初心者救済シリーズ

 家に帰り、簡易測定機でレベルを測定すると三と表示されていた。


 天使になって一週間もかからずに前のレベルに到達した。


「早いな。それに治癒魔法の『ヒール』を覚えることができた」


 この調子でレベルが上がるのならば二ヶ月以内には下級中位には成れそうである。


 改めてこの体になって運が向いてきていると思えた。


「あの後もう一体リトル鹿牛を仕留められたからバウも合わせて今日の純利は十万六千円だな」


 ガソリン代、駐車場代、台車のレンタル代、焼き肉屋での食事代、その他消耗品の代金を抜くとこんなものである。


 今日だけで前の体では一ヶ月かかって稼いでいた金額を稼ぎ出してしまった。


「前までの自分が弱すぎたのか···この体が才能に溢れているのか···両方だろうな」


 食品や諸経費を引いた今週の利益は約十二万。


 毎回【ケーナーティオ】のダンジョンに行くのは距離があるので大変だが、週に一回程度なら良いダンジョンかもしれない。


「お、挨拶動画の再生数が二十回を超えた。初配信も五再生か。チャンネル登録は···このアカウントは榊原さんだな。後は知らない人か。もしかしたら今日出会った換金所の人かも?」


 チャンネル登録者が三人になっている。


 コメントも来ていた。


『初心者向けのダンジョン講座をしてくれると助かります』


 ははーん、これたぶんあのお兄さんだなーと思いながら配信はダンジョンメインで動画は初心者探索者向けの動画が良いと思った。


 まぁ高卒からかれこれ五年もダンジョン潜っていたからな。底辺なりに稼ぐいろはは叩き込んでいる。


 そういうのを教えるのも一興だろう。


 思い立ったが吉日···動画のプロットを作成していく。


 見やすい様に十五分程度が良いだろう。


 早速台本を作らないととパソコンを起動してテキストに台本を書いていく。


 読み上げの練習をして、動画を撮影して編集を終えた頃には日付が変わっていた。


「五時間も熱中してしまった···毎日はできないけど求められているならやらないとね」


 ついでに今日の配信の切り抜きも作ってアップロードしておく。


 そうこうしていると眠気が襲ってきたので眠りに就くのだった。







 朝起きて自分のアカウントを見てみると初心者向けの動画が二百再生もされていた。


「何事!?」


 と思い、どこからこの動画を見に来たか確認してみるとブログを書いている人がリンクを記事に貼ってくれたらしく、そこから流れてきていた。


 まぁ記事の人のアカウントを見たら榊原さんだったが···


 とりあえずお礼を言いに榊原さんの部屋に行く。


「榊原さん。榊原さん!」


「なんだようっせぇなぁ後藤」


「いや、榊原さんブログに私の動画のリンクを貼ってくれたじゃないですか! 今までこんなことなかったのでお礼をと思いまして」


「あぁ、前までの配信なら絶対に伸びねぇから俺のブログに貼ることも無かったが、今のお前なら伸びる要素しかねぇからな。繋がってる事で後々利益になると判断した」


「なるほど···って結構酷いこと言ってませんか」


「誰が男の底辺配信見るんだよ。工夫しろ工夫! ···動画の方を見たけどダンジョン探索者でない俺でもなるほどなぁって思ったからな。シリーズ化するんだったら良いと思うぞ」


「勢いでやったんですけど···良かったですかね」


「題材が探索者になるにあたっての注意だからな。そりゃ気になるだろ」


 榊原さんはシリーズ続けるなら本垢で宣伝するから頑張れと言ってくれた···あの人暇だからってブログのアカウント複数持ってたのかよと思いつつも思わぬアシストに感謝しつつ、私は飯を食べながら自身の動画を見返す事にした。






『こんにちは! 天使のイブキです!』


『初心者探索者救済シリーズ! 第一回まずダンジョン探索者になるに当たっての注意点を始めたいと思います!』


 ズルズルと季節外れのそうめんをすすりながら動画を見る。


『まず本当に基礎の基礎から。探索者になるには各都道府県にある探索者支部か本部で探索者の登録をしなければなりません。探索者にならないでダンジョンに潜った場合、ダンジョン管理者が罰則を受けますし、怪我や状態異常、また死亡してしまった場合に保険が適用されないので必ず探索者登録はしておきましょう』


『探索者登録は車の免許よりも簡単です。約三時間の講習を受け、先輩ダンジョン探索者や企業が行っている初級ダンジョンに実際に潜ってダンジョン内部の雰囲気を体験してもらい、最後に各種保険に入ると探索者登録が完了します』


『探索者登録が完了すると探索者証明証という車の免許証みたいに顔写真付きの証明証が発行されます』


 と編集で画面に探索者証明証の見本を映し出す。


 住所や生年月日、潜れるダンジョンのランク等が書かれている。


『はい、この様に潜れるダンジョンのランクが記入されています。車で普通車、準中型、中型、大型みたいな運転できる車種みたいな感じに潜れるダンジョンのランクもしっかり決まっています』


『都会のダンジョンだとダンジョンの入口が駅の改札口みたいになっていてランク外だと止められるみたいな仕組みを取り入れている場所もあったりしますが、基本ダンジョンに併設されているアイテム屋に証明証を見せます』


『アイテム屋が無い田舎のダンジョンだとダンジョン管理者の家が近くにありますので関係の方に見せてください。下級ダンジョンは緩いですが中級以上は入場がしっかりしていますので上の級に上がった場合は注意が必要です』


 なぜ下級は緩いかは下級は探索者であればどの階級でも入れるから顔馴染みの探索者だとほぼフリーパスになることもある。


 前の体の時はおっちゃんのダンジョンがそうだった。


 たぶん今おっちゃんのダンジョンに行ってもフリーパスだろう。


 と言うか天使病がダンジョン病なので、ダンジョン内でしか感染しないため、探索者だと分かる人には分かるだろう。


 あのおっちゃんは知らなかったみたいだけど。


『では次に階級の話をしましょう。ダンジョンでモンスターを倒すとゲームで言う経験値みたいなのが蓄積してレベルが上がります。レベルは探索者に登録した際に簡易測定機を探索者協会から支給されますし、探索者協会の施設でも測ることができます』


『レベルが上がると身体能力が必ず上がり、時々魔法が使えるようになります。では試しに「ライト」···手元に光る玉が出現しました。これが魔法です』


『魔法の話はまた後日別の動画で話しましょう。今日は注意点なので証明証が発行されたと同時に能力の測定を受けましょうということです』


『これは探索者協会の支部か本部でしかしていない測定です。二千円で受けられますが、これがすっごく大切なのです』


『探索者には級の他に位というランク分けがあります。レベルが三十上がる毎に級が上がり、十上がる毎に位が上がります』


『能力の測定ではレベルの他に腕力、脚力、体力、魔力、魔法の適性、各種耐性を数値と階級に分けて測定してくれます』


『私のデータを見せましょう』


 ·レベル 二


 ·腕力 十八  下級中位

 ·脚力 二十九 下級上位

 ·体力 二十八 下級上位

 ·魔力 四十二 中級中位

 ·適性魔法

 光◎

 雷○

 水△


 ·耐性 火◎水◎風◎雷◎土○雪◎草◎闇△光◎

 毒◎火傷◎眠り○麻痺◎呪い○石化◎魅了○


 一部伏せているがこの前測ったばかりの書類を画面に映す。


『レベルだけならば二なので下級下位のダンジョンが適正ですが、私の能力を見るとどうでしょう。一番下の能力が下級中位ですよね。下級でも下級中位のダンジョンまでならボス以外のモンスターに挑んでも大丈夫という保証をしてくれる事になります』


『耐性も重要な要素です。例えば毒の耐性が皆無なのに猛毒のモンスターが出るダンジョンに向かえば下級ダンジョンに中級の方が挑んでも死ぬ可能性があります』


『逆に耐性が◎のダンジョンを挑めば受けるダメージを最小限にできますし、効率的にモンスターを倒すことに繋がります』


『耐性が低くても諦めないでください。装備を整えれば下級ダンジョンならある程度の融通は効きますので、これも本格的に注意するのは中級になってからでしょう』


『さて、探索者証明証と能力の測定が終われば次にダンジョンに挑むための準備に取り掛かります。その為にはどのダンジョンに挑むかという問題に当たります』


『適したダンジョンの見つけ方を今日の最後の題材にしたいと思います』


『まず美味しいダンジョン以外で成りたての下級下位が一日で稼げる金額は平均一万円と言われています。私はこの天使の体になる前までの平均は五千円でした。ダンジョン選びを間違えることなく、身の丈に有ったダンジョンを選び、一ヶ月程潜れば日に五千円というのは超えることができるでしょう』


『では適したダンジョン選びとはどうやれば良いか···これは皆さんの活動範囲で決まります。ダンジョン都市に居るみなさんなら街中の複数ある下級ダンジョンの出るモンスターがスライム、ゴブリン、バウ、ジャイアントキャタピラーの四種のどれかが出ることと草原タイプの開けたダンジョンを選べば間違いありません』


『その条件に近しいダンジョンを選べば下級下位の初心者でも慣れればある程度稼ぐことができます。掲示板等を見ればわかりますが日に三万以上コンスタントに稼げる下級下位の方も居ます』


『ではそうでは無いダンジョン都市以外に住む方の話をしましょう。まず目指すのは車の入手です。原付やバイクではなく車を推奨しています』


『なぜか? 田舎のダンジョン程装具を自前で整えなければならないからです』


『装具のレンタルなんてやっているのは都市部かダンジョン都市にあるダンジョンのみです。多くの装具を運ばないといけないので車でないと移動だけでも疲れてしまいます』


『なので田舎在住で探索者になりたいと思ったあなた! アルバイトや日雇いで稼ぐか、親等に借りてお金を確保して免許とローンを組んで車を購入しましょう。車のローンを組めば自然とダンジョンに挑んで稼がないといけないと言うモチベーションにも繋がります』


『移動距離は住んでいるところから一時間以内が望ましいです。それ以上だとガソリン代や交通費の方が高くつく可能性がありますからね。我々探索者は企業に所属しない限りフリーランス。誰も交通費の補助をしてくれません。交通費や消耗品を差し引いたら赤字なんて事が起こらないように気をつけましょう』


 後は本日のまとめを箇条書きしたテキストを画面に表示し


『それでは本日の動画はここまでにしたいと思います。次回の初心者救済シリーズはダンジョンの構造についてとそれに合わせた装備選びになります。では乙です!』


 動画はこれで終わる。


 コメント欄には見やすかったとかイブキちゃん可愛いとか天使病なんてあるんだとかステータス高くねというコメントが付いていた。


 ステータスについて詳しく解説する動画も撮った方が良いなと思いながら、食事を終え、モンスターの相場を見ながら今日のアタックするダンジョンを決めるのだった。

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