配信者として再始動

配信開始

 とりあえず更新する物は全て更新を終え、今は家に帰り、買ってきた本を読んでいる。


「やっぱりスマホじゃなくて地図を広げられるのは良いな」


 私は岐阜県内のダンジョン特集を今読んでいるが、初級のダンジョンに印を付けていく。


 岐阜県内のダンジョンの数は二百ヶ所。


 ダンジョンは上級ダンジョンの近くに中級、下級ダンジョンが現れやすい性質があるので、ダンジョンも生き物の様に成長しているのでは無いかと研究する学者もいる。


 土地が広大なカナダでとある実験が行われた。


 上級ダンジョンを放置していれば人為的にダンジョンを増やすことができるのではないか···というものだ。


 結果は酷い物で確かに複数箇所新たにダンジョンができたが、上級ダンジョンの生物が地上に溢れ出し、ダンジョン災害が発生。


 カナダの冒険者や軍では対応しきれずに米軍とアメリカの冒険者達が救援に向かったという事件があった。


 これによりダンジョンを放置すればダンジョンは増えるが、放置した分内部のモンスターの数も増えてしまい、溢れるということもわかった。


 まぁ今のダンジョンが増えるペースは関東や関西等の地方毎に年に一、二箇所程度であり、殆どのダンジョンは五十年前のダンジョンがボコボコ出現した時期にできたため、地球がダンジョンで覆われるということは当面は大丈夫と言われている。


 そんな事を考えながら、ピックしたダンジョンのページを眺めているとダンジョンにも人気で来場者が左右されていることがわかる。


「こことここは穴場だな···おっちゃんのダンジョンもやっぱり立地が悪いんだろうな。人気ランキング百七十位だし」


 まぁ低級ダンジョンで人気があるのは宝箱が出やすいダンジョンか、開放的で奇襲を受けにくい草原タイプのダンジョンだろう。


「あー、撮影の事を考えるとこことかが良さげか?」


 そのダンジョンは草原タイプだが出てくるモンスターが犬っぽいバウとゴブリン、時々リトル鹿牛が出るらしい。


 リトル鹿牛は子鹿サイズの牛みたいなモンスターで、人を見ると突っ込んでいく性質があるが、体重が軽いのでそこまで威力は無い。


 攻撃力が低く、それでいて上手く気絶させれば一体五万近くで買い取りしてくれる。


 このダンジョンでは更に有料で荷車を貸してくれるので、リトル鹿牛を数体台車に積んで換金できれば下級ダンジョンにしては利率が良い。


「よし、イブキとしての初配信するダンジョンはここにしよう」


 車で約一時間の場所だし、前の体でもリトル鹿牛は倒したことがあるので気絶させるコツは知っている。


 ボスにさえ気をつければ問題ないだろう。


「台車が使えるなら大きなリュックで良いね。台車に乗っけて行けるし」


 カメラの準備や初配信の予約をして明日の準備を進めるのだった。







 翌朝、天気は快晴···絶好のダンジョン日和である。


「ゴブリンの相場は少し下がって一体当たり四千八百円、バウは魔石が一個千円か」


 バウは毛深い犬の様なモンスターで、愛くるしい見た目なのだが凶暴で、ダンジョンが出現した初期の頃にダンジョンから保護を試みた者が食い殺されたり、ダンジョンから連れ出して飼育していた檻を破壊して町中に脱走し、家畜を食い散らかした事件等十数件起こり、ダンジョン内の生物は愛玩動物として飼育することを禁止する法律が制定されるに至り、今ではバウを犬ではなくモンスターとして見るのが一般的だ。


 ただやっぱり犬の姿をしているので食う事は無いが···一部の国では食べているらしい。


 同様の理由で猫型のモンスターも日本では食べられていないし、愛玩動物として飼育しようとはしない。


 車に乗り込んで目的のダンジョンに向かうのであった。








 ダンジョンがある場所に向かうとやたらとカラスが多く感じた。


 広い駐車場、アイテム屋、換金所のいつものセットの他に管理人宅と屠殺場、道を挟んだ反対側に焼き肉店が建っていた。


 牛や豚、鶏等の家畜を屠畜するには許可がいるが、ダンジョンのモンスターであれば約二ヶ月の探索者支部で行われる講習を受け、試験に合格すればモンスターの肉を販売することが許される。


 国の法律では無いが、安全性の問題で個人間でなければ必ず探索者支部管轄か許可を得た業者が食品に加工している。


 ここの屠殺場もその一つ。


 捕れた鹿牛を加工して各地に送り出しているのだろう。


 探索者の他に卸売の業者がモンスターの競りをしているし···


 俺はとりあえず撮影の許可を求める為管理人が居る場所を聞いたところ、焼き肉店のオーナーがダンジョンの管理人らしいので、焼き肉店に入る。


 焼き肉店の中はオーナーの趣味なのかやたらとアメリカンな雰囲気で、お客さんは分厚いステーキを美味しそうに食べていたり、鹿牛の骨から出汁を取ったであろうスープの匂いでお腹が空いてくる。


「いらっしゃいませ! お客様は一名でよろしいでしょうか」


「あ、すみません、ダンジョン内での撮影の許可をいただきたいのですが」


「少々お待ち下さい」


 店員さんは厨房の中に入り、一分もしないで戻ってきて


「大丈夫です。ただ他の探索者と揉めた場合ここの周辺施設へは出禁となりますので気をつけてください」


「わかりました。気をつけます」


 許可も貰えたのでアイテム屋にて台車を借りてダンジョンの中に入る。













「はい、皆さんこんにちは! 下級下位のダンジョン探索者イブキです! 皆さんよろしくお願いします!」


 同接人数は〇人···まぁ企業勢や転生者(配信者の)で無ければこんなものである。


「自己紹介をしながらやっていこうと思います! まず見てくださいこの体、天使ですよ! 自分で言うのもなんですがめっちゃ美少女じゃないですか! この頭のリングも後ろに浮いている翼も自前のですよ」


「天使病と言ってダンジョンのトラップに引っかかって性転換してしまいまして···なのでこんな姿ですが元々男だったので心は男のまんまですよ!」


「スペックですが、レベルは二で、ライトとライトアローの魔法が使えます。まぁ頭の輪っかが光るのでライトの魔法は目眩ましくらいにしか使えませんがね」


「あと浮く事ができます。ほらこの様に」


 と私は五メートルほど浮遊する。


 この様になるべく喋り続ける事を意識する。


 コメントが付かなくても後々編集して切り抜きの動画にする素材を増やすためだ。


 まぁ当面はレベリング目的としたダンジョンアタックを続けなければならないので、編集する時間は取れないだろうが···


「フィールドは草原タイプのダンジョン内部で、平地が広がってますね。時折木々が生えていて、そこをバウとゴブリンが徘徊してます」


 透き通るような声で滑舌良く喋っていく。


 前の体だとどうしてもどもりながら喋ってしまっていたが、声帯が開いているのか声が出やすく感じる。


「初戦闘です! 目の前にバウが居ますね! バウがこちらに気が付きました! 戦闘開始です!」


 台車から手を離し、バウが突っ込んでくるので台車から離れて待ち構える。


 バウが飛びかかってきたタイミングで思いっきり右手でアッパーを繰り出す。


 バウの腹部に直撃し、バウは上空に飛ばされ、七から八メートルほど浮かび上がった後に落下してきて地面に落ちた。


 口から大量の血を吐き出しているので、アッパーで内臓が破裂したか、落ちた衝撃で潰れたのだろう。


「やりました! バウ撃破です!」


 可愛く言うが、やってることに可愛さは無いなと思う。


 このまま配信を続けながらダンジョンを私は歩いていくのだった。

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