呪いのイヤリング
コラボのお誘い
「コラボのお誘い?」
メッセージを開くととある配信者からコラボをしませんかというお誘いだった。
相手も個人の配信者で、悪魔病に感染してレベルダウンを経験したらしい。
元のレベルは四十二で、今のレベルは十二。
登録者数は一万五千人と私よりも遥かに格上だ。
文面や配信を見てみると焦っている事がよく分かる。
俺みたいに元が低ければ良いが、相手は中級中位まで歩みを進めていたところにリセットを喰らったので相当堪えたのだろう。
元のパーティは脱退し、一応配信者のクランには在籍扱いだが、お荷物扱いなのだろうかクランへの運営維持費が足枷になっている気がする。
私には配信者のコネみたいなのが皆無なので、コネが僅かばかり増えるだけでも違うだろう。
それに格上の配信者からのお誘いなんて滅多に無いだろうし···
相手は名古屋在住らしいので私がそちらに車で伺うという返答をし、連絡先に電話する。
『はい、鮭酒アンラです!』
「初めまして天使のイブキです」
『イブキさん初めまして! 配信は観させてもらってます』
「ありがとうございます。コラボのお誘いですが、メールで送ったようにオッケーということで」
『はい! ありがとうございます』
独特なイントネーションで語尾が必ず上がる喋り方をしている。
たぶん素でこれなのだろう。
「色々条件を詰めていきましょう」
話し合いの結果、一週間後に初日は私がアンラさんのチャンネルにお邪魔する形をとる。
泊まる場所として自宅に来ますか? と言われたが、流石に初対面の人なので今回は遠慮して近くのホテルに泊まると答えた。
ダンジョン内での利益の割り振りは登録者数の関係で、私の方が視聴者が流れてくるだろうし、クランへの上納金が厳しいアンラさんへの配慮で私が三、アンラさんが七と決めた。
何故私をコラボに誘ったのか聞いてみると、クランの運営側がアンラさんのチャンネルを比較的伸びそうな配信者とまだ成長途上の段階でコラボを積極的に行い、伸びた後に再びコラボをすることで釣られて伸びるという投資タイプのコラボをした方が良いとなったらしい。
まぁそれも戦略の一つなので私は面白いと思う。
『コラボをキッカケに私達のクランに将来加入してもらえば更に嬉しいですし···』
「なるほど」
打算だらけのコラボだわな。
ちょうど近場かつ天使で見栄えも良い。
配信者の基礎を押さえているの要素が合致して上と相談してコラボを決めたらしい。
期待されているのかされていないのかよくわからないな。
とにかく一週間後コラボが決まったのでその前にやることをやっておこう。
やるべきことと言えば、探索者証明証の更新だ。
レベルが上がり、下級中位となったので、更新する必要があった。
二時間かけて百合ヶ丘の探索者支部に向かい、更新と能力測定を行ってきた。
まず腕力の測定で、徐々に重くなる物質を持つ時間は、前回の一分十秒から四十秒伸びて一分五十秒を計測した。
五十メートル走は四秒七五、反復横跳びが八十五回、シャトルランも百五十回と大幅に記録が上がっていた。
魔力測定と耐性検査は前回とほぼ同じなので割愛し、記録用紙が渡された。
【後藤伊吹】
·レベル 十
·腕力 二十九 下級上位
·脚力 三十七 中級下位
·体力 四十 中級中位
·魔力 五十一 中級上位
·適性魔法
光◎
雷○
水△
·耐性 火◎水◎風◎雷◎土○雪◎草◎闇△光◎
毒◎火傷◎眠り○麻痺◎呪い○石化◎魅了○
·適性職種
魔法使い
魔剣士
治癒士
タンク
能力が大幅に上がっている。
腕力ももう少しで中級の域に入るので総じて中級下位のレベルはありそうだ。
レベルとスペックの乖離が激しい気がするがそれは嬉しい乖離なので気にはしない。
時間にもまだ余裕があるのでダンジョン都市百合ヶ丘の下級ダンジョンに挑むことにした。
大人気のダンジョンで連日一時間近く並ばないと入場できない下級ダンジョンで、マップも隅々まで埋められている安全なダンジョンだ。
何故そんなダンジョンが人気なのかと言うと宝箱が異様に出るからだ。
宝箱の出現スピードが一時間に三つ、どれも最低で十万円程度の価値、出てくるモンスターも子ワタと呼ばれる綿の様なふわふわしたモンスターとゴブリンで、子ワタは特に攻撃してこないし、燃やさずに倒せば服の素材として一キロ二千円で買い取ってくれる。
岐阜県だど最優良なダンジョンとも言われている。
宝箱には期待していないが入った事がなかったので、せっかくだから行ってみるかと私はそのダンジョンに向かった。
このダンジョンは人数が多い為に配信行為が原則禁止されていたり、初めて駅のゲートの様な探索者証明証をタッチして入場するタイプであったり、アイテム屋がスーパーマーケット並みにデカかったり、換金所も半自動になっていたりとそこら辺のダンジョン施設とは明らかに金のかけ方が違っていた。
列に並ぶこと一時間、ようやくダンジョンに潜れる。
私の今のスタイルは両翼と背中に大きなリュックを背負ったり固定したりしていてとっても目立つが、中には世紀末のモヒカンスタイルや中世の騎士スタイル、ビキニアーマーだったりと普通のダンジョンよりも人が集まるのと下級ダンジョンということもあり様々な探索者がごった返していた。
まるでコスプレ会場である。
ゲート横の端末に探索者証明証をかざすとゲートが開き、奥に進むとコンクリート製だった入口とは違い、洞窟タイプのダンジョンらしく岩肌が露出していたが、看板が岩に埋め込まれていたり、LEDのライトが壁に吊り下げられていて全く暗くない。
そりゃ人気になるわと凄まじく親切に整備されていることが分かる。
道は最初の部屋までは一本道で、そこからアリの巣の様に多数に分岐するらしい。
部屋の数は三百を数え、ボス部屋に直行ルートでも一時間歩かなければならないし、ボスは大ワタという子ワタの巨大版で転がって攻撃してくが、下級中位の腕力があれば受け止めて、中に手を突っ込んで核の魔石をグイッと捻じれば簡単に倒せるらしいが、子ワタに比べて質が良くないらしく魔石以外の買い取りをしてくれない。
その為ボスに挑む価値は皆無といえるダンジョンでもある。
そうこうしていると最初の部屋に到着したら探索者達がいたるところで子ワタと戦っている。
体育館並みに広い空間だが、三十から四十人近くが子ワタと戦っていると普通に同士討ちの危険があって危なく感じる。
私はすぐに別の通路から奥に進んだ。
小さい部屋はテニスコートくらいで、広い部屋だと野球のグラウンドやサッカーコートくらい広い部屋もあった。
そりゃ毎日一万人以上が来場してもモンスターが狩り尽くされない訳だし、一時間に三個も宝箱が湧くはずだと納得した。
奥に進めば進むほど人の気配は少なくなり、テニスコート三枚分くらいの広さの部屋に子ワタが凄い数ふよふよと浮遊しているので的あてゲームの感覚でライトアローを放つと、当たった瞬間に
「きゅ〜」
と言いながら落ちてきて動かなくなる。
モンスターらしからぬ愛くるしい鳴き声とビジュアルから百合ヶ丘探索者支部のゆるキャラとして着ぐるみやグッズ展開されている。
確かに子供受けしそうだが、一応可愛くてもモンスターなのだがな。
三十体くらい倒しただろうか。
子ワタは一体あたり魔石を抜くと約五百グラムのワタが剥ぎ取れるので、これで十五キロ分、魔石一個が五百円なので四万五千円になる。
魔法が使えればこれだけ稼げるのならそりゃあれだけ並んで入る価値はあるな。
ゴブリンの数もめちゃくちゃ少ないし···
子ワタを倒し終えると部屋の一角がキラキラと光だし、箱が出現した。
どうやら宝箱が出現する時間と被ったらしい。
幸運に感謝して、罠ではないか確認してから宝箱を開ける。
中に入っていたのは太陰大極図と呼ばれる白黒の模様が入った球体のイヤリングのようだ。
持ってみると陰と陽の部分が分離し、穴の部分に耳どめがくっついており、イヤリングになっていた。
「なんだろうかこれ?」
マジックアイテムなのは間違いないが、どんな効果があるか見当も付かない。
私は試しに耳に両方を取り付けてみるとお腹のあたりがじんわりとあったかくなるように感じた。
気の流れみたいなのが整う様な感覚を覚える。
休憩がてら壁に背を預けて、太陰大極図のマジックアイテムについてスマホで調べてみるとイヤリングでは無いがネックレスが類似品として見つかった。
効果としては病気になりにくくなり、傷からの感染症にならないという効果があるとされていたのでそれに類似した効果かもしれない。
まぁ確かに腹部を中心に暖かく感じるので効果はそんな感じだろう。
「売るよりも使った方が良いな」
私はそう判断し、十分に稼げたのでダンジョンから出ようとした。
帰る途中で耳元でぴきぴきと割れる音がしたのでイヤリングを取ってみるとイヤリングが粉々に壊れていた。
「なんだよ···壊れちゃったじゃん」
私は気が付かなかった。
両耳に小さく太陰大極図の模様がくっついていることに。
これが新たな騒動の始まりであると知らずに···
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます