第5話 人助け

 鐙から足を離し、フィーの頭を借りて前方にジャンプ。倒れている人にアプローチ。すぐ隣に着地する。


「背中から切られているな、女性。意識はないけどまだ息がある。ルカさん!」

 横のジッパーからここあがルカさんを抱えて出てくる。130センチしかないので抱きかかえるのは無理だが、担ぎ上げて移動することは出来る。ここあはもの凄く早いしメスなどの医療物に手を変形させられる。変形物はコード付きで、他の人が扱えるようになってるし回収忘れがない。消毒液も出せる。回復薬の調合も出来る。無敵最強だよ本当。


「きました、よく見せてください。……切り口を結合します、結合用テープの用意を」

「了解、消毒は?」

「消毒ライトで。水分を切り口に入れてはいけませんからね」


 阿吽の呼吸で淡々と行われていく作業。

 見てるだけなので、バックパックからお肉を取り出しフィーにご褒美としてあげる。むっしゃむっしゃ食べてご機嫌なフィー。しっぽふりふりである。


「どんな感じですか?」

「もう終わります、輸血をしたいのでフィー、お願いできますか?」

「ばうばう!」


 フィーが女性の前に立つ。私のバックパックにある輸血パックを取り、フィーの足の付け根付近に刺していく。高い位置なので落差があるのと、ふぃーが自ら表面に押し出せる大きな動脈があるからだ。フィーの輸血は動脈から直で流す。


「フィーは血液型がないからね。動物ならどんな獣人でも獣でも輸血できる」

「ばうー」

 がむっと私を頭から丸かじりするフィー。

「私がなにもしていないからって私を食べないで。囓らないで、犬骨じゃないのよ」

「ばーう」


 一杯まで貯まったら女性側パックの横から針とカテーテルを取り出して女性に輸血していく。

 パックの中は綺麗にフィルター出来るように作られていて、それをここあの消毒ライトで消毒しながら順次輸血するって言う寸法よ。


「こちらミカ、ひとかげなーし。あずきものんびりしてるんなら哨戒活動しなさいよ。切られてる人が生きているってことは近くに犯人がいるのよ」

「あ、そっか。ごめんなさい、すぐやります」


 フィーに登り、ミカさんが見ていない方向に目をやる。ミカさんが使っている双眼鏡は一つしかないから、ただの目視だけど。それでも2倍拡大機能ありセンサーモニター付きロックオン機能あり、と、能力向上を最初の遺跡でインプラントの挿入を通して獲得しているからただの目ではない。


「こっちもいないですねー。黒体放射赤外線センサーだと……こっちでも見えないですね」

「赤外線は昼じゃ無理だと思うんだけど……」

「ほら、吸う化け物もいるじゃ無いですか。それがいたら真っ黒く映ります。今回の斬撃事件とは無関係でしょうけども」


 そっかあ。などとあしらわれつつも監視を継続。


「人だったら下手ですよねえ、逃げられてるだろうから、背中からの傷でしょう? 前だったら抜刀から斬りまでが遅い」

「痴情のもつれで斬るのが遅かったって線は?」と、痴情から一番遠く確率もないミカが聞く。

「ここどこですかねえ? 村あるんですか? ないなら近くにまだいますよね」

「村からは遠いし周辺にいないんだよなあ……」


 などとのんきに偵察していると、輸血が終了したみたいで。ルカ医院長が最後に回復魔法放って完成させておりました。


「……おつかれ。サーベルキャットだと思う」

「ここあちゃん、本当? あのレア動物サーベルキャットがこの辺にいるの?」

「ここあちゃんと呼ぶなげすが。やんのか」


 ふふふ、もうそんなことはしないのだ。


「やりません。傷跡とかが人の剣とかじゃなかったってこと? ここあちゃん」

「だからやんのかこら。傷が動物系の傷だった。斬るならカマキリ系の昆虫かサーベル系の動物。今二人で監視して居ない、つまり潜伏してるなら猫系のサーベルキャットの可能性が高い」

「ほーさすが最新最強のアンドロイドだねここあちゃん」


 腹部を殴られるが動じない。私は10000年以上拷問され続けてきたのだ、これくらいじゃへこたれない。

 なんとしてもここあちゃん呼びになれてもらって、ここあちゃんって言いたいのだ!!!!


「やり合ってる中悪いが、村か宿場町へ女性を運びたいんだけども。フィーの中に他人は入れられないから上に運転席をだすよ。あずきが座って抱えてね。私も座ろう。あと……ここあちゃんは良いと思うんだけどなあ」


 なんども空中チョップを繰り返すここあちゃん。ただ、ミカ170センチ以上あるから、140センチじゃ届かないものがこの世にはある。ああ無情。


 さて。フィーの上のジッパーから飛び出る物体ってのはいくつかあって。探照灯とかもだせるんだけど、そんな中の一つが運転席。4人乗りの運転席を出現させたよ。


「こっちは準備良し。ミカはー? 酔い止め飲んだ?」

「準備オッケー。酔い止めも飲んだよ」


 ジッパーで緩和されるとはいえ、根元は動物の背中だからね。左右にちょいっと揺れるんだー。揺れる対策はしてあるんだけど、ゼロってワケじゃない。上下運動はないんだけどね。フィーの歩き方と足の裏のお肉、ジッパーが上下運動を凄く緩和するから。


 ゆらゆら揺れながら歩くこと半日。女性の目が覚めた。


「ここ、は?」

「ミカさん、女性が起きた。ここは安全なところだよ、命の心配はないから安心して。傷の手当てもしたよ」

「ありがとうございます。急に背中から斬り付けられて、音もなくて、動けなくなって」

「中原ミカと申します。なにか聞いたり目に付いたりしたことはありませんか?」

「ええとなんか、『あずちゃん』ってきこえたきが」

「ルカ、ステータスチェック! あずきはフィーに入って、ここあ交代!」


 この人が変異体で変装していたか、手かどこかが剣状の変異体が暴れた可能性がある。

 普通私だけを見てて、暴れた所を見たことないのになんでだ……?


「ばうばう、ばう」

「ふんふん、彼女は変異体ではなかったと」

「ばうーばうばう」

「現状じゃ匂いで追跡は困難、と」

「ばう!」

「わかった、ありがとう、フィー」


 フィーから情報を得て状況を理解する。なんでフィーと意志が通じ合えるかって、そりゃあそれが普通だからだよ。そうじゃない方が不思議。私だけらしいんだけど、3人ともフィーがなに言ってるかわかってるよねえ?


 ミカさんから外には出ないようにと言われているので戦闘態勢になっておきながらラウンジでのんびりと過ごす。むやみやたらに出て護符破られたときの方がやっかいだからね。予備はあるけど……。

 冷蔵庫から炭酸水を取り出し飲む。キリリと冷えていて美味しい。

 今のうちにグレネードを準備しておこう。バックパックとグレネードポーチを紐で接続するだけなんだけど、接続すると常時グレネードがバックパックから補充されるので戦闘態勢じゃないと基本はしない。むやみやたらとグレネードは持ち歩かないようにしてる。ま、バックパックにグレネードポーチ、どちらにも安全機構はあるんで安心設計。


 事態は急にやってくる。なんと手が剣状の変異体が襲ってきたというのだ!

 危ない!

 フィーの前足パンチで捕獲されたみたいなんですけどね。さすが巨大犬、馬力が違うぜ。


 私が出ていって反応を見てみるべきでしょう。ルカさんの結界術が役に立つね。結界で私を見えなくするのと、押さえ込むのと。



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