ささくれ西部劇

リート

大将戦

 とある人の人差し指の一端に、少々大きなささくれが出来て上がってしまっていた。その内部では激しい戦争が繰り広げられており、局面はすでに終盤を迎えていた。


 皮の一部をささくれにして攻めてきた柴又率いる占領軍に対し、僅かに生き残った体細胞達で構成された神代こうじろ率いる義勇軍が命を賭して守りに徹する。


 義勇軍の奮闘もあってか、戦況は長らく拮抗していた。その流れに終止符が打たれたのは、両軍の大将が武器を持って衝突したことに訳があった。


「いい加減決着つけようぜ義勇軍よぉ」


 柴又は拳銃をハンカチで磨きながら呟く。


「僕もそう思っていたところだ銭ゲバ」


 神代は胸辺りに刺繍された猫の絵を撫でながらそう言う。


 そして、どこからともなくふっ飛んできた短剣が地面に突き刺さると同時に彼らは引き金を引いた。


 弾丸は真正面から衝突すると、互いに酷く潰れた状態で落下していく。その間に2人は低姿勢の状態で走り出し、銃の発砲準備を済ませる。


 柴又は両足にそれぞれ一発ずつ弾を飛ばす。神代は弾を急旋回して避けると、柴又の四肢目掛けて連射する。


「グッ!!」


 うち一つが右足に当たり、柴又は勢い余ってでたらめに転げ回る。


「終わりだ!!」


 神代は止めを刺すために構えようとした。しかし、なぜか右腕がピクリとも動き出そうとしなかった。

 視線を一瞬だけ下してみると、穴が空いた腕と右手の束縛から解放された拳銃が目に飛び込んできた。


 柴又はニヤリと嗤う。


「さっき叫んだ時、心の中は勝った気でいたろ?  この馬鹿が!!」


 柴又はすぐさま拳銃の引き金を引きにかかる。しかし柴又はそこで気が付いた。自分の左人差し指が消えて無くなっていたことに。


 神代は静かにほくそ笑む。


「怠慢は君の方だったようだな。散れ」


 神代は言葉を発している間に左手で拾った拳銃を心臓めがけてぶっ放す。


 弾は予測通りの弾道を描き、そのまま地面の下へと潜っていった。


 大将戦の終結後、占領軍は頭目を失ったことによって引き起こされた乱れを突かれて散り散りとなり、その場からの撤退を余儀なくされた。


 数時間後、勝利を重ねて占領軍を押しのけた義勇軍は、頃合いを見て体内の血管の中へと撤収していくこととなる。


 そして、ささくれは脳からの指令により、体表から根こそぎ取り除かれた。

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