第11話 わ゛がっっだ、よ゛ろ゛じぐだの゛む゛

 朝行って夕方頃に土佐遺跡から帰還したよーつかれたねー。

 そしたら街が慌ただしい、何だろうと思って、

 なにも聞かずに宿に戻りましたー危険からは逃げるに限る。


「はあ、わかりました」

「どこと通信してたんですか?」

「依頼酒場。みんな、仕事だよーゴブリン城制圧戦の大将を任された」


「はあ、なにそれふざけんなー」

「……そっか」

「ゴブリンジャイアントデスキングロードと相まみえるわけですか。勝てますかねえ」


 三者三様の反応を見せる。まあ、やりたくはないよねえ。危険だし。


「なんと、事前報酬が100ゼニ、成功報酬が300ゼニもある」


「やりましょう、すぐにでも討伐へ向かいましょう」

「インプラント買えるかな、グヘヘ」

「……会った場所に帰る資金になるな」


 やる気になる私たち。現金だなー。


「で、まあ。いきなり何でも私たちだけじゃないですよね? 今回の兵士数はどれくらいなんですか?」


 ミカさんはにっこり笑って、

「総数800だ。うち傭兵が400の予定だそうだ。5日募集をかけるとのこと。いくらで募集するのは知らないけど」

 

「5日かあ。それでも周辺に情報が拡散しますし傭兵もくるでしょね」

「ミカさん、正規兵が少ないのはなんででしょうか」

「多分だが、本攻めの為に援軍含めて取って置いてるのよ。これは大きな露払いってところかな。さあ、5日ほどここに拘束になるよ。遊んだり準備したりしてこーい。もとい、してきなさーい」


 フィーの外にぞろぞろと出てくる私達。


「ミカさん少し口調を変えてきてるかな」

「さすがにマッチングアプリ57戦全敗では自分を変えようとしますでしょう」

「あのボディにあの声、あの顔なのにねえ」

「……あたしは、あたしは」


 なんかここあちゃんが思い詰めてるぞー私の出番だ。


「どしたのここあちゃん」

「なんでもないよ」

「んー、もう一度ゴブリンと戦うの怖い?」

「……なんでもないよ」

「いえいえ、先ほどより汗をかいているとセンサーに反応がございました」


 腫れぼったくて目の下にクマができている顔でこちらを見てきて、また顔を下げる。


「もうそんなセンサーあったらあたし要らないよね」

「いるよバックを守るのはセンサーじゃない人だよ」

「でもあたしは……もう戦えな――」


 ドグシャァ!と殴る音がする。ドサァと倒れる音がする。


「なん!? ……いたいよ、あずき」

「立てよ。お前がまだ立てることを私が実証してやる。ここあは怖がっているだけだ。片腕は戻ってくんだよ!」

「無理だよ……」


 倒れたまま動こうとしないここあ。仰向けにしてスタンピングする。おらおらおら!


「おらぁ! かかってこんかい!」

「ウ、グェ、ガホッ」


 一度離れて様子を見る。


「本当に戦えないのかよ。それでニーアテクニカル重工製? とんだ外れ玉だな。失敗作もいいとこだ」

「……するな」

「ああん?」

「――かに――するな!」


「ニーアテクニカル重工を馬鹿にするなぁ!」


 全てのブースターをフル推力で出し猛スピードで突進してくるここあ。よしよし良い感じだ。ニーアテクニカル重工だけじゃなく自分も馬鹿にするなって感じだね。

 全精力をかけた突進はひらりと躱される。


「そんな直線的な攻撃じゃ話にならないよ。どこの教え? バカバカ教官ばかばか太郎?」

「うるさい!」

「指レーザーガトリングは当てやすいけど目くらましの出力しか今のところ出ないってわかってるはずだよね。私無抵抗ですけど? 目に入れば怯むだろうけどそこまでバカじゃないですよー」


「うわぁぁぁぁぁ!」


「左手だけで格闘かい?私も左手だけで対抗してあげるけど、右手が無いんじゃ――はい!」


 ぐるりと一回転して地上に叩き付けられ、私に覆い被されて首を腕で絞められるここあ。


「きゃしいのう、きゃしいのう」

「うる……さい! あたしを馬鹿にするな! 私だって出来るものが、出来るものが……」

 一つ間を置いて。

「……ない。今見ただろう、何やっても対抗できないんだ」


 あるんだよ、対抗じゃなくて支援する手段が。


「……支援、だと? 誰がお前なんかに!」

「いいじゃんいいじゃあん! もともとバックスは何をする職業だい?」

「フォ、フォワードの動きを、よくする、こと」

「それはつまり?」

「だって今見ただろう! 支援なんて出来ないよ!」

「バックスの動きはそれだけじゃないでしょう!! 私を上手くコントロールするのも仕事の一つ!! それは今でもできるよ」

「う、う、後ろに来た敵はどうするんだよ。なにも手段がないじゃないか」


 バックパックからおかーさんが直したタクティカル変形銃を取り出す。


「これを使えばなんとかなるよ。おかーさんが扱いやすいように改良してある。威力はRものより強いプラズマPものだって使えるんだ、ピストルだけどつまり片手でも撃てるってこと」

「それに、それに」

「お前が吐く弱気の言葉なんて全てぶち壊してやんよ。な、前向いて今できることを練習しよう? 片腕が戻ってくるまでの我慢だから」


 しばらく下を見ていたここあ。凄い泣き声で、

「わ゛がっっだ、よ゛ろ゛じぐだの゛む゛」

 と言うのでした。

 新アンドロイドバディ、結成!



 郊外、簡単に作った訓練場。


「バックス、突入準備ヨロシ」

「牽制射撃撃つから待って。よし、秒数合わせるよ」


 3

 2

 1


「「GO!!」」


 フィーの上で上半身だけ出ているミカさんとルカさん。


「はー、機嫌取り戻したら3日でこれかい。やっぱ凄いな、いや、凄いわね、ウチのアタッカーバディさんは」

「ミカさんも口調を直すの3日で出来るといいんですけどねえ。相性いいところに、ここあさんは自己進化で片腕でもなんとかなるバランス感覚を手に入れましたからね。不自由はほとんどないんじゃないですか?」

「それを取る手助けしたのはあずきちゃんだしね。あーあーいないかなウチにもそんな相性のいい旦那様」


 この話をここあの耳がきいていまして。


「――だってさ。凄いらしいぞ」

「凄いのはここまで着いてきたここあちゃんだよ。きっつい練習に耐え抜いたんだから」

「おう。あたしを舐めんなよ」

「舐めない代わりにほっぺにチューしてあげる。ブチュー」


 ブチューとキスをしてあげた。嬉しかろう?


「ひ!? ひゃっひゃっひゃっ……ばかぁー!!」


 追いかけっこする羽目になった。しっぱいしっぱい。


「よっしゃ、あと二日練習をして、間に合わせますか!」

「うん、よろしくね!」


 にっこり笑うここあちゃん。

 ……デレたここあちゃんも悪くないな。

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