身近な人達への謝罪
山田と椎名のメッセージに『我生還』というメッセージとスタンプを押すと直ぐに電話がかかってきてグループ通話が始まった。
「ごめん心配かけたね」
『イブキさん! 良かった···本当に良かった。配信見てたらいきなり消えるんだもん』
『良かった生きていてくれて』
「本当にごめんよ」
事の経緯を説明し、今探索者支部に居てアパートに帰る方法を探しているというと山田が
「俺車買ったんで椎名と一緒に迎えに行きますよ」
と言われた。
山田のお言葉に甘え、支部で待っているとファミリーカーが駐車場に停まり、山田と椎名が降りてきた。
「「イブキさん!」」
ガシッとハグされ私はパンパンと二人の背中を軽く叩く。
「本当に迷惑をかけたね」
「本当ですよ! どれだけ心配したか」
「俺ら何度もそのダンジョンの捜索したんですよ」
「ありがとうね。あと二人共上級に上がったんだって? おめでとう!」
「ありがとうございます」
「イブキさんの教えを守って戦ってますよ。今ではこんな新車を買えるようになりました!」
有名な国産ファミリーカーだがローンではなく一括で支払ったとのことで、約三百七十万を少し貯めれば払えるほど高給取りになったらしい。
車に乗り込んで二人に話を聞くと、私が失踪してから強い人でもいきなり居なくなる可能性があると思い知らされ、二人共思いをぶつけて付き合い始めたらしい。
椎名の親父さんも探索者としてメキメキ成長する山田の姿を見て、娘を預けても良いと思い、結婚を前提に付き合っているらしい。
今は結婚式の予算とマイホームの予算を貯金しているとのこと。
「上級だとどれくらい稼げるの?」
「俺達は上級ダンジョンには潜ってないので中級ダンジョンに日帰りで潜ることが多いですが、一回で五十万から百万円は稼げますね」
「(山田)洋介が前衛で私が後衛って役割分担できているのと、武器や防具をしっかり揃えたので中級のボスでも遅れを取ることはないですね」
「俺は今小刀二刀流で、(椎名)華澄が狩猟笛っていうトロン・ボーンみたいな笛の音色で攻撃魔法を放ったり、支援したりでガンガン狩ってます。怪我をしても華澄の治癒魔法か俺が調合した薬で治るので」
「調合してるの?」
「はい、車の免許取ったり、講習を受けて薬の作り方を習ったりしました! レベルが上がると物覚えも良くなった気がして火薬講習とかも受けましたよ」
「なるほどねぇ···いやぁ二人がくっついてくれて良かったよ。それが心配だったから」
「また居なくなるような発言はやめてくださいよ」
道中コンビニに寄って夜食を買い、車内で食事をとった後にこれまでの事や魔法の修行をしたこと、師匠の話をした。
「魔法の理論ですか。俺達も気になります」
「今度時間をとって教えるよ」
「あとお子さんできたんですね」
「お腹がぽっこりしているのと言うかリングが二つ浮いているのでわかりましたが」
「この子達ね···師匠が言うには神らしいんだけど実感ないなー。普通の子みたいに元気に成長してくれたら嬉しいんだけど」
「イブキさんの子供なら凄い探索者になりそうですね」
「マジックアイテムで子供ができることもあるんですね」
「だから二人も万が一に備えて早めに仕込んだ方が良いよ」
「セクハラっすよ! イブキさん」
「にゃはは!」
そうこうしていると私のアパートに到着し、二人はまた今度と言って帰っていった。
「さてと」
大家のインターホンを押す。
「すみません、後藤です!」
そう言うとインターホン越しにドタバタと音がして
「ご、後藤さん!?」
「親父! 後藤さん帰ってきた!!」
大家のおばちゃんと息子さんが出てきて私を中に入れてくれた。
大家のおじさんを含めて経緯を話すと安堵したのかおばちゃんには泣かれ、おじさんは祝い酒だと言って高そうな日本酒を息子さんと飲み始めた。
お腹に子供達が居ることや探索者支部から護衛の方が住むかもしれないことを話すと
「全然オッケーよ! 私達も子供達の面倒を見るわよ! ねぇあなた」
「あぁ! そっか二年後には引っ越しなのは少し寂しいが、仕方がないな。ただそれまではこっちもサポートするからな」
「後藤さん、買い出しとかきつくなったら言って下さい。俺も手伝いますから」
「皆さんありがとうございます!」
「部屋なんだけど一応家賃貰っていたから軽く中の掃除はしていたわ。所々触れないところがあるけれど確認してみて頂戴。あと缶詰以外の食品は廃棄しといたわよ」
「何から何まですみません」
「いいのよ。こうやってまた喋れて良かったわ」
大家さん一家の挨拶も終わり、続いて榊原さんに挨拶すると榊原さんは泣きながら怒られた。
あれだけ気をつけろよって言っていたのにいきなり消えるのだから、だから探索者なんて危ない職業よりも安定した職業か、せめて配信で食っていけよと言われた。
探索者あっての私だ。
「もうこの様な事は無いようにしますから泣かないでくださいよ」
いい大人がギャン泣きである。
落ち着かせてから久しぶりに自分の部屋に入ると、確かに少しばかり掃除が行き届いてない部分はあれど異臭がするとかは無く、ちゃんと家電も使えそうである。
パソコンもホコリを掃除してから起動すると問題なく動いた。
すぐさまSNSにダンジョンから生還したことと事の経緯を話す配信を明日すると伝えてから久しぶりの湯船に浸かるのだった。
【朗報 天使のイブキ生還】
鮭酒アンラチャンネルとコラボ中に壁にめり込んで消えるという衝撃的な配信から消息不明となっていた天使のイブキのSNSが昨夜突如として動いた。
内容は半年かけてダンジョンから帰還しましたという衝撃的な記述であり、生存は絶望的と言われた天使のイブキが今夜配信をすると注目が集まっている。
事前に告知された内容だと生還までの経緯と今後の活動を踏まえた重大報告が言われている。
失踪期間中にチャンネル登録者が五十万人を突破した異質の配信者天使のイブキ···今後の動向に目が話せない。
『イブキちゃん生還確定』
『良かった···本当に良かった』
『ニュースになるくらい異質な失踪の仕方をしたからな』
『B級ホラー映画よりも怖かった』
『壁抜けバグの人だ』
『夜の配信が待ち遠しい』
『祝賀会じゃぁ!』
「なんかネットニュースになってるし···チャンネル登録者が五十万人超えてるしどうなってるの」
朝起きてスマホを見ると鮭酒アンラさんから何通ものメールとSNSのフォロー、リプの数がバグっていた。
そしてネットニュースで大々的に取り上げられているのにも驚きだ。
「完全に浦島太郎やん」
とりあえずアンラさんになんとか生還できたこと、夜の配信でアンラさんは悪くないことを言いますからとSNSでアンラさんを叩こうとしていた連中に牽制することを約束する。
朝一で私の車がレッカー車で警察から届けられ、洗車したり、ガソリンを入れ直してちゃんと走るか確認したり、ついでに買い物をした後に部屋の掃除をし、配信に備える。
早めの夕飯をとり、マイクの調整とお詫びと言うサムネを表示するとまだ配信まで一時間以上あるのに二千人が待機している。
「あーあー、よし、マイク入ってるね」
私は配信開始ボタンを押すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます