第43話 激闘

 よくねたー。今回はフィーに完全に任せてここあちゃんも睡眠を取った。ここあちゃんは睡眠しなくても良いけど、寝れば効果はあるんだよね。

 フィーは、私があやさない限り、寝ないんじゃないかな。


 さあて、残りの始末をつけますか。抜刀隊と合流し、救援を待つ。



「救援がこないな。おかしい」


 抜刀隊の部隊長がなんか怪しむ。わたしは楽で良いなーと思っているが。


「全体速歩! 抜刀隊に向けて襲撃があるかもしれん」

「死ににいくようなもんでは?」

「一矢報いるという考え方もこの地域にはあるのさ」


 ふーんと思いつつ戦闘が起こっている方向を向く。上空にいるここあちゃんと私でレーダーとセンサーを発動させているのだ。上空のここあちゃんはレーダー。地上の私はセンサー。レーダーとセンサーの違いはよくわからないけど、走査距離と解像度かな。

 センサーの方が細かいし詳しい。

 レーダーはもの凄い遠くまで走査できるし探知できる。その分大雑把。

 ここあちゃんならレーダーでも弾丸一つ探知できると思うけどね。


 午前中はつつがなく進行し、もう少しで一掃できそうな感じ。

 抜刀隊も休憩に入る。半舷休息といって隊の半分が休んで半分が警戒態勢を取るという状況。

 ご飯も食べる。人間だから30時間も警戒していればお腹もすく。普通15時間くらいで休憩とご飯を取るからなあ。


 いやあ、山のようにでかいおにぎりやパンをぺろっと食べるんですわ。それを何個も食べる。さすがだわ、抜刀隊。エネルギー消費が普通と違う。それでも腹5部くらいというんだから恐ろしい。10部食べちゃうとお腹が破裂したとき内容物が邪魔で治療できず詰むってのはあるよね。


 そんなささやかな休息の時だった。


「レーダーに反応! 数は、20機! 楔形くさびがたで突っ込んでくるぞ! 馬に乗れ! 速い!」

「全体騎乗! 襲歩全速力で散会!」


 ここあちゃんが先行してエネルギー速射砲を撃つ。


「避けられた!? こいつら練度がもの凄いぞ!」

「騎乗急げ! 散れ!」


 ばーっと散っていく抜刀隊。


「今度は花火のように散った! 目標決めてやがる!」

「ミカさん!」

「主力砲準備よし!」


 パーンと青いすじが放たれる。直後にもの凄い爆風。


「一体処理! 牽制はこれくらい、狙撃にはいる! あと9体は潰す!」


「センサーに反応! 全員重い斧をもってそうだ! 槍の代わりじゃないかな!?」


 次々と馬の悲鳴が響き渡る。数分で両翼にたどり着く馬を超える速度を出してるのか。

 人間があの高さの馬から落馬して耐えられるのか? 馬が持ちこたえるのか?

 わからないけどかなり不利だ。


 さて、私にくる相手はだれ。


 目の前から何の考えもなく突っ込んでくるウルフコボルトがいる。前傾姿勢で、巨大な斧を持ったウルフコボルトが。

 斧、というより先端に突起があるからポールウェポンか。こんなの作れるのか。これで刺されたのか、馬さんたち。


「お前かあああああ!! 過負荷重荷電ブーステッド・SAKURA粒子加速砲サクラ・フレア!」


 もうボス級相手には効かないのはわかってるんだけど、それでも撃つ。ちょっとでも勢いをそげれば良い。

 今回はエーテルを多めに消費し秒数を長くとった。少しだけ削れてくれ!


 打ち終わった先には、立ち止まりこちらを見据えているウルフコボルトがいた。止めた、偉いぞサクラ・フレア!


 しかしでかい。体長2.5メートルはあるんじゃないか? センサーをかける余裕がないから見た感じでしかわからないけど。


「グオオォゥォゥン!!」


 一つ叫ぶと一気にトップスピードに乗せて突っ込んでくる。嘘だろ、サクラ・フレアはリチャージ中だ!


 槍をスカートの左ポケットから即座に出し、迎撃態勢に入る。ナイフがあたれば裂けるし絶対傷が付く。しっかり迎撃しろ、あずき。

 相手の方が上だった。槍があたる手前で思い切り斧を振りかぶり叩き付けに来たのだ。槍を捨て超速の反射神経で斧を掴む。こんな斧に槍を合わせることは不可能だ。


 ガツン、ギギギ。


 手のひらの表面装甲をぶち破り、皮下装甲にあたった音がする。そして押し合いによる鉄が曲がる音。

 顔面を狙ってきたけど多分頭蓋骨を割ることは出来なかったと思う。でも意識が薄くなった可能性があるな。


「ガウゥ!」


 押し合いしてきたかと思うと、今度は引っ張り上げてくる。これはまずい。私は体重が60から65キログラムしかないんだ。簡単に持ち上がる。

 グワンと持ち上げられたあとは、思い切りの叩き付け。斧の先端が胸にめり込む。血液がほとばしる。あれ、インスタントバリアが発動していない、かけ忘れてる!


「大丈夫、まだ心臓は破れきってない。インスタントバリア起動。ルカさん!! 体重差なんとかして!!」


 全体に支援をかけまくっていたルカさんがこちらに意識を向ける。


「わかりました、グラビディ3倍! パワーアップとスピード!」


 グラビディは重力をさらに重くするWAZAだっけ。3倍ってことは180キロくらいか。パワーアップとスピードでそこまで3倍になった感じはしない。


「今度はこっちの番。私が握っているってことはねえ」


 置換が使えるんだよ!

 握っているところが砂になって崩れ落ちる。ポロリと取れる先端。これで長柄はない。

 と思ったら背中から槍を取り出してきた。なんなんだこの準備の良さ。


 槍はもうないし、ナイフで作ったのは、50センチのナイフ柄がついた、ナイフくらい。ショートソードで、先端、切り落とすか。


 ショートソードとバックラーを体から取り出す。


「うおおおおお!!」


 こっちは私が咆哮し突撃する。3倍重力かかっているからそんな速くはないけど十分だ。

 狙い澄ましたウルフコボルトの槍の一撃。


 パリン。


 インスタントバリアが防いでくれた。一瞬止まる槍。そこにショートソードのなぎ払い。綺麗に穂先が切れる。

 爆発反応モードだと吹っ飛んでしまうので高速修復モードで対応したのだ。狙い通り。


 動揺したかと思ったら全然そんなことはなく、先端のない槍でこずいてくる。槍ってのは穂先がなくなってもくそ固い棒だからな。犬なのになんでこんなに詳しいんだ。

 こずけばバックラーで防がれショートソードでどんどん先を切られるので、長いうちに勝負に出たのだろう、再度思い切りの叩き付けに出る。切っても勢いがそのまま残るから、槍が一矢報いることが出来る。

 私もバックラーとショートソードを手放し、再度力勝負に付き合う。


 今回は勝算があった。ルカさんの支援で体重は増え力も増している。がっちり持っているのは私の方だ。


「私のパワーアップとスピード!」


 多分10秒しか持たないダブル使用をし、全身の力を使い一気に持ち上げる。そして、


「うおらぁ!」


 叩き付けた。

 もちろんそれだけじゃ意味がないが、コケたことに意味がある。

 高速で近寄りウルフコボルトに馬乗りになる。


「トドメ刺される準備は良いかい!? 重荷電SAKURA粒子付与拳サクラ・パンチ!!」


 エーテルを積めに積め込んだサクラ・パンチを胴体にぶち込んでいく。顔は暴れすぎていて狙えなかった。

 ほぼ初めて使ったサクラ・パンチだが、エーテルを積めているだけあって威力は凄まじい。

 胸甲鎧クラスのすんごい分厚い鎧をしているこのウルフコボルトを蒸発させている。溶かしているといった方が良いか? まあ、殴ったところがなくなるのだ。

 心臓もぶち抜いて脳に酸素がいかなくなり、けいれんして倒れたウルフコボルトの首をナイフで取り、高らかに宣言する。


「ウルフコボルト、討ち取ったりー!」

「そんなことは良いから他の支援に回れアホたれ」

「ウィッス」


 他の支援といってもバックのミカさんとルカさんの支援がすごくて特にやることはなかった。

 ミカさんが主力砲の狙撃で10体落とし、30ミリで制圧射撃をすればあとは力のある抜刀隊が一刀に伏せるので。


「ぷふぉーぷふぉー」


 ホラ貝の音が鳴る。全機が集合してきた。


「被害報告」

「はっ、現在戦闘はありません。死者は4名、負傷者は11名、負傷者はルカ殿が治療に当たっていただいております」

「馬の被害は?」

「13です。初撃で馬の心臓を狙った模様。落馬すれば優位に立てると思ったのでしょう」

「推測はするな。解析はこれから専門班がやる。しかし、ウルフコボルトの集中運用、普通じゃないな。恩呼知真おんこちしんの方」

「はーい」


 おずおずと私が前に出る。


「感謝申し上げる。貴殿たちがいなかったら被害が拡大していたであろう。特に支援組の方、本当にありがたかった」

「えー、ボクは4体引き受けて、あずきは一番でかいのを担当したんだぞー」

「貴殿たちはアンドロイドであるからな。これでもまだ余裕であろう?」

「まあ、ボクだったら12体でも20体でもあいつらの弓矢なんて避けられるけどね。遠距離最強が遠距離戦で負けるわけないだろう?」

「私は一対一だったから勝てたようなもんです。補助のウルフコボルトがいたら負けていました。正々堂々となんて馬鹿がやる奴ですよ」


 はっはっはと笑って、全体に響くホラ貝の音。掃討が完了したのでしょう。


「よし、中央と合流して帰るぞ。死体はわかるところに。処理班が引き受ける」


 終わりかなー、疲れたねー。


 んでまあ、せっかく出し景気づけてやろうかと抜刀隊の隊長に話しかける。


「いやあ、判断が凄かったね。4名の死亡は多分落馬で首から落ちたんでしょう」

「推測はしない」

「まあまあ。あれだけ馬がやられて4名しか死ななかったんだ、凄い練度だね。よく着地できたもんだ。そのまま戦闘にはいってるよね。あのとんでもない太い太刀で一刀に伏せてるよね。瞬間的に誠剣せいけんざん誠剣せいけんとつで仕留めてるんだ。すごいもんだ」

「お世辞でも言いに来たのか?」

「どうだろう? でもま、狙われなかった馬が一気に槍で支援したのも凄いね、槍とウルフコボルトと斧が絶妙で、喉元に刺さった槍とそれらのバランスで立ったまま絶命しているのを見たときは芸術だと思ったよ。抜刀隊はとんでもない。そんだけ。ばっははーい」


 お世辞も大概にしろよと後ろから声をかけられながら戦場をあとにするのであった。

 誰かが褒めないとな、この戦勲は凄い。隊長は被害を重く見過ぎてるからね。

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