第21話 フィーはあずきにあやされると寝る
さて。
ミカさんが帰ってこないけどフィーを動かそう。
宿から引き払い、街の端っこの方へ。土地管理が放棄されているところだね。
そこで要塞モードになってもらう。あんまりデカくない程度にね。二段三段にする必要は無いみたいな。一段くらい。主力砲モードよりは背が高いかな。
主力砲とか副砲とかは出てない。だすとエネルギー使うし、町中で出すわけにもいかない。
こうやって要塞モードにしてなにも出さない方がエネルギー消費しないんだってさ。でっけー犬なんだけどねえ。
ゴールデンレトリバーとかの方がエネルギーは使わないんだけど、ルカさんによれば捨て犬として連れ去られる危険があるそうだ。
そっか、なるほどね。
もふっとこ。
「もふーもふもふもふもふ」
「ばうばうばう!」
「もっふもっふもっふ」
「きゃっきゃっきゃ!」
「はーかわいいねえ首筋わしゃわしゃー」
「くーん……ぐがーぐがー」
寝ちゃったよ。
んでんで、フィーには熱や冷気に対して完全ともいえる耐性があるからフィーに対する寒さへの心配は要らない。そもそもエネルギー積層技術で街が覆われているからある程度の暖房が効いてる。フィーにはそれだけで十分だ
要塞モードでもホバー止めればずっしりとした重さの要塞になる。
フィーの風操作でフィーの周辺にはバリアが展開されて雨風の心配も要らなくなるし人避けにもなる。拒否型バリアになるのだ。
フィー内部の亜空間は冷暖房完備だから大丈夫。そもそも亜空間なんでそこまで外部の環境に左右されない。異次元空間じゃないから少しは影響されるんだけどね。
ラウンジに亜空間全体の空調を担うエアコンが付いてる。重要な部屋には個別で強力な空調があるしそれで十分。
これで冬場の拠点は確保できた。
するとここあちゃんが帰ってきた。
「ただいま。移動が早すぎるぞ。これじゃミカが迷っちゃう。スキャナーモードにして探してくる」
「ミカさんなら発信器持ってますからフィーとの間で常に位置関係を把握……彼女オシャレ着で出発してしまいましたね」
「ミカさんは置いといて、蜂蜜は良い感じだったの?」
「ああ、それは合格だった。寝なくてもいいアンドロイドかサイボーグ募集と書いてあったから、これが一番の合格ポイントだったな。蜂蜜は渡さないが賃金の一部は勿論寄付するぞ。ルカはアルバイト代で僕から買え。安くしてやる」
「この街はアンドロイドやサイボーグ寛容派なんだね。一切の存在を認めないというところもあるらしいのに」
くう、と歯ぎしりをするルカさんをなだめて、ミカさんを探しに行くことにしたよ。ルカさんの術式人物所在探知で所在は一発でわかった。普通の酒場だ。バーじゃなくて酒場ということは……。
「いたぞー、ミカ、58連敗おめでとう。もう諦めろ」
「ぐすっ、ぐすっ、いいところまでいったのに、雑魚に絡まれて特殊部隊式の近接格闘術使って半殺しにしたら……逃げられた」
「あちゃー。ミカさんの戦闘は殺気がもの凄いから誰でも逃げますよ。そろそろ
「さすがに
うわーんうわーん泣くためにその日はその酒場で一杯やることとなりましたとさ。びぃぃるうめー。おつまみもってこーい。ミカさんの敗北なんて知るかー。
冬ももうすぐやってくる。
あ、私の伐採アルバイトは無事に合格しました。
冬来たりなば春遠からじ。というレベルじゃねえんすわ、こっちの冬って。
「冬服はバッチリ。夜間用コートも着て。いってきまーす!」
「いってこーい。ボクは夜間の60時間が勤務時間だからな」
伐採隊に合流。
「えー集まった諸君。かくかくしかじか」
話0割で聞いていたため、なに言っているかわかりませんでした。訓示なんてそんなもんでしょ。
「ではチーム分けするぞー。A班はタニシ、オケラ、ゴカイ、アメンボで組んでくれB班はー――」
私はなに班だろうなあ。30名くらい集まってるから早めに呼ばれたいな。フル混成で28名7組。残り物に当たるのは嫌ずら。
「じゃあ残り2名、
なぁーんでぇ! 私使えるよー!
「じゃ、谷明さん、支援同士よろしくお願いします」
「おら帰るだよ。支援じゃいくらも儲かんね」
といって帰っていった。なぁーんでぇ! 私一人でどうしろっていうんですかー!
仕方が無いので支援に回ることに。溝をノコギリで削って作ったり、その反対側から斧で
「あぶねえ、こっちに倒れてくるぞ!」
あら、木があっちじゃなくこっちに倒れてきました。逃げなければ。スピード使って。
「はい、押さえ込みました。危ないんであっち側に倒しますね。おらー、紐で引っ張るやつらしっかり仕事しろよー! 死にん出るところだったぞ!」
「す、すいやせん」
「謝れば死者でないと思ってんのかー!!」
苦戦しているところに回っては支援をして、難儀してるところへ行っては支援をして。10日分の賃金は10ゼニでした。日当10ゼニとかじゃなかったっけ?
10日で一旦給料出るのは1ヶ月働いてお金出すと飢えるからだね。1日が長い星だと短期間で払うのは銀河標準だと思う。星によっては5日で出るって聞いた。
「なんでこんなに少ないんですか?」
「まあ支援だから」
「ありがとうございましたせいぜい苦しんでください」
というわけで苦い失敗をしたのでございます。支援配属って本当に儲かんねえ。依頼酒場でごねて今回のお給金15ゼニにしていただきましたけど。
インプラントの一つも買えねえ。
ジュエリー売り場でぼやーっと見てる私。インプラント結構見かけるんですよねえ。インプラント成長型アンドロイドって多分もう時代遅れで存在しないと思うんだけど、インプラントは膨大な数作られましたからね。綺麗な奴は結構残ってる。欲しいなあ。センサー向上の黄色や機能拡張の赤なんかのそれこそ膨大な数作られた色でも10ゼニとかしますからねえ。
そこで売ってる赤色買えるから買っちゃおうかなー。でも半分はチームのために寄付したいもんな。我慢我慢。
「ただいまー、支援配属だからって日当の五分の一しかもらえなかったよ」
「だっさ、ボクは手当付いて150ゼニもらったぞ」
「さすが最強のここあちゃん。私は仕事見つけ直しからだよ。しょんぼり」
「――ださださだな。そんなことしておかーさんに恥かかせたいのか?」
「なんだてめえやんのか」
「やんだよかす」
久しぶりの喧嘩。
フィーの見守るなか喧嘩が始まりました。
「おらおら見えねえだろこの速さ」
「雪を甘く見すぎだな。――そこだ」
雪で疾走力が落ちて、舞い上がる雪で場所がわかってしまったので、私の下段蹴りがもろにヒット。ごろごろと転がるここあちゃん。
「捕まえれば私のポジションだ!」
突っ込む私。
そこに一条のエネルギービームがほとばしった。
そのビームは私の左腕を打ち抜き、ちぎり飛ばした。
「あっほ!! 取っ組み合いの喧嘩でマジになる奴がいるか! 腕吹き飛んだぞ探してこい! ルカさーん! ヒーリングの準備お願いしまーす!」
「す、すまん、本当に危なかったからつい反応してしまった。すぐ探してくる!」
幸いなことにルカさんのリジェネートが間に合い、腕は繋がり、自動手術機でしっかりと接合し、おかーさんによってバランス調整されて難なく復帰。
お尻ペンペンしたあと、おかーさんに撃てないモードと撃てるモードを使い分けられるようにして貰いましたとさ。めでたしめでたし。
「お尻ペンペン痛かった」
「はいはい泣かないの。元はといえば撃てちゃったのが悪いんだから。ギューしてあげるからこっちおいで」
「うん……」
ギュー。幸せそうなここあちゃん。
百合ではないです。ないったらない。さて?
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