ける場所にあるダンジョンが混みだす季節でもある。


 あとダンジョンは外界と隔離されているので、ダンジョン内の方が暖かく過ごしやすいということと、大学や就職が決まった高校生達がダンジョンに潜り出す頃でもあるので余計混む。


 なので最近はおっちゃんのダンジョンばかりに行っていた。


「おっちゃん今日も来たよ〜」


「お邪魔します」


「おお、最近連日で来るな。東横さんもお疲れな。後藤は···お腹大きくなったな。もう少しで臨月か?」


「来月には臨月だね。お腹の中で子供達が動いてやばいんだよね」


「いまだにお前が男であった感覚があるから不思議な感覚があるよ」


 おっちゃんは私のお腹をまじまじと見ながらも何処か不思議そうに考え込んでいた。


「というか常に浮いているんだな」


「もうお腹が大きくなり過ぎて歩くのも厳しいからね」


「じゃあダンジョン探索やめろよ」


「もう少し稼がないと厳しいから···」


「世知辛い···」


 ダンジョンに潜るとゴブリンやスライムを狩っていくが、お腹が邪魔で剥ぎ取りが上手くできない。


「···今日で当分ダンジョンアタックは控える···いや、出産して安定するまでダンジョンアタックは辞めるよ。これじゃあ稼ぐ事もできないからね」


「私は最初からそう言ってるよね?」


「アハハ、申し訳ない」


 今日は配信していないし、レベリング目的のダンジョンアタックだったが、金が稼げないのであれば潜る必要性を感じない。


 結局私のレベルは十九でストップ、東横は一ヶ月で三レベル更に上がり五十二に上がっていた。


 東横はレベルが急激に上がった事に首を傾げていた。


 私が原因とは考えに至っては無いようだ。


 苦戦したのが嘘の様にオークを『サンレイ』を使い、一撃で仕留めると、魔石を東横に回収してもらう。


「今日のダンジョンアタックはこれで終わりか···オークがこんなに簡単に倒せるようになるなんて」


「それだけレベルが上がっている証拠ですよ」


「···あと少しで下級上位だったんだけどなぁ···」


「まぁイブキの成長速度も十分に早い部類だから」


「良いなぁ東横はレベルがガンガン上がって」


「私も困惑してるんだからそれについては···」


 あたかも知らない事を装って私は話す。


 成長速度アップの固有能力がわかれば更に拘束される可能性がある。


 流石にこれ以上の拘束されるのは辛いので嫌なのだ。


 もっとも、私がもっとレベルが上がり、探索者協会との交渉ができるような立場になってから教えよう。


「まぁ全てはこの子達が産まれてからだね」


「そうなりますね」










 私が普通に布団で眠っていると夢を見た。


『よおイブキ、久しぶりだな』


「···マーちゃん?」


『あぁ、精神に干渉する魔法を使ってお前の夢に出てこさせてもらった』


「流石ですね。どれだけ魔法の高みに居るんですか」


『これくらいできなきゃ賢者は名乗れんよ。さて今日夢に出てきたのはお前の子供達についてだ』


「子供達ですか?」


 私がそう言うとマーちゃんの後ろからひょっこりと黄金に近い明るい茶髪の天使達が顔を出した。


 片方には白髪のメッシュが入っていた。


『ママ? パパ?』


「うーんどっちなんだろうねぇ···というか言葉わかるの?」


 その問いにマーちゃんが答える。


『私が何回も精神干渉を仕掛けたんだが、この子達に阻まれていたんだよ。あとお前が熟睡し過ぎて夢を全然見ないからな』


「それは···ごめん」


『私が精神干渉を繰り返していたからか、胎児なのに意識が産まれたんだよ。で、暗闇の中で産まれるまで待たせるのは可愛そうだから幻覚や幻聴を見せたり聴かせたりしている』


「幻覚幻聴って···」


『幻覚といっても色々な風景や様々な魔法だったり、幻聴も様々な音楽だな。イブキは子供をもっと甘やかせ、音楽を聴かせたりしろよ』


「面目ない···」


『とりあえずお前はママだ。精神も肉体も母親になろうしているんだからもう認めろ』


「はい···おいで二人共」


『ママ! ママ』


『まんま〜!』


 夢の中だからか重さは無い。


 ただ少し温かい様な感覚がある。


『私がわざわざ君の夢にまで出向いたのはこれから産まれてくるどちらかについてだ。白髪のメッシュの入っている方···男の子だ』


「へぇ~じゃあ男女の別々の双子なんですね」


『まぁこの意味を理解してねーな。天使病はTS病とも言われ、必ず女になる病だ。今までは人と天使が交わっても天使が産まれることの無い劣性遺伝子だったが、この子は天使に対して優性遺伝子を持っている。人と交わっても子供は天使になる。そういう強い遺伝子を持っている』


「それに何が問題が?」


『天使は固有能力を持っている。それに天使病患者はレベルが上がりやすくなっている。つまりこの子達の次の世代も次の次の世代も強力な天使が出現することを意味する』


『私も天使だから言えないが、優れ過ぎた個は尊敬されるが、それが一族、民族となってくると差別の対象となる。数が少なすぎて今は問題にならないが、それを危惧する団体がそのうち出てくるぞ』


『おめでとうイブキ、お前は天使一族の始祖となることが確定したんだ。育て方を絶対に間違えるなよ』


「間違えるとは?」


『天使のイメージを悪くする事をするなってことだ。人類に有益な間は迫害されることは無いだろうからな』


「まぁ気をつけます」


『本当にわかってるのか? ···まぁ小言は以上だ。私はこれからも子達が産まれるまでは干渉するぞ』


「それは良いのですが、産まれた後は?」


『私がマーキングできたのはイブキだからな。イブキと繋がっているから子供達に精神干渉ができているのであって、繋がりが無くなれば私でも干渉はできなくなる』


「なるほど···まぁ今はこの子達と遊んでますわ。おいで高い高いしてあげる」


『『キャッキャ』』








「ハッ···夢か」


 起きた瞬間にマーちゃんと子供達の夢を思い出す。


「···子供に優しくか」


 その日から私はクラシックの音楽を流し続け、お腹の子供達に聞こえるようにするのだった。








 夢の事を東横に話すと考えすぎじゃないと言われたが、天使病の男の子というのは確かに聞いたことがないのでその話が本当だった場合どうなるかを東横が上司に聞くと、上司からは優秀な探索者が増えるんなら支援するだけと言う答えが帰ってきた。


 それで良いのか探索者協会。


 結局は産まれてから全ては始まるので私達は安静に過ごすのだった。







「ん? 鮭酒アンラさんからだ。コラボのお誘いかぁ」


 鮭酒アンラからコラボのお誘いが届いた。


 前回のコラボで大いに迷惑をかけたので申し訳ない気持ちがある。


 ただ気になったのが鮭酒アンラさんだけでなくアンラさんよりも人気がある配信者も数名混じっている事だろう。


 コラボ内容としては私含めた五名で探索者あるあるネタや探索者配信者として気をつけていること等の雑談を一時間、その後にトランプゲームを一時間しないかというお誘いだ。


 こういう他の配信者とコラボして仲良し営業をすると互いに視聴者がチャンネル登録をして登録者数を上げることができる。


 ただ私のチャンネルのコンセプトが完全に実用性重視になっているため、私のチャンネルでは動画を挙げない事を条件にアンラさんにコラボOKの返信をする。


 場所も私に配慮して車で四十分程のところにある市街地のレンタルルームを借りて配信をするらしい。


 配信予定日は二週間後で、手続きとかはアンラさんのクランがしてくれるらしい。


「コラボかぁ···他の配信者の方も覚えとかないとなぁ」


 私はコラボするアンラさん以外の配信者の動画を見るのだった。




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