リトル鹿牛
配信している時間帯も悪いのかなと思い始めた。
平日の午前中という働いている人物や学生は見るハズも無い時間···配信している途中に失敗したなと思いつつも配信は続行する。
今のところの見どころといえばバウを殴り飛ばした初戦闘シーンくらいか。
その後は雑談をしながら魔法でバウを倒したり、その解体をカメラだけ少し遠くに置き、グロく無いよう配慮しながらマイクで解体のコツを教えていく。
基本生き物系のモンスターの魔石は心臓の真横か額に浮き出ているかのどちらかで、額ならばサクッとナイフを入れ込んで魔石をくり抜く様に動かせば抜き取ることができて簡単だ。
心臓の横にあるモンスターは内臓系を取らないのであれば肋骨を折って、ナイフを入れやすくしてから、縦にナイフを入れる。
喉仏やや下から胸を切り裂き、手を突っ込めば魔石は簡単に取れる。
汚れるのが気になる人は使い捨てのゴム手袋をしたり、洗えば何度も使える厚手のゴム手袋を使っても良い。
私もカメラや撮影機材に血を付けるわけにはいかないので、今日は使い捨てのゴム手袋を身に着けて解体している。
「ありました! バウの魔石です! ゴブリンやスライムよりは大きいですがゴルフボールサイズですね。色も灰色で品質が低い事がわかります」
魔法が使えるモンスターや知能が高いモンスターほど魔石は綺麗になりやすい。
魔石の価値は大きさと色であり、一番小さいのはスライムで三百円から五百円くらい、同じくらいの大きさのピクシーはそのピクシーが得意とする魔法の属性の色に魔石が輝くので九百円から千二百円くらい。
ゴブリンとバウはそれより少し大きいが色がくすんでいる灰色なので千円···みたいな感じだ。
探索者は当たり前に知っているが、学生や探索者ではない人は知らない情報なのでこれも喋っていく。
とにかくこの配信は今後の動画のスタンスになるので、不自然にならない程度に喋り続ける。
ちなみに撮影するにあたりカメラ、マイクの他にコメントを表示してくれるサングラスを着用している。
このサングラスは色は入ってないが、直視すると状態異常を防いでくれる効果がある。
下級ダンジョンにはほぼ無いが、目視しただけで催眠状態に陥る魅了の魔法を使ってるモンスターやトラップには効果覿面である。
まぁそう言うのも中級ダンジョンからであるため、私も今まで縁が無かったが···
そうこうしていると少し遠くに雑草を食べているリトル鹿牛を見つけることができた。
「お! このダンジョンの目玉のリトル鹿牛です! 鹿の模様の牛ですね。リトルと言いますが体重は五十から百キロ近くあるので気をつけてください」
「周囲には他の探索者も居ませんね。ではリトル鹿牛の効率的な倒し方について教えましょう」
私はバックから二本の杭とロープを取り出し、ロープの先端の片方はしっかりと固定し、もう一本の杭は地面にしっかり埋め込むが、ロープは噛ませるだけで固定はしない。
残ったロープは地面に伸ばしておき、これを持ってタイミングよく引っ張ることで、足を引っ掛ける罠の完成だ。
「実例を見せますね」
そう言って全体が見やすい位置にカメラを置くと、私はリトル鹿牛の方に向かい、ライトアローを放つ
ライトアローはリトル鹿牛の腰辺りに命中するとキョロキョロとリトル鹿牛は周囲を見渡し、こちらに気がつくと突進を始めた。
私は全力ダッシュでトラップの方に走り、ロープを持つ。
「せーの!」
リトル鹿牛の前足がかかるかかからないかの時にロープを引っ張ると、勢いよくリトル鹿牛はロープに引っかかり前のめりに転倒する。
大抵の場合勢いよく転倒すると足をポッキリ折れてしまい動けなくなる。
運良く折れなくても転倒の衝撃で気絶していたり、起き上がるのに時間がかかったりするので、背中の方から必ず回って尻尾を思いっきり折る。
牛の様な長い尻尾をグニーと一定以上曲げるとコキっと折れる音がするので、そうするとリトル鹿牛は痛みで九割九分気絶する。
それでも気絶しなければ首を鹿牛の体につくくらい思いっきり曲げて一分くらいその姿勢でキープすると窒息で意識を失ってしまう。
リトル鹿牛は一度気絶すると四時間は起き上がる事は無いので、その間にダンジョンの外に運んで換金するのが一連の流れだ。
「ではダンジョンの入口まで向かうまで雑談をして帰りましょうか!」
そう言いながら台車にリトル鹿牛をロープを使って乗っける。
この台車に乗せることができるかもリトル鹿牛を狩る基準で、レベルが低かったり、筋力が無ければ気絶して重くなっているリトル鹿牛を台車に乗せることができない。
なのでリトル鹿牛は下級中位レベルの人物が挑むのが適性と言われている。
「なので私は探索者支部に行った時には能力測定を受けることを推奨しています。今の自分の能力が客観的に見れますし、レベルだけでなく能力基準で適性なダンジョンを見つけることができるからです」
「自分の適性のダンジョンが分かれば能力が低くても月十万円位はコンスタントに稼ぐことができます。私もこの体になる前はそれで生きてこれましたので···」
「私の場合底辺探索者時代が長かったのでポンポンレベルが上がる人より創意工夫が得意とするかもしれません。そういった工夫の部分を皆さんにお伝えできれば良いかと思います!」
「以上が私の初配信となります! ありがとうございました」
そう言って配信を閉じた。
配信自体は二時間程で、まだ昼にもなっていない。
換金所に行くと担当のお兄さんからバウの魔石数個と気絶したリトル鹿牛を渡した。
これで五万五千円である。
お兄さんはスプレーでリトル鹿牛に番号を書き込むと台車を押そうとしていたので手伝ってあげることにした。
「どこまで運びますか?」
「すみません、助かります。筋肉痛で力が入らなくて」
よく見るとお兄さんの腕は湿布だらけである。
「バイトの方ですか?」
「はい、新人でして···鹿牛を運んでいるだけでこのザマですよ」
「ちょっと腕を貸してくれませんか」
「はい?」
お兄さんは腕を伸ばすと私は
「ヒール」
と治癒魔法を使ってみた。
なんとなく使えるような気がしたからだ。
黄緑色の光がお兄さんの腕を包み込むとお兄さんは
「おお! 痛みが消えた! 天使の方、ありがとうございます!」
「いえいえ、助け合いが大切ですからね! もしかして探索者目指しています?」
「はい、バイトで金を貯めて武器や装具を買おうと思ってまして」
「なるほど···私配信者でしてそういう初心者に向けたアドバイス等もしているので良ければ観てくれませんか? 天使のイブキと検索すれば出てくると思いますよ」
「必ず見ます!」
「このベルトコンベアに乗せれば良いですか?」
「はい、一緒に乗っけましょう」
私は頭を、お兄さんは後ろ足を持ってコンベアに乗っける。
乗ったのを確認してお兄さんはコンベアのボタンを押すとリトル鹿牛は屠殺場の奥に消えていった。
「助かりました! ありがとうございます」
「いえいえ、昼食後にまた一狩りしてきますので、よろしくお願いしますね」
「はい!」
よし、視聴者ゲット···さて、食事でも取るか。
「疲れたぁ···」
「お疲れ〜山田君」
俺は山田、ダンジョン【ケーナーティオ】の換金所でバイトをしているフリーターだ。
今声をかけてくれたのは幼馴染の椎名で、椎名の一族がケーナーティオのダンジョン管理をしている。
椎名の親父さんはダンジョンに併設している焼き肉の店主でもあり、ダンジョンで獲られた鹿牛で焼き肉やスープ、ステーキ、ハンバーグを提供している。
焼き肉屋と卸肉の販売、ダンジョンからの利益や台車のレンタル、駐車場の貸出等ダンジョンを中心とした事業を展開したやり手のおっちゃんだ。
椎名やおっちゃん達とは赤ん坊の頃から交友があり、こうしてダンジョン探索者を目指していることを話したら金が貯まるまでここで働けと働き口を紹介してくれた恩もある。
「はい、賄い」
「サンキュー、椎名は上がりか?」
「うん。昼番だったから今日はこれで終わり」
おっちゃんは厨房で夜に向けた仕込みをしている。
【焼き肉椎名】はダンジョンが開く九時から十六時の昼営業と十九時からの二十三時までの夜営業をしている。
今は十七時で夜番の人と交代した面子が賄いを食べに焼き肉屋に集合していた。
「あぁ、マジで椎名の所に拾ってもらって良かったわ···バイト禁止の高校だったから資金貯められずに親から借りようと思ってたけど椎名に相談して良かった」
「うちはバイトいつでも募集中だからね。男手が欲しかったし、山ちゃんなら信頼できるし···こっちとしても大助かりだよ」
「お、今日の賄いは肉チャーハンか。美味いんだよなぁこれ!」
俺がガツガツ食べ
「あれ? 味変わった? いや美味いんだけどいつもと違う?」
「ありゃ、バレたか。実は私が作ったんだ」
「マジか! 椎名料理上手かったんだな」
「美味しい?」
「美味い! 頑張れば親父さんの跡継げるんじゃね?」
「よし!」
食べ終わって一息つくと、俺はスマホを取り出して昼の人を調べる。
「何検索しているの?」
「いや、午前中に天使の人来なかったか?」
「ああ、撮影許可取りに来たし、昼のランチを美味しそうに食べてた人ね」
「そう、俺筋肉痛で腕パンパンになってたんだけど、その人が鹿牛を運ぶの手伝ってくれてさ。配信してるから見てねって言われたから」
「へー、どんな名前なの?」
「天使のイブキだってさ」
「天使のイブキっと···登録者数〇人···」
「配信初心者の方だった···でもコメント欄に見どころ書いてくれてるな」
「そう言えば鹿牛ってどうやって倒しているんだろうね」
「確かに知らねぇな···あ、鹿牛との戦闘ってのあるわ」
「どれどれ···」
動画を見ると慣れた手つきで罠を設置し、鹿牛の特性を利用した狩りをしていた。
「上手い」
「すっごく綺麗に決まったね」
俺も椎名もその鮮やかな手つきに驚いた。
「下級中位のモンスターだけど決まればこんなに簡単に倒せるんだな」
「へえ、台車に乗せられるかどうかが一つの基準なんだ」
「これさ杭じゃなくて木に引っ掛けて一人がロープを引っ張る係で、もう一人が囮役って別れればもっと簡単に倒せるんじゃね?」
「確かにその方が安全そうね」
「なあ椎名もこのダンジョンの管理をするんならこのダンジョンだけでも潜った方が良いんじゃないか?」
「確かにそうね···」
「俺頑張って貯金するからさ、椎名も俺と一緒にここのケーナーティオダンジョンに潜らないか?」
「うん! 良いよ! やろうやろう!」
その後俺は椎名の部屋のテレビでイブキさんの動画を椎名と一緒に観てうちのダンジョンについて勉強するのだった。
後々彼らはイブキと長い付き合いになるのだがそれは後々のお話···
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