新人育成Ⅳ
翌日、配信にて一日で彼らのレベルが上がったことを報告するとコメント欄は嫉妬の民で溢れかえっていた。
大抵レベルが一から二に上がるのに一、二週間、一ヶ月近くかかる人も居る···私の場合は一年かかったが···そんななのでもしかしたら山田と椎名は才能が凄いんじゃないか説がコメント欄で上がっていた。
「実際二人はレベルが上がって何か変化はあった?」
「身体に大きな変化はありませんが···こう体の内側からエネルギーが溢れ出す様な感覚はあります」
「私もそんな感じです」
「たぶん魔法が使えると思うから試し撃ちしてみようか」
ダンジョン二日目にして魔法のレッスンを始めた。
私自身もまだ魔法に慣れているとは言わないが、二人よりは扱える自信がある。
「内側のエネルギーを送り出す感覚でそれを言語化してみようか」
「「はい!」」
二人はダンジョン内にある木に狙いを定めると、山田は
「ファイヤーボール!」
と言って野球ボール位の火の玉を手のひらから発射した。
木に当たるとジュゥゥと木の一部が焦げていた。
「ゴブリンとかなら致命傷にはならないけど牽制には使えそうだし、火傷を狙うこともできるだろうね」
私の評価を聞いた後、椎名も続く
先程焦げた木に向かって
「アクアカッター!」
というと水でできた刃が飛んで木に深い切れ込みを入れた。
「急所に当てれば一撃でゴブリン程度なら倒せるだろうし、出血を狙うことも可能な攻撃魔法だね」
と私は評価した。
自身が魔法を使えたということに二人は喜んでいたが、まだまだ命中精度が荒いため、歩きながら木に向かって魔法を放つ練習を一時間ほどさせた。
まだまだ精度は怪しいが、魔力切れになるまで木を痛めつけるだけよりは実践経験を積ませた方が良いと考え、ゴブリンと戦うことにした。
私が前衛をするから、二人は後方から魔法で攻撃を指示し、早速ゴブリンの群れを私が釣ってきた。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
「アクアカッター! アクアカッター!」
何発かに一発命中し、アクアカッターが命中したゴブリンは血を吹き出して倒れ、山田のファイヤーボールが当たったゴブリンは苦しそうにもがいている。
撃ち漏らしは私が殴って対処して片付けていった。
十匹のゴブリンの群れだったが、山田が倒せたのは一体、椎名は三体倒す事ができた。
「魔法は遠距離から倒すのには便利ですが、初心者のうちは狙いが付けられずに変な方向に飛んでしまうことも多々あります。これをなんとかするには数を撃って精度を高めていくしかありません」
私がそう話しながらも解体を始めると、山田と椎名の二人も解体を始めた。
昨日の感覚は忘れておらず、しっかりと素材の剥ぎ取りをすることができていた。
「昨日の事はできているね」
「はい! 大丈夫そうです」
「ただやっぱり魔法は難しいですね。上手く扱いきれてません」
「椎名ちゃん、こればっかりは数を経験するしか無いからね。ゴブリンやバウも良いけど当てたら必ず倒せるスライムのダンジョンにしようか?」
「魔法を練習するのならばそっちの方がいいかもしれませんね」
「まあ明日は金曜日だから来週の火曜日からになるけどね。疲れの方は大丈夫?」
「まだいけます···と言いたいですが正直集中力が落ちてる気がします」
「私は怠さが出てきてます」
「なら今日はこれで切り上げようか。ゴブリンもこれならば一体四千円買い取りくらいはいくと思うから、十体で四万円かな。レッスン料を引いたら二人は一万円ずつかな~」
「やっぱり稼げますねダンジョンは」
「そうだね。ただ油断したら直ぐに死んでしまう危険と隣り合わせの場所だからそれは心しておいてね」
「「はい!」」
二人と分かれてアパートに帰る途中で私はおっちゃんのダンジョン【シグナル】に向かった。
二人とは違い、魔法をほぼ使わないで殴っていただけなので余力は十分にある。
レベリングとスライムの液体回収の為、家に近いおっちゃんのダンジョンは都合が良いのだ。
「よお後藤、調子はどうだ?」
おっちゃんに声をかけられた。
「動画見たがだいぶ調子が良さそうだな。レベルも今四か? 五か?」
「前測った時には四だったけど五になってるかもしれない。身体も絶好調だよ」
「なら良かった。新人の育成も始めたらしいな」
「まーね。でも二人共私よりも才能があって少し羨ましいよ」
「そうは言ってるが悔しいみたいな顔はしてねぇな。達観してるようにも思えるが?」
「確かに二人は凄い勢いでレベルが上がると思うけど、私も十分に早いペースでレベルが上がっているからね。前の体なら悔しかったかもしれないけれど今の成長速度に私は満足しているからかな」
「お前が納得しているなら俺からどうこうは言わねぇ。ただ育てるって決めたからには中途半端で放り出すんじゃねぇぞ」
「それは勿論。じゃあスライム狩りしてきます。あ、スライムの燃料を精製する機械レンタルしたからスライムの液体持ち帰るから」
「あいよ。了解だ」
おっちゃんに許可を貰ってダンジョンに潜っていく。
「さてと、測定はしていないけどたぶん新しい魔法を覚えたな···」
手を擦り合わせるとパチパチと放電の様に電気が出てきた。
どうやら今回覚えた魔法は雷属性の魔法らしい。
「サンダーボルト! サンダーアロー! サンダーボム!」
とりあえずありそうな魔法を試してみるがしっくりこない。
「手から電気が流れ出てはいるんだよな···」
バチバチと放電はするがイマイチ放出する感じではない気がしてきた。
ちょうど良くゴブリンが居たので放電状態で殴ってみることにした。
走って近づくとゴブリン達も私に気が付き、臨戦態勢に移行する。
ゴブリンの一体は私が殴ってくるのに合わせて両腕を使いガードの構えをするが、私が触れた瞬間に電撃を流すと、ゴブリンの体がバチバチと光り、プシューと焦げ臭い匂いがした。
「なるほどこれはあれだ。直接電流を流す魔法か」
ゴブリン程度ならば触れただけで気絶かショックで心停止して絶命してしまうらしく、五体居たゴブリンを二分もかからずに全て倒してしまった。
途中から殴るのではなく頭を掴んだり、手のひらを胸に押し付けたりして電流を流したが、触れていれば威力は余り変わらないらしい。
スマホで検索すると『ショック』という魔法が該当するようだ。
「ショック···近接攻撃には程よい魔法だね」
殴った後に追加ダメージを与え、更に運が良ければ麻痺も狙える魔法となればなかなか使い勝手が良い。
たぶん今日家に届いたであろう籠手とも合わせればオークも倒せるのではないかと思えてくる。
「下級中位になったらオークに挑んでみよう。それでどれくらい強くなったか分かるはずだ」
私はオークへの再戦の目標を決めるのであった。
スライムを狩り、両翼と背中の四十五リットルリュックかパンパンに詰まったので撤収し、ゴブリンの素材をおっちゃんに換金してもらい、家に帰って、スライムの液体をリュックから赤い十八リットルのポリタンクに移していき、移し終えたらポリタンクを一本精製機に流し込む。
コトコトと案外静かに動き出し、五分ほどで精製が終わり備蓄タンクに溜まっていた。
ちょうど車のガソリンが切れそうなのでそのままスライム製の代用ガソリンを車に注入していく。
エンジンをかけるとメーターは満タンを表示し、そのままふかしたりしながら様子を見たが問題は無さそうだ。
大家のおばちゃんに燃料を入れるか聞くと早速軽トラに燃料を入れ始め、お礼としてカレーの残りをくれた。
ありがたく貰い、夜はカレー、朝は残りでカレーうどんにし、洗ってタッパーを朝のジョギング後に返すのだった。
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