新人育成Ⅲ
翌日、車を走らせて朝からダンジョン【ケーナーティオ】に向かう。
二人とメッセージアプリのグループでも今日よろしくお願いしますと来ていたので返答し、一時間かけて到着した。
時刻は午前十時、朝一のラッシュが終わり、比較的入口の混雑が解消した時間だ。
「うーす、二人共よく寝れた?」
「はい、バッチリです」
「問題ありません!」
「あ、二人に聞きたいんだけどバイトの方は大丈夫なの?」
連日連れ回してしまっているので大丈夫か聞くと
「俺の方は土日の忙しい日に入ってくれれば良いと椎名のお父さんから言われているので大丈夫です」
「私もダンジョンに潜ってレベルを上げる方が今後を考えると大事と言われたので大丈夫です」
「となると土日以外ってなるね。まぁダンジョンに慣れないうちは二、三時間で切り上げることになるし、土日以外にも二日は休みを入れようか。火曜水曜木曜にダンジョンに潜って月曜と金曜は完全に休みにしようか」
「それだとありがたいのですが、こう毎日潜らないといけないものかと思ってたのですが」
「山田君それは間違いだよ。毎日潜るとパフォーマンスが落ちるし、命の危機に陥りやすいから休みはこまめに入れないと怪我しちゃうからね。余裕を持ってダンジョンには挑むようにしないと」
「わかりました」
「さて、今日の目標はゴブリンとバウを倒そうか。リトル鹿牛は慣れてきたらにしよう」
「「はい!」」
装備の点検をした後に私達はダンジョンに潜っていった。
まずはモンスターを殺すことに慣れる為に私が殴って気絶させたゴブリンをナイフで刺して殺すところから始めた。
探索者で一番躓くところがモンスターを殺すことができないというもので、こればっかりは本人の気質なのでどうこうすることができない。
山田は動けないゴブリンの首にナイフを突き刺して、胸を掻っ捌き、魔石の回収を手間取りながらもすることができた。
椎名の方は最初は拒絶感が強く、震えていたが、山田が手を握ってサポートしたお陰でちゃんと殺して魔石を抜き出すことができた。
配信を見ている人達はてえてえだの初々しいとかのコメントがされていたが、中にはゴブリン程度で震えていたら厳しいだろうなと言うコメントも見られた。
今日はとにかく解体することを覚えて拒絶感を消すことにシフトし、私がゴブリンやバウを殴って気絶させ、そこから魔石をとにかく抜き取るだけをやらせた。
ゴブリンの睾丸や心臓もついでに剥ぎ取りを教えるが、慣れてないから切ってはいけない場所を切ってしまったりで、ゴブリンを六体倒したが売れる素材は無い。
まぁそれは初心者なので仕方がないことだ。
『最初はやっぱり素材をダメにしてしまうものなのですか? 良い練習方法とかは無いのですか』
とコメントが来た。
私は
「解体の動画をよく見てイメージを繰り返して、それでも何度も失敗して覚えるしか無いと思います。私も初心者の時は二十回近く失敗を繰り返してコツを覚えましたし···コツさえ掴めればどうとでもなりますし、レクチャーをしてくれる会社に依頼をするのも良いと思います」
とアドバイスを送る。
どうしても作業配信に近くなるので同接人数も二十人前後であるが、ゴブリンやバウの解体を中心に映しているので勉強をしたい人が集まっている印象だ。
山田は七体目で解体のコツを掴み、椎名も九体目でコツを掴んだようでちゃんと売れる素材を剥ぎ取る事ができた。
多少の減額は仕方がないが、これだけ短時間でできるのならば二人は覚えるのが早いのかもしれない。
次はいよいよ倒す事を頑張ってみることにする。
荷物を持ちながらではやりにくいので、片方が荷物番、片方が戦闘、私がサポートとし、一対一の状況を作って対決させる。
ゴブリンがこちらに向かってくるのでまず山田がナイフを持ち、蹴りでゴブリンを倒すと馬乗りになってゴブリンの急所にナイフを突き刺した。
先程から解体をやらせていたおかげか迷いが無いように思えた。
次に椎名の番だが、襲ってきたゴブリンに対して勢いよく右肩でタックルをし、倒してからナイフを両手で持って思いっきりゴブリンの心臓部に突き刺した。
「ふーふーふー」
「落ち着いて、もうゴブリンは死んでいるから大丈夫だよ」
椎名を落ち着かせて交互戦わせること二時間。
バウと戦うのは難しいと判断し、私は今日はこれで切り上げと言った。
緊張の糸が切れたのか椎名はへたり込んでしまい、私と山田が両脇を支えながらダンジョンを出た。
買い取りも二人と一緒にやったが、減額を含めて三万三千円、それを三等分して一人当たり一万千円だがレッスン料で五千円差し引くと山田と椎名は六千円となる
初心者なのでこれでも十分稼げた方であり、初めての探索者としての収入に二人は喜んだ。
そのまま椎名の実家の焼き肉屋に行き、少し遅めのランチを食べて反省会を行う。
良かった点は解体に慣れた事とちゃんと殺すことができたこと。
駄目だったところは集中しすぎて視野が狭まってしまったことだろう。
反省会も終わり、武器や装具の手入れを忘れずにと声をかけて十四時には解散となった。
家に帰るのとスライムの燃料精製機の設置業者から連絡があり、十七時に立ち会う事ができるかと言われたのでアパートに直行で帰り、大家のおばちゃんにも立ち会ってもらい、スライムの燃料精製機をアパートの一角に設置したのだった。
「ほぉー、これがスライムから燃料を作る機械か」
「案外小さいんだな」
大家と息子さんも帰ってくると精製機を見てそう言った。
確かに私の背丈の冷蔵庫より少し大きい位の大きさしか無く、黄色くカラーリングされ、燃料を入れる入口と反対側に灯油とガソリンを出すガソリンスタンドみたいな給油機が突き刺さっていた。
「なあ後藤、農繁期だけでも使わせてくれないか?」
「勿論ですよ。大家さんにはお世話になってますから農繁期だけとは言わずに普段の車の給油にも使ってください」
「それじゃあ悪いからこっちも田んぼや畑で取れた収穫物渡すようにするよ」
「それはありがたいですが良いんですか?」
「良いの良いの、助け合いだろ。でも後藤もこの姿になってからの方が生き生きとしているな。良かったと言って良いかわからないけどゆとりが無いよりは良いと思うぞ」
「そうっすね。今まで大家さん家族には助けられてばっかりでしたので」
「そうかそうか!」
大家さんは半農半サラな為、決して多くは作ってないが、それでも私に米俵一俵分(六十キロ)と旬の野菜を分けてくれるようになったので貧乏飯から脱却できるし、食費をある程度抑える事もできるようになったのだった。
「イブキさんはそう簡単にレベルは上がらないって言ったけど一応測定機で測ってみようかな」
私は椎名華澄(しいな かすみ)イブキさんに教わっている新米探索者だ。
今日の初ダンジョンアタックでは幼馴染の山田洋介がスパスパっとゴブリンを倒していたのに、私はビビリながら上手く倒すことができなかった。
それでも初めてゴブリンを倒せたのは凄く嬉しかった。
まだ少し怖いけど洋介と一緒ならばやれる気がする。
そんな事を考えながら測定機に手を触れるとピピっと体温計みたいな音がした後に二と表示されていた。
「え? レベルが上がってる?」
もう一度測ってみても二と表示されたので間違いでは無いらしい。
洋介にメッセージを送り、レベルが上がっていないか聞くと洋介もレベルが上がっていたらしい。
前にレベルの事をイブキさんが動画にしていたのを思い出して視聴してみると、最初の方は上がりやすいとはいえ遅い人は一年かかることもあると言われたので私達はめちゃくちゃ早い。
イブキさんに相談した方が良いと思い、洋介と一緒にイブキさんの居るグループ通話を開く。
イブキさんは直ぐに出てくれて
『どうしたー?』
と言ってくれたのでレベルが二人共上がった事を伝えると
『おめでとう! めっちゃ才能があるタイプだったかな~。やっぱり二ヶ月に設定しておいて良かったわ』
と言っていた。
イブキさんが言う二ヶ月は初めは私達が低レベルなのにイブキさんを拘束するのを避けるためと思っていたが、イブキさんはもしかしたら私達の成長スピードが自分でも早いかもしれないということも考慮してレベルが二ヶ月ならば逆転することもないだろうと踏んでの期間だったらしい。
『もしかしたら魔法を覚えているかもしれないから明日ダンジョンで二人共試してみようか』
と言われた。
全く動揺していないので、多分イブキさんは天使になる前から抜かされるという経験に慣れているのだろう。
他人を嫉妬すること無く素直に祝福してくれる姿勢に大人だなぁと私と洋介は感じたのだった。
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