第8話 推力にもなるサクラ・フレアさん

 ゴブリン城出征に集まったのは本体が450人、傭兵が200人程度の650名くらい。

 この人数なら上位の存在でも余裕でしょう。

 傭兵に前方を任せながら進軍していきます。討伐するだけで全人類の左腕に内包されているPDA――編集注:Personal Digital Assistant。個人用デジタルアシスタント。携帯情報端末、とてつもねぇスマートフォンなどの意――に討伐数がカウントされていき、討伐後それに応じたゼニが支払われるので傭兵が前方なのも意味があるってルカさんが言ってた。ウチらも前に出て小銭コゼニ稼ぎとまいりましょう。


「じゃあここあ、軽く掃除してきてくれ。あずきはここあのカバーに入って」

「了解。あずきはいらないということを知らしめてくる」

「ムキー。華麗に舞う女子高生が見たくないのかね」

「でも実際はババアだもん」


「やんのかコラぁぁぁぁぁ!」という叫びも虚しくすごいスピードで駆け抜けていった。

 ま、あの速度で飛べるんだ、ゴブリンごときに遅れをとることはあるまい。持ち前の超反応に今はブラズマライフルもある。そのプラズマは無限エネルギーから転換してるみたいだから残弾は無限、ライフルの消耗は激しそうだけど。

 負ける要素が見当たらないね。


 露払いをしたら進み、また露払いをしたら進む。

 そうやってのんびり圧していったんだけど、急に突撃の指令が出された。


「何だっていきなり?」

「米がないんだってさ。兵糧不足。もっと簡単に圧せると思ったんだろう。圧すスピードが想定より遅いみたいだね」

「じゃあフィーに乗って突撃しましょうか。あずきさんの出番が来ましたね」


 パンパンと顔を叩いて気合いを入れると、片足を地面にトントンと叩く。

「っしゃ、いきますか」の声と共に全力ダッシュをし始める。

 フィーもいつもは優しい優しいゴールデンレトリバーみたいな顔なのにオオカミの怖い顔になって私について行く。

 風よけのWAZAがあるのでフィーとその周辺は風の影響を受けない。ミカさん達も堂々と顔を出せる。


「目の前ゴブリンデーモン! いきます!」


「ルカ、M101ガラルドライフル装備! ゴブリンデーモンなら実弾撃ちまくっても黒字だ! 実弾で攻めるよ!」

「了解!」


 ちなみに。

 M101ガラルドは5ミリライフル弾という小さな銃弾を扱うセミオートライフル銃だけど、腐ってもライフル銃、威力は拳銃なんてレベルじゃない。

発射部分へ入れるマガジンが2列ありマガジンを使い切るとピンッとマガジンが飛んで即座にセットすることが出来るのでリロードは慣れるととても早い。ミカみたく超高速リロードができる人ならフルオート銃より早く装填発射できる。

 ってミカが言ってた。ほげー。


 目の前に3匹現れたぬいぐるみのようなデーモンに乗っているゴブリン達。私は中央の1体に狙いを定め突撃する。いくぜい!


「挨拶代わりの右ボディ!」


 上に乗っているゴブリンには目もくれず、ぬいぐるみみたいな丸いデーモンに攻撃を加える。


「ぎゃあー」


 ぬいぐるみっぽい声を出すデーモン。しかしこれにだまされてはいけない。こいつはデーモンなのだ。


「ぎょぎょぎょー」


 といって腐液を吐き出してくる。食らったら溶ける。バックステップで避けてレーザーピストルを撃ち込んでいく。ピストルだけどまあそこそこの威力をたたき出している。


「ぬおあー」


 と言ってジャンプしてスタンピングに出る。前にステップインして避けて、後ろを取って左側にある心臓に左手を突き出して暗器で処分。尻尾も弱点らしいがこっちの方が早かった。


「うぬらごときにぃ!!」


 とデーモンらしい言葉を吐きながら腐液を垂れ流して死んでいくデーモン。これ、ゴブリンは死んでいるのである。スラ……ナイトごとく、下に乗っている生物に上の物体は魂を吸われている。

 ただゴブリンはバカだし上層部は戦力になるということで、ゴブリン軍団にいるのを許可している、というわけだ。実際私たちは数分足止めされた。左右のデーモンはM101ガラルドの連射によって難なく撃破。やっぱライフル銃は強い。


「ここあから無線通信! 被弾して腕をもぎ取られたって! ルカ、あずき、フィーに乗って! 回収にいくよ!」


 こ、こ、ここあが被弾した――。


 動揺する私をよそにミカとルカはジッパーの中に入り、フィーは疾走の構えだ。私も鐙を踏み、フィーを動かす。


「ルカ!」

「任せて下さい。術式人物場所特定、ここあ! アンドロイドなので反応が薄いですが、こっちです! 走って!」

「い、い、いきます」


 ここあのやられた方へ急ぐ。めっちゃ相手の本陣に向かってる。何やってんだここあ。露払いだろ。


「ここあー!!」


 ここあは敵の大将(だと思う)のゴブリンジャイアントデスキングロードに捕まって、今にも食べられそうな格好だった。この大将、身長が10mくらいある。

 フィーが瞬間的に大きくなって体当たりをする。もの凄い衝撃だ。パワーアップのWAZAを使い鐙をしっかりと踏み、紐を精一杯引っ張って堪える。


 ここあをあーんとエビフライ食いをして食べようとしていたゴブリンジャイアントデスキングロードは思わぬ体当たりで完全に体勢を崩しここあを放り出して倒れた。

 舞い降ちるここあ。


 よく狙え、私はアンドロイドだ。飛び出して着地をするなど造作もない。少々の着地の衝撃はハイテクシューズが吸収してくれる。よく狙え。


 ふら、ふら、と2、3回くるくるとここあが舞ったところで飛び出した。ここあー!!


 ただ、


 その手をするりと抜けるかのように


 ここあには届かなかった。


「まだ推力はある。重荷電SAKURA粒子加速砲サクラ・フレア!」


 神様は、少しだけ、微笑んでくれた。――この星の宗教は作者教ですが――


 サクラ・フレアの反動推力でなんとかここあにぶつかったのである。抱きかかえ、自分を下に落ちる。どすーん。


「っぷー、パワーアップの効果時間が間に合って良かった。いてー、筋肉で全部の衝撃を受け止めた感じか。ここあ大丈夫か?」

「あたしはもうだめだ。見捨てていってくれ。今までありがとう、楽しかった」

「んなぁに言ってんの! 一緒に帰るよ! ライフルは腰に付いてるよね、また作り直そう。腕は……なんとかなる! ふぃいいいいぃぃぃぃ!!」


 叫んだらわたしの目に前に傷ついたフィーがぶっ倒れてきた。瞬時に煙幕グレネードを放つ。ゴブリンジャイアントデスキングロードには閃光グレネードをぶん投げた


「フィー!? ここあをテレポートして! 逃げるよ! ゴブリンジャイアントデスキングロードは私達だけで相手に出来るゴブリンじゃない!」

「そうだよな、そういう判断が出来るあずきが最強だよ。あたしのなにがさいきょ――」

「よし、テレポートしたね! フィー一番速度の出る巨大オオカミに! 一気に逃げ去って! ここら辺のゴブリンは大きい分動きが遅い!」


 そして私はジッパーから顔を出す感じにテレポートされ。巨大オオカミにでけえ大人の顔――ゆうて16センチくらいしかありませんけどー。――が出現しているという凄い形態になりながらも、何度もサクラ・フレアで敵陣を後ろからボコボコにして穴を開けながらダッシュしたのだー。死ぬかと思った。

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