バルーンバット
「警戒!」
今私は山田と椎名を連れてスライムが湧くダンジョンに潜り魔法の練習をしていたのだが、モンスターハウスに迷い込んでしまったみたいだ。
しかもバルーンバットという風船みたいな球体の体に翼が生えたコウモリの巣穴に入ってしまったらしい。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
「アクアカッター! アクアカッター!」
「がむしゃらに撃っても駄目だ! 動きを一瞬止める!」
こうなったのは遡る事数時間前···
「さて、今日は二人とダンジョンを潜る日だね」
私は前日にしっかり休養をとり、その間に二人と潜るダンジョンのピックアップをし、スライムとバルーンバットが出没するダンジョンに目をつけた。
「バルーンバットか。魔法は使えない噛むしか攻撃手段が無いモンスターだね。数も少数らしいから出会ったら移動する的にして戦えるかな」
前の体で初めてバルーンバットと戦った時、バルーンバットの習性を知らなかったので手痛い反撃をくらい、数日寝込んだ苦い思い出があるが、音に敏感という習性を知ったからには問題は無い。
百円ショップで買ってきた警笛を洞窟内のダンジョンで鳴らせば音が反響してバルーンバットは位置情報がわからなくなるというモンスターとしては致命的な弱点を持っていた。
「警笛じゃなくても大きな音を継続して鳴らせれば大丈夫なんだけどね」
家を出て車に向かう途中、私は買ってきた警笛を吹くとピロロロと甲高い安物の音が鳴る。
「うーん、安っぽい。まぁネットでも大丈夫って出てるから大丈夫でしょう」
二人に今日行くダンジョンの情報をメッセージで送り、車で二人を回収してからダンジョンに向かう。
そこで今日の目的も話す。
「今日の目的は魔法の熟練度とレベリングだね。レベルを上げるにはとにかくモンスターを倒すしかないからね」
「魔法はやっぱり使い込むのが上達の近道なの?」
「私も魔法に関しては教えられる知識は無いけど、反復練習をすることで威力も精度もコントロールできるようになるらしいからね」
「なるほど」
「ちなみに椎名はなにそれ? トランペット?」
椎名は何故かトランペットを持っていた。
「私の適性職業が詩人と出ていたので詩人について調べたんですけど、音楽によって仲間を癒やしたりバフや敵にデバフをかけたりすることもできるらしいんですよね。吹奏楽部でしたし音楽の腕には自信があるんですよね」
「なるほどね。試してみるにはもってこいのダンジョンかもしれないね」
私は賛成の意を示す。
山田が剣道、椎名は吹奏楽とそれぞれの学生の頃の話題が出たが、自分は学生の頃何していたかな〜と思い出すと勉強ばかりしていた気がする。
裕福とは言えない両親の期待に答えたくて勉強を頑張っていたが、頭の出来が良くなかった私は壁を乗り越える事ができずに大学受験に見事に失敗し、その時に親と喧嘩して家を飛び出してかれこれ五年···
「なんだかんだ生きているな」
「どうしました?」
「二人はちゃんと親孝行しなよ」
「はい? 勿論しますけど?」
「俺もそのつもりですが?」
「なら良いんだ。私みたいな親不孝者になるなよって話」
二人は頭に? を浮かべていた。
そうこうしているとダンジョンに到着し、管理人に探索者証明証を見せてからダンジョンに入っていった。
序盤は順調だった。
道中のスライムを二人は魔法を駆使して倒し、私もスライムを狩り続けた。
途中バルーンバットにも遭遇し、私がライトアローを使って倒す手本を見せてから、二人もバルーンバットを倒すように奮闘する。
バルーンバットは翼は薬の材料に、風船の様な胴体は加工すると武器や防具の素材になるらしい。
なので翼をナイフで切断して、胴体と別ける必要がある。
二時間近く経過しただろうか。
小部屋で休憩をしようと壁に山田が壁に腰掛けた瞬間に壁がボロリと崩れ、人がかがんでようやく通れる道ができた。
私達は話し合いをした後に多数決でこの道を進むことを決める。
私は勿論反対だが、二人は隠し通路に興奮して進みたいと言い、多数決で押し切られた。
隠し通路を進むと不気味な程静かであり、モンスターの気配もしなかった。
私のサーチの魔法にも反応しない。
十分ほど進むと広い部屋に出た。
そこでサーチを使ってみたところ気持ち悪いほどの反応が感じ取れ、冒頭のシーンに繋がる。
私が警戒と言うと、二人はナイフを抜き出して構え、穴という穴からバルーンバットが湧いてきても、魔法を使って切り抜けようとした。
しかし、数が多いのと魔法の精度が足りずに押し切られてしまう。
私が動きを止めると叫ぶと首にかけていた警笛を思いっきり吹いた。
バルーンバット達の一瞬動きが鈍るが、ネットで書かれていた様に完全停止には至らない。
部屋が広すぎて音が分散してしまうらしい。
ただ鈍った瞬間に私もライトアローを連射して近くのバルーンバットを倒す。
焼け石に水感がするがやらないよりはマシである。
何か使えない物が無いかと周辺を見ると足元にザラリとした物質が蓄積していることに気がつく。
私はバックに入っていたスライムの液体をばらまきながら
「椎名! ラッパを吹け! 音を鳴らせ!」
と叫ぶ。
椎名は私の叫びに反応してトランペットを鳴らし、音を洞窟に響かせた。
安物の警笛よりも遥かに大きな音が部屋に響き、バルーンバット達の動きが先程とは違い、完全に止まる。
いや、音に混乱して地面にボトボトと落ちている。
何体かは体にバラ撒いたスライムの液体か付着している。
「出入り口に向かって走れ!」
私は来た道を戻り、トランペットを鳴らす椎名と状況の変化に対応できていないで硬直してしまった山田を抱えて飛行して狭い通路に戻る。
私は通路の天井をライトアローで崩し、道を遮断しようとし、
崩れている最中に
「山田! 思いっきり奥の部屋の床に向かってファイヤーボールを連射しろ!」
と指示した。
一瞬何を言っているか理解していない山田だったが、私が急かすとファイヤーボールをモンスターハウスの部屋に向かって放った。
私は翼とリュックを使い、二人を覆いかぶさるように守り、数秒後、ドゴゴゴゴンと先程放ったファイヤーボールが何かに引火して大爆発を起こす。
天井を崩して道を塞いだはずなのに爆風でそれすらも吹き飛び、私が翼を使って守っていなかったら飛んできた岩や小石で大怪我をしていただろう。
引火したのはスライムの液体だが、爆破の原因はバルーンバットの糞尿が蓄積してできた火薬の原料となる硝石に上手いこと着火したのが原因だろう。
いや、硝石自体は燃えるだけなので爆発までには至らないはずだ。
バルーンバットの体内に蓄えるガスやスライムの液体が急速に燃えた事による爆発かもしれない。
(正解は硝石とスライムの液体が混ざり合うことで擬似的な火薬となった為)
壁を塞いで遮断した理由は異空間のダンジョンで酸欠状態になったというのは聞いたことが無いが、乱暴だがそれを防ごうとしたことと、壁ができれば爆風を遮断できるだろうと考えていたからだ。
ものの見事に裏目ってこっちにも被害が出そうになったが···
翼でとっさに守ったが、翼は岩が当たっても見た目に変化は無い。
思ったよりも物理耐性が高いのかもしれない。
今度からもっと大切に扱ってやろうと思いながら、私はもう一度モンスターハウスの部屋に戻る。
二人も恐る恐るといった風に部屋に向かうと、部屋には大量のバルーンバットの死骸が落ちていた。
焦げていたり、爆破の影響で臓物が飛びっていたりと凄惨な状態で、とてもではないが素材は売り物にならないが魔石は回収できるので回収していく。
遺体の数と一致するかわからないが魔石回収をすること三時間···一通り終わり、魔石の数を数えてみると二千を超えていた。
バルーンバットの魔石が一個五百円なので約百万円の収益となる。
収益もそうだが、一番はこれだけの数のモンスターを倒したことで得られた経験だろう。
なんか一気にレベルが上がった気がする。
山田と椎名も疲労感はあるけど体力や腕力が魔石を抜いている途中から上がった感覚を覚えたのと、体の芯から魔力が溢れ出る感覚がすると言っていたので十中八九レベルが上がったのだろう。
もう一度やれと言われたら全力で断るが、レベリングという目的は達成できたし、配信はピンチからの爆発による派手な逆転劇で大盛りあがりであったので大成功だろう。
もう一度言うが二度とやりたくは無いがな···
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます