六つの基礎とサンレイ

「ところでマーちゃん」


「どうしたんだい?」


「私が半年で覚えられる範囲を覚えたとしてどれくらいの強さになるの?」


「そうだね···基礎能力を底上げするだけだからどんなに頑張っても今のレベルならば上級下位には勝てないだろうね。あと私みたいな本物の天才にも勝てないだろうね」


「結構上澄みになれると思ったんだけど」


「レベルが上がればそりゃ上に行けるだろうけど、覆せるレベル差はせいぜい二十五までだ。星持ちとなると基礎能力プラス相性になるから本当の意味で上澄みとなると星五からだ」


「じゃあやっぱりレベルを上げなければいけないんだね」


「そうだ。結局のところレベルだ。この【ヘブン】のモンスターは修行には良いが、レベル効率は良くない。特に嫌いな物が雑魚の前の体だと余計にな」


 マーちゃんからレベルについて詳しく聞かされる。


 ダンジョン内で得た経験値が肉体に反映されるシステムになっているらしく、ダンジョンの外でモンスターを狩っても、レベルは上がらないのだとか。


 また経験値量は魔石の大きさと質に左右されるらしく、魔石の大きさは大きければ大きいほど、質は色合いが良ければ良いほど良いらしい。


 つまりビー玉よりも小さく、灰色の【ヘブン】のモンスターの魔石だと経験値効率は最悪に近い。


「つまりここでどれだけモンスターを倒しても」


「半年で五レベル上がれば良いほうじゃないか?」


「ガッデム!」


「まぁその分基礎をガチガチにしてやる。天使の才能(対象の成長速度アップ)は私には鍛えられないが、基礎の固め方を覚えれば弟子や仲間にも伝授できるんじゃないか?」


 確かにそう言われればそうかもしれない。


 まだまだ多くの出会いがある中で仲間の成長を促し、レベルよりも強くなれる方法を教えられるとなれば一定の地位を得ることはできるし、強い仲間に恵まれればそれだけ中級以上のダンジョン攻略が楽になる。


「今まで独学で学んできましたのでマーちゃん、どうか私には探索者として教えられることを改めて教えてください」


「勿論だよ。吸う、練る、放つ、巡らせるときたから、次は纏わせるだね」


 そうマーちゃんが言うと針を生み出し


「針で指を指して血を出す。血を魔力の流れをコントロールすることで止血するんだ。そうすれば治癒魔法が無くても戦闘をある程度継続することができる。私達天使は光魔法が得意だから治癒魔法もほぼ覚えられるがそうではない人向けになるね。次のステップの為に覚えてくれ」


 私は鍛錬を再開するのだった。








 纏わせるの次は、交わるの鍛錬をするらしい。


 人と交わるのではなく異なる魔力を交わらせることで魔力を活性化させるのだとか。


「普通ならばイブキならば光の魔法と雷の魔法、水の魔法の元となる魔力を体内で交わらせるのだけど、今君の中には胎児がある。君の鍛錬で胎児達も、成長しているはずだし、何なら君の成長速度上昇や君が倒したモンスターの経験値も蓄積されているだろうから我が子に魔法を覚えさせる感覚で交わらせてみなさい」


 我が子と言われても凄い不思議な感覚だ。


 心は男だと思っていたが、体が女になり、更には母親になろうとしている。


 TSして母親になるなんて思ってもいなかったが、降ろすという考えが起きず、成長している胎児に対して愛着すら覚え始めている。


 思考が変わってきているのかどうなのか···それが天使の影響なのか、元々私にあった母性なのかは知らないが···


 もし子供ができれば今のような生活スタイルは無理になる。


 ダンジョンに長時間潜ることはできなくなるし、子育てにお金が沢山必要になるだろう。


「はぁ···強くなって稼げるダンジョンで稼ぐしかないよね」


 私は強くなる目的が名誉欲や金銭欲ではなく、いつの間にか子供の為に切り替わっていることにこの時認識したのだった。






 交わりの修行を始めると闇以外の全種類の魔法が交じわることになった。


 子供達は私よりも魔法の適性があるらしく、魔力を胎児に流すと様々な魔力を返してくれる。


 マーちゃんが交わりの修行は仙人の房中術に似ていると言っていたが、確かに子宮を器に見立てて中で魔力を循環及び交わらせると魔力が更に増幅しているように感じた。


「魔力の総量は増えてはないが、魔力の変換効率を極限まで高めている。それ故に増幅したと錯覚する」


 と言われました。


 流石賢者を自称するだけある。


 修行方法に無駄が一切無い。


 全てが強くなるために繋がっている。


 約二ヶ月が経過し、日々のルーティンが出来上がり始めた。


 瞑想、狩り、食事、修行、瞑想、狩り、修行、瞑想、睡眠


 こうすることで魔力のコントロールを最適化する事ができる。









 ある日朝起きるとお腹に天使のリングが二つ浮かび上がっていた。


 私の背中には更に小さな翼が四翼ほど増えていた。


「マーちゃんこれは」


「人と天使が交わっても天使が産まれることは無いけど、君の場合ダンジョンのアイテムで孕んだからね。そりゃ天使になるわな」


「でも神じゃないの?」


「神だよ。天使は神の化身だよ? 翼やリングが付いていてもおかしくはないじゃないか」


「そういうものなの?」


「そういうものさ」







 子供達がお腹の中ですくすくと成長し、ここに来て折り返しの三ヶ月が経過した。


 吸う、練る、放つ、巡らせる、纏わせる、交わるの六つの基礎を一通り習得した私はマーちゃんから書物を渡された。


「残りの三ヶ月は空いた時間にこの魔導書を解読しなさい」


「魔導書って頭に入ってくる物では?」


「それはダンジョン産のね。これは私が書いた魔導書だ。解読する必要はあるけれども、理解できれば新たな魔法を覚えることができるでしょう」


 魔導書を書けるなんて聞いたことがない。


 たぶんマーちゃんは本当の天才だったのだろう。


 ダンジョンのマジックアイテムの再現はできても魔導書は神の域と言われ、何も研究が進んでいないのが現状だ。


 それを自らの魔法を解析し、言語化して書籍化することができる···それはまさしく偉業だろう。


「ちなみにマーちゃんは幾つの魔法を習得しているの?」


「賢者だから全て···と言いたいけれど三百程で、言語化できるのは五つ、そのうち攻撃魔法は一つだけだね」


「この魔導書って」


「そう、私が一番得意で頼りにしていた攻撃魔法だよ」


 と教えてくれた。


 書籍の解読ついでにダンジョンに対しての講義もしてもらい、探索者としての質を更に高めるのであった。









 この空間に来て五ヶ月後、魔導書の解読を始めて二ヶ月後に何度も何度も読み直してようやく魔導書を理解できた。


 確かに六つの基礎を全て理解した上で解読に取り掛からないと同じ日本語で書かれているのに何のことかわからない作りになっていた。


「魔力の射出口を決める」


 空中に魔法陣が浮かび上がる。


「発射する威力分の魔力を込める」


 魔法陣が光り輝く。


「拡散させるか集中させるかを決める」


 最後に一言


「サンレイ」


 込められた魔力の分だけ威力を増し、発射量、拡散、集中の選択、そして自己改良が可能な拡張性。


 確かに賢者と名乗るに相応しい魔法だ。


 威力減衰開始距離三百メートル、威力を更に込めれば二キロ三キロ先まで殺傷能力を持つ魔法。


 太陽の名を持つように光の束のレーザーだ。


「便利過ぎる魔法だ」


「そうだね。私はこれに対をなす防御魔法を持っているけど、それはイブキ、君への宿題にしよう。まだ私も言語化できていないんだ。君なら必ずその魔法を覚えて解析し、言語化できると思っているよ」


「わかりました」


 私はマーちゃんと握手をした。


 マーちゃんには肉体が無いが、その時確かに握手をできたように感じた。

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