オーバーフロッグ

 ちょうどスライムの燃料を精製している時に宅配の方が来て、厳重に梱包された特殊段ボールを渡された。


 宅配の方にサインをし、荷物を受け取ると、中を確認する。


 先日買った籠手だ。


 予定期日ちょうどの配送···流石だ。


 籠手を取り出して装着してみるとサイズピッタリで金属製なのに本当に指を動かしているような感覚を覚える。


「これで量産品か···職人が手作りした物だとどうなるんだろうね」


 早速写真を撮ってSNSにアップする。


 コメントには


『武器は籠手ですか』


『ずいぶんと渋いのを選びましたね』


『実用性重視ですか』


『二世代前の型ですか?』


『明聖のですか』


 と直ぐに書き込まれた。


 私はこれを使って更に大物を狩れるように頑張りますと返答する。


「さてと」


 スマホを机に置いて、横の簡易測定機でレベルを測ると五と表示されていた。


「···もうすぐ前の体の二倍のレベルになるのか···」


 そろそろ五月も終わる。


 この体になって数週間、早いようで短く感じる。


 魔法を五つも覚えて、中古車と同じくらい高価な買い物も、前の体では絶対に倒せないモンスターを倒し、更には新人教育までしている。


「チャンネル登録者数が今日で二百人を超えたね···まだ収益化の申請は通らないけど、再生数的に再来月には通りそうだ」


 スマホを操作して動画の総再生数を確認するが時間経過でガンガン伸びている。


 全然伸びていなかった自己紹介動画も一万再生している。


 どうやら配信者としての底辺の壁を乗り越えたみたいだ。


「配信者の底辺の壁を超えたのならば次は探索者の底辺の壁のレベル十を早いところ越えなければね」


 やる気が満ち溢れてくる。


 スマホを操作しながら配信者のニュースを見ると人気配信者が今月だけで三名も亡くなっているらしい。


 どれもダンジョン内でボスモンスターと戦闘になったり、奇襲を受けてのことらしい。


「···人気者になっても死んだら何も残らないのに」


 ダンジョン内で配信をするのを馬鹿にする人も居るが、記録を残せるというのは大きい。


 探索者の中には警察の手が及びにくいダンジョン内で犯罪行為に手を染める愚か者も居る。


 そういう輩を記録したり、配信していることで抑止力として働く事もある。


 事実配信者が配信中に探索者同士でのトラブルが発生した場合の探索者協会の対応速度は凄まじく早い。


 というかそういうトラブル対応部隊が探索者協会には存在し、ダンジョンナイトと呼ばれている。


 ただその中でも更に精鋭部隊がおり、上級上位の探索者で悪質な者を殺処分している闇の部隊がいるとかいないとか···


 都市伝説の一種だがそういう噂を流すことで上級の探索者に規律を守らせようとしているのかもしれない。


 上級探索者はダンジョンに潜ってない人が銃火器を使っても倒せない存在になってしまうため、海外では探索者が犯罪を犯し、その余波で町が壊滅したという痛ましい事件例が幾つかある。


 自身を守れるのは自身と信頼できる仲間、そして録画機器だけと言われる事もあるくらいだ。


 探索者協会が治安維持に動いているとはいえ、命がけのダンジョンで何が起こるかはわからない。


「そういう自己防衛的なのも教えないとかな」










 金土日の三日間、私はいつものダンジョンとは違うダンジョンに遠征していた。


 草原タイプのダンジョンであるが、湿地が多く、オーバーフロッグという三十センチほどあるカエルの様なモンスターが多く生息している。


 遠征といっても一時間程で、山田と椎名が働いているダンジョン【ケーナーティオ】と同じく一時間程度の距離で、岐阜県を出ることも無い。


 いつもと違う場所に来た理由は、オーバーフロッグの素材の買い取り金額が上がっていたことと、梅雨入りすると例年ダンジョン内で大量発生して難易度が上がるため、その前に倒せるかの確認をしたかったこと、オーバーフロッグが雷属性の魔法に弱いことが挙げられる。


 オーバーフロッグは水魔法を駆使して外敵から身を守る為、ピクシーとはまた別の戦闘方法を探せるのではないかという考えの元で私は挑むことにした。


「田んぼの様な湿地が広がっているねぇ」


 あぜ道の様な細い道が湿地に入らないで進める場所であり、至る所からゲコゲコとカエルの鳴き声が聞こえてくる。


 私があぜ道を歩いていると側方から泥の塊が飛んでくる。


 私は慌てること無く泥にライトアローを当てる。


 うち漏らしのは籠手の肘近くまで覆っている部分でガードして防ぐ


 泥が飛んできた方を見るとゲコゲコとオーバーフロッグがこっちを見ている。


 私は浮かび上がり、オーバーフロッグの方に勢いよく接近する。


 再びオーバーフロッグは魔法で地面から泥の塊を飛ばしてくるが、私はひらりとそれを避けてオーバーフロッグを掴む。


 ゲコゲコと掴まれても鳴いているが、私が雷魔法のショックを放つとオーバーフロッグは舌を出して動かなくなった。


 普通に死んだみたいだ。


 ビニール袋にオーバーフロッグを入れてリュックにしまう。


 オーバーフロッグは一体二千五百円でゴブリンよりも安い。


 湿地に住んでいるので衣服が汚れやすく人気もあまりないのだが、オーバーフロッグの肉は鶏肉の様に蛋白で唐揚げにすると凄い美味しいため人気がある。


 私は泥を避けながらオーバーフロッグ狩りを続けた結果、飛行中の回避が凄く上手くなり、飛行しながら移動中でも魔法を対象物に五割近く当てられるようになるのだった。


 日曜日に配信をしたが、体を捻りながら避ける姿を見て、ゲームのキャラみたいというコメントを多数いただくことになる。


 避けているこっちは必死だというのに···


 まあオーバーフロッグの簡単な倒し方は持ち手を取り付けたベニヤ板や中華鍋等の守れる道具を駆使してオーバーフロッグの泥を飛ばす魔法を防げれば後は魔法で痛めつけるかスタンガンを使えば簡単に殺すことができる。


 ただ食用なので殺傷すると味が落ちるため推奨されていないし、減額対象となる。


 私はショックの魔法で倒しているので減額なしで満額を受け取ることができた。


 三日間でオーバーフロッグを私は百匹以上倒し、二十五万円近くを荒稼ぎした。


 飛行できることこの湿地のダンジョンの相性がすごく良いのだろう。


 コメント欄で似たようなダンジョンでオーバーフロッグを一日で十体見つけられれば運が良い方と言われたが、百匹以上である。


 ただこれだけ狩っても個体数は減らず、外が雨季になれば連動して、オーバーフロッグ無限湧き状態となるらしい。


「でも魔法の感覚をつかめてきた」


 ショックが実際に使える事を確認できたのは大きい。


 ルンルン気分で私は帰路につくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る