貧乏暇なし
「魔法理論を教えるとなると最初に吸うを教えるのは難しいよね···となると」
マーちゃん曰く六基の順番は吸うと練るが同時、巡らせる→纏わせる→交わらせるの三つは順番にと決まっている。
それ以外は組み替えても問題は無いらしい。
私の場合習得難易度が一番高い吸うと練るをやらされたが、となると最初に教えた方が良いのは···
「難易度的に巡らせるかな?」
魔力の流れを掴めれば吸う、練るの習得難易度は少し下がる。
文字に起こしながらどう説明するか考えるがなかなか難しい。
本人の意思に大きく影響するし、吸う、練るの習得は一歩間違えれば餓死してしまうので安易に勧めることと難しい。
そもそもレベル一や魔力ゼロの人が真似しても魔法ができるようになるわけでもない。
魔力が体に馴染むレベル二からの技術だ。
そこを間違えられたら困る。
「そういうのも動画で説明しないとかな」
私はパソコンに入力しながら教え方を考えるのだった。
動画の構想を考えているとピンポンとインターホンが鳴った。
「はいはーい」
私がドアを開けるとスーツ姿の女性が立っていた。
「始めまして後藤伊吹さん、岐阜県探索者協会から派遣された東横雪子です。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします。上がりますか? お茶出しますよ」
「ではお言葉に甘えて」
東横さんを家に上げて、お茶を出す。
「早速ですが私はあなたの事を疑っています。国を挙げて研究し続けられている魔法の理論化···そして更に先にある魔法を教えるという行為、あまりに先進的過ぎてペテン師なのではないかと思っています」
「なるほど」
「直ぐに証明できる技術等はありますか?」
「いえ、ありません。最低でも三ヶ月はいただかなければ実感しないでしょう」
「三ヶ月ですね···わかりました」
まず私は彼女と取り決めを行った。
ダンジョンに潜る時は撮影時はカメラマンとして同行し、それ以外では普通のパーティーとして行動すること。
報酬の分割は半々、マジックアイテム等は互いに協議の上で売却かどうかを決める。
動画は必ず東横さんが閲覧してからアップロードする。
なるべく外出する時は一緒に行動する。
これらの取り決めをした。
一見私が行動を大幅に制限されているようにも見えるが、外出時に車の運転を東横さんがしてくれたり、撮影協力もしてくれるのだ。
私の方がメリットが大きいし、彼女を拘束しているのは私の方であることを自覚しなくてはならない。
「ではこれからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
互いに同意をし、取り決めは終わった。
そこからは雑談だ。
お互いにどんな魔法を覚えているのかとか、戦闘スタイル、東横さんが東京に行ったことがあるので東京の様子等を聞いてみる。
東横さんの得意な魔法は、名前に雪が入っているように雪や冷却といった魔法が得意らしい。
同時に水の適性も高いので雪魔法だけでなく水魔法を織り交ぜることで戦術に幅を持たせていることも教えてくれた。
戦闘スタイルはバランスタイプで魔法の威力を上げてくれる職人の特注トンファーを使った遠近に対応した戦闘を行うらしい。
レベルは四十八でもうすぐ中級上位になるらしい。
探索者歴は高校生のときからでもう五年になるとのこと。
「やっぱり探索者を育成する学校だと一般の高校とは違うんですかね」
「専門学校に近いですね。入試の時に拘束されたゴブリンを殺して魔石を抜き取れるかが試験内容なのですが、それが出来なくて落ちる人も多いですし、普通に学科で落ちる方もいますし···入っても期間内に基準レベルに到達しなければ退学ですし」
「何レベルくらいなの?」
「一年で八レベルですね。二学期制なので半年で四レベル上げる必要があります。ただ卒業は二十五レベルが基準になっていますので、どこかで最低ラインより上げる必要がありますがね」
「そういう探索者高等学校って校内にダンジョンがあるって聞くけど本当?」
「はい、下級ダンジョンが必ずあります。またダンジョン都市にあるので活動範囲内に潜れるダンジョンは複数箇所ありますよ」
「なるほど···イマイチ探索者高等学校に縁が無いまま探索者になったんだけど、探索者高等学校に入学するメリットって何かあるの?」
「一日七時間の週六のカリキュラムなのですが、毎日三時間はダンジョンに関連する授業になってますね。素材の剥ぎ取り方、モンスターの種類、実際にダンジョンに潜って討伐···後は大学進学や企業就職に有利になりますね」
「やっぱり企業探索者は強いですか」
「私はなりませんでしたが、個人探索者と比べると違いますね。初期支援が段違いですし、社会的信用度もその方が高いので、車や家のローン審査が有利になりますから」
「東横さんはなぜ探索者協会に?」
「私の場合は親族に探索者協会で働いている人が多かったのとギルドナイトに憧れたからですね」
「探索者の警察···ですよね」
「はい。探索者が暴れた場合武力鎮圧をしますのであまり良いイメージは無いかもしれませんが、そういう汚れ役がいないと治安が終わりますからね。何よりギルドナイト経由の方が探索者協会の上役に昇進しやすいというのもありますよ」
「なるほど、俗物で少し安心しました」
「俗物で安心ですか?」
「底辺で生きてきた時間が長かったので、潔癖を心がけようとする人ほど他人とトラブルを起こすんですよ。自分の正義を信じているので。そういう人は自分勝手な行動をしますのでダンジョン内での暗黙のルールを平気で破る···極端な例ですが、打算とか欲望がある方が私は信じられるんですよ」
「苦労されたんですね」
「私みたいなのはいっぱいいますよ。ただ私は運が良かっただけです」
「傍から見たら運は悪いと思いますが?」
「天使になって才能が新たに付与された。子供ができたが師と出会えた···これを幸運と私は感じていますが?」
「本人が納得しているのならば良いですが···」
その後今後の配信と動画の話になる。
「配信ではなるべくお金になるダンジョンに入ります。モンスターが多く湧くダンジョンが良いので、ここらへんだと【キノコ園】というダンジョンが車で四十分弱の場所にありますのでそこと【ケーナーティオ】をメインダンジョンにしたいと思います」
「撮影外ですと経験値を優先したいので近場で長く狩れる【シグナル】と市街地にある【妖精の郷】に潜りましょう」
「待ってください。週に何日潜る気ですか?」
「週五ですが?」
「多くないですか? 普通の探索者だと週三とかでしょうに」
「貧乏暇なしですよ。この体になってからある程度稼げましたけど半年間の無収入だったので、口座から色々引かれてますし、これから子供達が産まれることを考えるとある程度纏まったお金が必要ですから···」
「世知辛いですね」
「東横さんも無理にとは言いませんが」
「いえ、私が居ない時に何かあれば困るので同行します。改めてよろしくお願いしますねイブキさん」
「ええ、よろしく東横」
私達握手をするのだった。
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