伝説のコラボ回

 家に帰り動画を撮って編集をしていると、両耳の耳たぶに太陰大極図の模様が描かれていた。


 耳たぶを触ってみるが特に違和感は感じない。


 それどころか体調はすこぶる良い。


「結局なんのイヤリングかわからなかったな」


 壊れたイヤリングは何も価値が無い為、ガラクタと化してしまったが···子ワタを倒したお金で黒字だが、マジックアイテムとして売れば十万円以上の価値があっただけに少々落胆である。


「まぁこれも良い経験かな。マジックアイテムは鑑定が終わるまで不用意に身に着けてはいけないっていうね」


 動画のネタにはなるので完全に無意味ではなかったのが救いだが、壊れた事に対して少々悲しくはなった。


「さてと、コラボの準備を進めないと···明日は車の掃除と撮影機材の整備かな」










 コラボ当日、高速道路を経由し愛知県名古屋市の空港近くの住宅街に車で向かい、待ち合わせのハンバーガーショップで朝食を取りながら待機していた。


「お待たせしました。て! もう食べてる!?」


「あ、アンラさんおはようございます。今日はよろしくお願いします」


「よろしくねイブキちゃん。結構食べるね」


「ここ数日食欲が湧いてヤバいんですよね」


 そう言いながら三つ目のハンバーガーを食べている。


「今日向かうダンジョンは亡霊のダンジョンと言われていてスケルトンが多く出るダンジョンだから早めに食べておいて正解かも! あそこに行くと食欲がわかなくなるからね」


「調べましたが墓場みたいな草原タイプのダンジョンですよね···なんか嫌ですね」


「私も苦手なんだけど上から面白い配信をしてくれって命令されてて···そうなると可愛い女子達が怖がる姿を見せた方が良いかなって思ってね! 怖がらなくて淡々とスケルトンを処理するのでも面白いからオッケーだし」


「なるほどそういう方向で行きますか···わかりました。改めて今日はよろしくお願いします」


「はい、よろしくね!」









「皆さんコンハロー! 鮭酒アンラです! 今日はコラボで悪魔と対の天使の少女とコラボだよ!」


「天使のイブキです! 皆さんよろしくお願いします!」


「はい、天使のイブキちゃんが来てくれました!」


 配信は同接二百人スタート。


 土曜日とはいえ午前中···ここまで初期同接を出せるのはアンラさんの固定客のお陰だろう。


「今日はコラボ探索でダンジョン【ヘブンスター】をアタックしたいと思います!」


「アンラさんのサポートができるように頑張ります!」


「イブキちゃんやる気十分だね!」


 何故今回のコラボが実現した理由をアンラさんが私の配信をたまたま見ていてせっかくだから一緒にダンジョンアタックをしようという互いに決めていた事を話し、その後互いに戦闘スタイルの確認や武器紹介をして、ダンジョンに潜る。


 とにかく墓場であり、出てくるモンスターは火の玉とスケルトンというお化け屋敷みたいなダンジョンだ。


 スケルトンも火の玉も魔石しか売れる場所は無く、換金率は低いが不人気ダンジョンということもあり、どこで戦っても迷惑にならないという利点がある。


 前衛は私、後衛がアンラさんというスタイルでスケルトンを倒していく。


 アンラさんは闇魔法が得意で、ダークボールという闇魔法が凝縮した魔法を得意とし、同時に八つのダークボールを意のままに操り、スケルトンや火の玉を倒していく。


 私も雑談をしながらスケルトンを殴り倒し、魔石を回収していく。


「お墓ですが、何か書かれていますね」


 墓場に見立てたダンジョンなだけあり、洋風のお墓が建ち並んでいる。


 墓にはよくわからない言語で文字が掘られている。


「読めないですね。イブキちゃんは読める?」


「さっぱりです」


「だよね~···押しても引いても動かないんだよねこのお墓」


「そりゃお墓が動いたら駄目でしょうに」


「あはは、そうだね」


 私もキョロキョロとお墓を見るが、ふとやたらと大きなお墓を見つけた。


 近寄ってみると四メートルほどの石柱で達筆な英語で何か書かれていた。


「このお墓だけ英語ですね。アンラさん読めます?」


「なになに、賢者ここに眠るらしいよ」


「賢者ですか···」


 賢者と聞くと二十年前に悟りを開いたと言う女性探索者が居たらしいが、十年前の名古屋最大の上級ダンジョン【桶狭間】の多層次元断裂事故で亡くなったと聞いたことがある。


 多層次元断裂とは中級ダンジョン以上になるとダンジョンが階層になっており、それが大魔法等の影響で階層の仕切る次元が壊れて亜空間に接続してしまうことである。


 亜空間に飲み込まれると次元の狭間に挟まれた状態になり、とんでもない圧力がかかり、生物は必ず死に至らしめるらしい。


「賢者と言うと十年前の事故が思い浮かびますが」


「当日は連日ニュースになっていたからね。星持ち含め上級探索者が五十名近く亡くなったし」


「あの事故は衝撃的でした···このお墓の賢者ってその時に亡くなった方とは違いますよね?」


「たぶんそうだね。まだ配信業界も今ほど盛んじゃなかったし、凄腕探索者の記録はテレビや書籍の情報が主流だったからね」


「今はスマホで調べれば一発ですからね」


 お墓を調べてみるが特に変な場所は無く、再びスケルトン狩りに戻った。








 配信も終盤となり、来た道を戻っていると、行きの時には気にならなかったが、やたらと小さなお墓が他のお墓から隔離されたかのようにポツンと墓石が置かれていた。


 そのお墓の前に私と同じ天使の姿をした女性が立っている。


「アンラさん、あちらにも天使の方が」


「···ん? どこにも居ないよ?」


「え? でもあそこに」


 と再び振り向くと誰も居なかった。


 私は墓石に近づくと日本語で文字が掘られていた。


『罪人ここに眠る』


「日本語だね」


「日本語ですね」


 何も無いと思いながらも調べてみるが何も無い。


「この墓に何か意味があるのでしょうか」


 と私が墓石に体重をかけるとガコンと墓石がハマる音がした。


 すると墓石の文字が変わり


『賢者ここに眠る』


 に変化した。


「なんか文字が変わりましたけど?」


「賢者···もう一度英語の賢者の墓に行ってみる?」


「そうですね」


 私達が賢者のところに行くと大きな賢者の墓石がズレていて墓石の底から鍵が置かれていた。


「鍵?」


「鍵だね···何かに使うんだろうか?」


 とりあえず手分けして周囲の墓石を調べてみると墓石の一つに小さな穴だけ空いていて、文字が何も書かれていない墓石を見つけた。


「たぶんここですよ」


「使ってみようか」


 アンラさんが鍵をハメると墓石がズレ、地下に続く通路が出現した。


「行ってみます?」


「隠し部屋に行かないのは探索者として駄目でしょ」


 私の頭の輪っかの明かりを強く光らせて、先に進む。


 すると奥には鎖で繋がれたスケルトンか白骨死体かわからない物が落ちていた。


「これは···どっちだ?」


「これは管理者に報告した方が良いですかね」


「そうだね。一緒に報告しに向かおうか」


「はい」


 私達が離れようとした時、私は気配を感じて後ろを振り向くと天使の女性がそこに居た。


 彼女は足枷を指さしている。


「アンラさん、アンラさん!」


「何?」


「後ろ···後ろ!」


「···? 何も無いわよ?」


「え?」


 私には眼の前に天使の女性が見えている。


 じっとこちらを見ながら足枷を指さしている。


「アンラさん、鍵を借りて良いですか?」


「別に良いけど」


 私はアンラさんから鍵を受け取ると足枷の方に向かい、足枷を調べると鍵と同じ様な穴が空いていた。


 ガチャンと足枷を外すと女の人がこちらに近づいてきて何かを囁いた。










 私ことアンラと視聴者達は、いきなりの出来事に困惑していた。


 足枷を外したイブキががたりと倒れると浮かび上がり、鍵を持ちながらふわふわと数度旋回するとそのまま奥の壁に吸い込まれていった。


 壁に完全に飲み込まれ、私がハッとして壁を触るが硬い壁でしか無い。


 そしていつの間にか足元にあった骨も消えていた。


「ひ、ひいぃ!」


 私は恐ろしくなってその場から逃げ出した。


 配信は勿論終了し、ダンジョン管理者に直ぐに連絡して調査をしてもらったが、私がダンジョンに再び潜ると賢者と書かれた巨大な墓石も小さな墓石も鍵穴のあった墓石も無くなり、普通の墓石に置き換わっていた。


 数日間の調査がされた後にイブキは行方不明扱いとなり、私の配信は伝説の回となり、イブキが消えるシーンの転載切り抜きは二千万回再生を半年で突破し、伝説のホラー配信とされた。


 チャンネル登録者はこの事件で一気に伸びて二十万人になり、話題の最中に野次馬系の配信者と多数コラボしたことで認知度も上がった。


 ただ当事者のイブキのチャンネルは更新が無いのに登録者が五十万人を突破し、最後に投稿された動画のコメント欄はお悔やみのコメントで溢れていた。

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