疲労回復

「レベルが二つも上がってる」


 判断を誤り、窮地に陥ってからの生還を果たした私は家に帰り、レベルを確認すると七と簡易測定機に表示されていた。


「確かにあれだけのバルーンバットを狩ればレベルも上がるか」


 バルーンバットの魔石を換金した時にあまりに大量であった為に換金所の人にも驚かれ、配信をし、映像として残っていたモンスターハウスの戦闘を係の人に見せるまで他のダンジョンで獲ってきた魔石をここで換金しようとしているのではないかと疑われて大変だった。


 疑いは晴れたし、バルーンバットが更に増えてダンジョン内で溢れかえって死傷者が出るだけならまだ良く、ダンジョン外に出たら大問題だ。


 今回はそれを未然に防げた為に、映像を見せた後は感謝された。


「あ、山田と椎名からメッセージが来てる」


『イブキさん、私達レベルが三つ上がってました!』


『今レベルが五です! 新しく魔法も覚えられたので今度試しても良いですか』


「う~ん、もう少しで追いつかれそう」


 二人はまだ探索者になって一週間しか経過していないのにレベルが五になっている。


 レベルが上がると、必要な経験やモンスターをより多く倒さなければならないが、この調子なら来週には十レベルに到達していてもおかしくは無いだろう。


「さてさてどうしたものかね」


 まだ基礎的な部分を教えている段階で、ポンポンレベルが上がると、どこかで致命的なミスに繋がりそうで怖い。


 そこら辺をしっかり教える必要がある。


「さてと、じゃあ明日のダンジョンを調べますか」


 洞窟内での魔法の試し撃ちは狭いため誤射に気をつける必要がある。


 その為、初めての魔法を使うときは広い草原タイプのダンジョンか広大な敷地がある人はそこで試すのがベストだろう。


「よし、それじゃあ重点的に鍛えますか」









 バルーンバットのダンジョンの隠し部屋みたいな事は無く、修行を続けて二週間が経過した。


 結局私は彼らにレベルが追いつかれ、十レベルにほぼ同時になった。


 今ではリトル鹿牛を山田と椎名は連携することでちゃんと捕獲することができるようになっていた。


 山田は忍者という職業が気に入ったのか、ナイフの他に稼いだ金で暗器を持つようになり、私達が痛い目を見た隠し部屋での大爆発の再現実験を繰り返し、硝石とスライムの粘液を混ぜ合わせ、魔法での着火をすると爆発を起こすことが判明したらしい。


 硝石そのものは直接個人で入手することは困難であるが、火薬は花火等から抽出できるので、それをスライムの液体と混ぜることで簡単な爆弾を作り出すことができた。


 実物を使用してもらったが、見た目は完全に打ち上げ花火に導火線が付いているとても爆弾らしい物である。


 威力も凄い強いってわけではないが、リトル鹿牛が爆弾が直撃したら失神してしまうくらいの威力はある。


 それに炎属性の魔法を組み合わせることで、戦術に幅をもたせることが出来ている。


 椎名も椎名で、詩人という職種適性を生かした音楽を使う魔法で対象の相手の動きを止める魔法、混乱状態にする魔法、音を一時的に聞こえなくする魔法の三種類をトランペットを媒体に駆使し、的確に敵の動きを止めることができるようになっていた。


 二人の成長速度に驚きつつも、私もレベルと比較して高い能力を使い、ダンジョンでモンスターを狩り続けている。








「疲労が蓄積してきたか」


 ここ毎日ダンジョンに潜っていた為に、疲労が溜まってるなぁと感じるようになっていた。


 こういう時はリフレッシュをするに限る。


 そう、それは銭湯だ。


 予算は三万円、すごい贅沢をする。


 風呂代二千円、垢擦り代七千円、マッサージ一万円、残りは食事などになる。


 前の体ではできなかった贅沢だ。


 タオル等の道具を持ってスーパー銭湯にいくと、普通に女性扱いを受けたのと体は女なので女湯に入るべきか、心に従って男湯に入るべきか考える。


 体が女なので、人気者になればスーパー銭湯に行くこともままならないかもしれないと、久しぶりの大きなお風呂に気が良くなっていた。


 車で四十分。


 市街地の中にある至って普通のスーパー銭湯だ。


 朝一番で入館し、そのまま風呂場に直行する。


 脱衣所で全裸になり、改めて今の体を確認すると、デカい胸、安産型の大きなおしりと太ももが目に入る。


 普段はワンピースや大きめのつなぎで体のラインを隠しているが、全裸になると、美しいというよりはエロい体つきをしているなと思えてしまった。


 風呂場に入り、洗い場に行くと、借りたタオルで全身くまなく洗う。


 長い髪の毛を洗うのは元男の私には難しいが、シャンプーで泡立てて洗い、リンスで整えるといつもよりも光沢が出ているように感じた。


「あー、そっか。男だった名残でシャンプーだけ使ってたけど、リンスを使った方が良いのか」


 いつも以上に滑らかになった髪を洗いながらそう思う。


 長い髪の毛をお湯に付けるわけにはいかないのでゴム紐で纏め、いつも背中で浮いている翼もボディソープで手洗いもみ洗いしていく。


 翼の羽根は意識しないと取れないので、結構強めにゴシゴシと洗っていく。


 その光景を見て周りのお客さんは奇妙な者を見る目でこちらを見るが気にしない。


 洗い終わり、お湯で流すと、綺麗に見えても汚れていたのか、水が少し濁っていた。


 湯船に浸かる時も翼がお湯に入らないように意識すると、翼は頭上に浮かび上がり、輪っかよりも高い位置でふよふよと浮いていた。


 アパートの風呂は狭いため足を伸ばして湯船に浸かる事ができないので、久しぶりに足を思いっきり伸ばしてお湯に浸かれる。


 平日の朝一番ということもあり、周囲にはおばあちゃん達しかおらず、変な目で、見なくて済むので助かる。


 電気風呂、炭酸風呂、ぬるま湯、熱湯風呂と堪能し、サウナに入るが、レベルが上がった影響なのか、この体になった影響なのかあまり汗がかかずに不完全燃焼な感じで温まりきらなかった。


 その後垢擦りを頼み、ベットに横になり垢擦りをすると、白色の垢がそこそこ出てきた。


 老廃物を全身くまなく取り除くと肌がピカピカに輝き、もちもちの卵肌になっていた。


 垢擦りの人とおしゃべりをしたが、ここまで肌が綺麗になることは滅多にないとのこと。


 また垢擦りは二週間から一ヶ月の皮膚が更新される周期を覚えると良いとされ、普段は自身で手入れをして、半年位に一回専門の垢擦りをするとむらなく綺麗な肌を保てると教えてくれた。


 その後マッサージを受け、全身の疲れを癒やして明日の活力を取り戻すのだった。

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