ピクシー 壱
住宅地の中にあるダンジョンもなかなか整備されていたりする。
まず大都会とかで無ければ必ず駐車場があるし、コンビニみたいな建物が二箇所併設されている。
俗に言うアイテム屋と換金屋だ。
包帯や傷薬、ライトや電池、携行食等武器以外で必要となるダンジョンの消耗品を売っている場所がアイテム屋で、ダンジョンで取れた素材を換金するのが換金屋だ。
大抵ダンジョンの管理者の一族が経営するが、委託会社もあるので委託に頼り、利益の一部を貰うダンジョン管理者も居るそうな。
「平日なのに賑わってるなぁ」
駐車場はほぼ満車。
アイテム屋のお弁当コーナーはまだ十六時だというのに売り切れの棚もちらほらある。
スマホでこのダンジョンの出現モンスターを確認するとスライムとピクシーがメインらしい。
ピクシーは人型の妖精をイメージするかもしれないが、そういうのはハイピクシーと言って、ピクシーだとただの光の玉である。
光の玉だが人が近づくと魔法を放ってくる厄介者でもある。
倒すと魔石を残して消えてしまうのも特徴だ。
「今の相場はピクシーの魔石は一個千円か」
まぁ低級ダンジョンのピクシーなので攻撃力も弱く、魔法が当たってもかすり傷くらいにしかならない為、好んで狩りをする者も居たりするらしいが、前までの私は遠距離から攻撃してくるピクシーを苦手に思っていた。
「今はライトアローがあるから遠距離で戦えるけど、魔法に突っ込んでいける胆力がある人は凄いなぁ」
今日はゴブリンを狩るわけでは無いので大きなリュックではなく、チェストバックという胸部の前に固定するベストに収納部分が付いている物で来ている。
軽くて動きやすく、前面からの攻撃に強いのが特徴で、入れられる量は限られるが魔石だけを回収するならばこちらの方が相応しいだろう。
ダンジョンの内部は数種類ある。
入口から地下に潜るのは全てのダンジョン共通だが、まずダンジョンの内部が変化するタイプとそうでないタイプが存在する。
前者を不思議のダンジョン、後者を普通のダンジョンと表現している。
下級ダンジョンには不思議のダンジョン形式は存在せず、普通のダンジョンとなっている。
内部の構造だが、洞窟タイプ、草原タイプが存在する。
ダンジョン内は異空間になっており、地下にそのまま空間が存在するのではなく、何処か別の空間に接続しているらしい。
その為地下に潜った筈なのに太陽や草原が広がっている···なんて事が多々ある。
草原タイプとは言うが、山脈であったり湿地が広がっていたり、森の中なんて言うこともある。
今回挑むダンジョンは草原タイプのベターなだだっ広い普通の草原が広がっている場所だ。
草原タイプで気をつけなければいけないのはボスが普通に徘徊している事だろうか。
洞窟タイプのダンジョンはボス部屋に気をつければ良いが、草原タイプのダンジョンにボス部屋なんてものは無い。
故にボスが戦闘中に乱入してくることもある。
まぁ広い空間なので逃げ切るのも容易だが···
「到着」
ダンジョンに入るとちらほらと人が戦っている。
目の前にはご丁寧に看板とダンジョンの出入り口を示す鉄塔が建てられていた。
看板を見るとダンジョンの周辺地図が描かれており、どうやら北に数キロ行くと小さな湖があるらしい。
異空間でもスマホのコンパス機能は使えるし、ネットだって繋がる。
ただ位置情報はダンジョンの入口に固定される。
不思議なものだ。
私は草原を歩きながらピクシーやスライムを探すと、ちょうどよくピクシーが二体ふよふよと浮かんでいる。
狙いを定めて
「ライトアロー!」
バシュンバシュンとライトアローを十発連射し、うち二発がピクシー達に命中する。
ピクシーは光を煌かせながら落下していき、地面に落ちると魔石が転がっていた。
「よし、一発で倒せる」
十発撃って命中弾が二発なのは単純に技量不足。
程よく動いて的も小さいピクシーはライトアローを鍛えるのにもってこいかもしれない。
「予定変更。ピクシー狩りじゃぁ!」
辺りを見渡せばピクシーは至る所に居る。
人のを取らないように気をつけながらピクシー狩りに精を出すのだった。
「ライトアロー!」
潜ってから二時間。時刻は十八時。
二時間みっちりライトアローの練習がてらピクシーを狩っていたが、狙いが甘くて命中せずに反撃を受ける時も少なからずあった。
ピクシーの攻撃は小石が当たる程度の威力で顔にさえ気をつければそこまで痛くはない。
まぁ全く無傷とはいかないが当たりどころが悪くても打撲程度で済む。
今のところ頭に当たったのもヘルメットのお陰で無傷であり、傷らしい傷は無かった。
「ハァハァ。魔力切れって精神的疲労と睡魔がやってくるって言うが、確かに疲れた」
二時間でライトアローを合計三百発以上放ったので私の残り魔力は少ないのだろう。
「まぁ魔力の限界がわかったから、今回のダンジョンは成功だな」
魔石も二十個も集まった。
全て換金すれば約二万円になる。
「ハァ、もうクタクタ。帰ろう」
そう帰ろうとすると
「天使の姉ちゃん良かったらパーティ組まないか?」
と後ろから知らない男が話しかけてきた。
振り向いて見るとぱっと見高校生に見える。
童顔なのか、見た目通りの歳なのかは判断に苦しむが···
「なんだいいきなり」
「いや、魔法でバンバンピクシー倒してたから後衛だろうと思ってな。前衛が居ればボスも狩れるんじゃないか? ってな」
「あー、そういう感じか。悪いな兄ちゃん。私魔力もうすっからかんなんだわ」
「あ、そうなんだ。じゃあ今度潜るときでいいからパーティ組まないか? 俺は里崎! 高三! そっちも高校生くらいだろ?」
「後藤、二十三だよ」
「は? 嘘めっちゃ年上じゃん」
「あー、今のところパーティ組む予定は無いんだわ。里崎だっけ? 低級でパーティ組むのは顔馴染みだけにしておけ。知らない奴と組むと金で揉めるからな」
「でも前衛と後衛で分かれてれば問題は少ないんじゃないですか?」
急に敬語になったな。
まぁ良いか。
「低級でパーティを組まない理由はレベルにも関係する。才能の差でレベルが上がりやすいか、上がりにくいかでどちらかが必ず足枷になるからな。顔馴染みだったらある程度許容できるが、そうでないなら後半はレベルが低い奴は寄生になるからな。私もそれで痛い目見たからな。お前ダンジョン潜って数ヶ月も経ってないだろ」
「ま、まぁそうですが」
「高校生なら高校で仲間を募れ。私は別に今はボスに挑む気はねーからな」
「そうですか···すみません」
「あと後ろから話しかけるな。前から話しかけないとモンスター倒してハイになってる奴は攻撃してくる場合があるからな」
「き、気をつけます」
私はそう言って里崎と別れ、ダンジョンから出た。
眠気に逆らえず換金後に車内で仮眠をしてから自宅に戻る。
「仮眠したらめっちゃ回復したな。眠気も無いし···天使の体だからか?」
一応簡易測定機に手をかざしてレベルを確認するが、レベルは上がっていなかった。
「まぁそうだよなぁ」
日課の家計簿を付けて食事を摂る。
今日は梅干しの茶漬けだ。
「明日は探索者協会の支部に行ってっと···早めに寝て、明日早めに行くか」
私は食べ終わり、風呂に入って眠るのだった。
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