親不孝の痛み
最早無白
親不孝の痛み
本屋からの帰り道、そのまま家まで帰るには脚が重くて、今はベンチで一休みしている。
「参考書とかガラじゃねぇけど、気合い入れてやるしかねぇんだよな……」
一個上の先輩が卒業して『三年ゼロ学期』とか謳いやがる自称進学校は、受験対策に躍起になっちまってんだ。ソイツの影響で数年ぶりに本屋まで行ってよ……しかも、結構いい値段すんじゃねぇか。フツーに服買った方がいいだろ。
なんか、風が異様に指にしみんな……見てみりゃ、結構大きめのささくれができてちまっていた。両方の中指と薬指の皮膚がめくれあがってて、患部は生身特有の赤みを帯びてやがる。
「ささくれ……あれ、さかむけだっけか? どっちだ?」
幸い無事な人差し指でスマホを繰る。どうやらどっちも正解らしい。誤タップで画像検索の欄を開かないよう立ち回り、ひとしきり調べ上げたら電源をオフにする。
「親不孝、ってことか……」
思えばよ、今の今触っていたスマホも親に通信費を払ってもらってんだよな。連絡と調べ物、あとは音源やビートを聴く以外には使わねぇから、そこまで負担にはなってねぇはずだ。
参考書使っていい大学入って、とりあえずまとまった金を返さねぇとだな……。
「――でもよ、それってリアルなのか?」
俺は俺のリアルな信条を、心情を……音楽で表現してぇんだよ。せっかくサッカーの強豪校に推薦で入学できたってのに、脚の怪我で全部台無し。しかも無駄に偏差値が高ぇせいで、完全に取り残されちまった。
そんな鬱屈とした時に出会えたのが、日本語ラップ。常に自分のスタイルを曲げることなく、リアルな言葉を吐く。『こうなりてぇ』って憧れが高じて、俺も数曲をまとめたEPを出したりしてるわけだ。
正直、このまま音楽一本でいけるとは思ってねぇ。夢や目標だけを追って暮らしてけるなら、世界中の問題は二秒で片づく。そもそも俺がどっぷりハマってるこの文化は、数々の問題を乗り越えて形成されたものだしな……。
――何もかもが上手くいくわけじゃねぇ。だったら俺は今できること、やれることをやってあがくしかねぇ。道の途中で受ける痛みも、リアルな音楽へと昇華させていこう。
俺は意思を固めるように、指にできたささくれをつまんで、一気に剥がす。こういうのは
「勉強した分、深ぇリリックも書けるようになるかなぁ……っしゃ!」
いってぇ……だけどこの痛みより、何倍も苦しい思いをしていくんだ。だったら、こんな所で一休みなんてしていられねぇ。『aaue』の言葉を探しながら、参考書の重みを感じつつ家へと帰る。この指の痛みも、いつかビートに乗せられるように。
親不孝の痛み 最早無白 @MohayaMushiro
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