帰還
「そうかもう半年か···なかなか早い時間だったね」
「マーちゃん基礎に魔法とありがとうございました」
私はマーちゃんに頭を下げた。
「それは君の頑張りによるものだ。頭を下げる必要はない」
「いえ、お陰で私は強くなる理由が具体的になりました。配信者としてもこの魔法理論を広めることが使命と考えられるようになりました。これ以上は居られませんが、これからはここで習った事を昇華できるように頑張ります!」
「あぁ、頑張りたまえ。君が何かを成し遂げられることを心から祈っているよ」
私はマーちゃんに見送られて来た時の装具や荷物にマーちゃんから更に追加で渡された便利な魔法四種を含めた五冊の本を持って、異空間【ヘブン】から追い出された。
「でさぁ」
「マジ受けるんですけど」
なんか飛ばされたら狭い空間だった。
頭の輪っかで光らせるとどうやら土の中の空間にいるっぽい。
外から声も聞こえるし。
頭上にある石はこれあれだ、墓石だ。
墓石は動かない作りだから、これ穴掘って出ろってか?
全く最後の最後で不親切な師匠だ。
「なんかガリガリ音がしねぇ?」
「ん? 気のせいじゃね? 聞こえねーよ?」
「いやなんか足元から聞こえるんだよな」
「なんだよ怖がらせんなよ」
ボコと地面が盛り上がり、いきなり俺の足を色白の腕が掴んできた。
「ギャァァァ!!」
「なんだよいきなり叫ぶ···うわぁぁぁぁ! お化けえ!」
「煩いなぁ」
「「出たぁぁぁ!」」
「うるせぇ!」
墓場からいきなり天使の姉ちゃんが地面から這い出てきた。
「今何日?」
「十二月の二十五日です」
「クリスマスかよ、マジで生誕やん」
とりあえずその場に居た若い兄ちゃん達を黙らせ、日付を聞いてからダンジョンの外を目指す。
ダンジョンの外にでて管理人に顔を出すとまたお化け扱いされた。
俺の愛車は警察が押収しているらしく、管理人にダンジョンで半年間彷徨っていた事を説明すると、直ぐに警察を呼んで、人生初のパトカーで警察署まで連れて行かれた。
「後藤伊吹さんですね。ダンジョン探索中に失踪、映像では壁の中に吸い込まれていく様子が確認されていましたが」
「別のダンジョンに飛ばされていて半年かけて帰ってきたの」
警察から事情聴取を受けること数時間、ダンジョンで数週間行方不明から生還した例はあれど半年というのは無く、本人確認やダンジョンの管理人に不備が無かったのか、押収された車の返却手続き、捜索願の取り下げ等の諸々の手続きを済ませた後、今度は探索者協会の岐阜支部から呼び出され、電車に揺られて一時間かけて向かった。
まぁここでも事情聴取と停止した探索者証明証や紐づけされた口座の解除、そしてマーちゃんこと辻聖子さんが助けてくれたことを話した。
「辻聖子···十年前の星六つの探索者だったな。彼女は生きているのか?」
「肉体は捨てていましたが解脱して霊体として魂だけの存在となっていました。彼女は特殊ダンジョン【ヘブン】にて魔法の研究を続けています」
「【ヘブン】···該当するダンジョンは無いが」
「彼女曰く多層次元断裂事故の際に偶然発見したダンジョンと言っていました。恐らく異空間にあるダンジョンで入る方法も彼女が呼ばなければ行けないようです」
「再現性は無いと」
「はい。あと彼女は賢者と名乗っていましたが、本物の天才で、魔導書の自分で書ける域に到達していました」
「な、なに!? 魔導書が書けるだと!」
「はい、これがその魔導書になります」
私は五冊の魔導書を渡した。
「本当だ。全て日本語で書かれている···全て読んでも問題はないのか?」
「ええ、消えることはありませんが、内容は理解できないと思います」
職員達が集まり各々本を読むが、内容を理解できないようだ
「コピーを取ってもらって構いません。ただ原本は譲りません。彼女からの宿題なので」
「一冊一億を払うとしてもか?」
「ええ、覚え方を理解している私でも解読するまで数ヶ月かかりますし、それを教えるとなると更に時間がかかります」
「なに? 魔法を教えられるのか!!」
「はい、彼女から魔法についての基礎をみっちり学びましたので私が更に魔法の理論を詰めれば教えることができるようになると思います」
「どんな魔法を?」
「今私が魔導書で覚えたのはこれですね」
そう言って『サンレイ』の魔導書を指差す
「サンレイ···それこそ辻聖子が星六探索者に上がれた由来の魔法だったな。映像が僅かばかり残っていたが、魔力量によって威力が変化するビームの魔法だったか」
「はい。そうです。ただ私もまだこの魔法の実践経験が乏しいので教えてできるかは運次第になりますが」
「ちょっと待っててください」
質問をしていた捜査官が電話で誰かと話すとスーツの偉そうなおじさんが入室してきた。
どうやら岐阜県の探索者支部の支部長の様だ。
「後藤伊吹君だったね。君の事はお弟子さんから耳にしていてね。無事の帰還おめでとう」
「ありがとうございます···ん? 弟子?」
「山田洋介君、椎名華澄君の二名は君の弟子と聞いていたが違うのかい?」
「約半年前に教えていた子達ですね」
「岐阜県だとキャリア最短で上級下位まで成長した天才達だよ。それを育てた逸材が行方不明になったと聞いて手痛い損失だと思っていたから無事に生還できて本当に良かった」
「そうですか···山田と椎名が上級ですか」
二人はあれから成長速度が落ちること無く成長していったらしい。
ここでの話し合いが終わったら直ぐに連絡しないとな。
「部下から魔法を教えられると聞いたが本当かね」
「一応できるか出来ないかでいえばできますが、本人の資質に左右されるのでそれはご了承ください」
「いや、それでも十分だ。我が国は安全性を考慮して魔法の研究が諸外国よりも遅れているからな。それが僅かにでも縮まるのならば良いことだ」
「あの···国家機密とかになりますかね?」
「いや、個人が教えるのを制限するつもりはない。ただ亡命とかはしないでもらいたいがな」
「それならばまぁ···師匠の辻さんは自身の魔法理論により魔法の質が上がることを求めておりました。なので私はそれを発信する使命があるのです」
「それは構わない。ただ内容が内容だけに諸外国から目をつけられるかもしれないぞ。君が今住んでいるアパートでは防諜の危険性がかなりある」
「···ならばそうですね、動画を先にそちらに送りますので精査してから配信することにします。また今住んでいるアパートの大家とは仲が良いのと迷惑をかけたので二年間は住みますが、そしたら支部のあるダンジョン都市に引っ越しをしたいのですが」
「その方が良いだろうね。こちらから君の護衛兼教育を受けても良いという人物を送る。それでも良いかね」
「はい、構いません···あと」
私は今妊娠していることを話した。
ダンジョンのマジックアイテムの受胎のイヤリングを誤って使用してしまった事を話した。
「なるほど···マジックアイテムにその様な物があるのか」
「天使病患者と人間が子供を作っても人間が普通生まれますが、ダンジョンのマジックアイテムで産まれる子供なのでお腹に二つのリングがあるように恐らく天使の姿で産まれるかと」
「···わかった。それを踏まえて支えられる人材を送ろう」
「ありがとうございます」
「いや、こちらも先行投資だ。優秀な探索者が増えるのは喜ばしいからな。WIN-WINの関係だ」
「それでも助かります」
「一応生還したことはこちらの配下のニュースや新聞に掲載させてもらうがよろしいか」
「はい! ご自由にどうぞ」
「物わかりが良くて助かるよ」
私は支部長と握手をするのだった。
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