ファンタジー 転移して奴隷にされたけど、見えない塊を拾ったので逃げる事が出来ました

放課後、高校の教室には5人の生徒が残っていた。一人は俺、あとは不良男1,2,3と不良女だ。そして、不良2と3が俺の腕を捕まえて押さえている。


「がはっ、もう……やめて……ください」


俺の腹を不良1が殴る。俺は倒れる事も出来ず、やめてくれと懇願するしかない。


「やめてほしかったら、明日こそちゃんと金を持って来いよ」


「今月はもう、小遣いを全部渡したのでこれ以上は無理です……」


「だったら親の財布から盗れよ」


「それも、無理です……親が現金を持ち歩かなくなって……」


「うるせえ! 方法は何でもいいから、明日は持って来いよ!」


「がふっ」


不良1が俺の腹を蹴った。それを、周りの奴らはニヤニヤとした顔で見ている。俺は腹を押さえる事も出来ずに、下を向くだけだ。え? 足元に何か魔法陣みたいなものが光ってるんだけど。


「あ? 何だ? 何をしやがった!」


不良1は、俺が何かしたと思って俺に怒鳴る。けど、この状態で俺が何か出来るわけ無いだろ。そして、あっという間に魔法陣は教室いっぱいに広がり、目の前が真っ白になった。


目が慣れると、見知らぬ場所に居た。不良達も、場所が変わったことに気が付いて俺の手を放す。目の前には、商人の様な格好をした男と、皮鎧を着た顔の怖い男、盗賊みたいな男の3人が居た。


「――――」


「何だ? 何を言っている?」


商人の様な格好をした男が、何か言っているが言葉が分からない。あっちは、それが分かっているのか、俺達にチョーカーを渡してきた。そして、ジェスチャーで見た感じ、これを首につけるようにって言ってるようだ。


「言葉が分かりますか?」


「あ、ああ。何だこれは」


不良1が俺達の代表として商人に聞く。


「それは、奴隷の首輪ですよ。自分の意思でつけた者を、強制的に奴隷として支配下に置けるんですよ。その代わり、主人の言葉を理解する事ができるのですよ」


「何だと! そんなもの、外してやる!」


不良たちはチョーカーを外そうとするが、外れない。どういう原理なのか、触れる事が出来なかった。


「ほっほっほ、それは解呪しない限り外せませんよ。それにしても、今回は5人も召喚できるなんてついていますね。それも、綺麗な服付きで。おい、お前達、こいつらの服を脱がせろ」


「きゃあぁぁ! やめて!」


「おい、やめろ!」


「動くな」


不良女の腕を盗賊が掴む。すると、不良1がその男を止めようとした、けれども、逆に商人の命令で俺達の方が動けなくなった。


「いやあぁぁ!」


不良女は盗賊に服をすべて取られて裸にされる。それをみて、ざまあみろとした思えなかった。だけど、俺を含めて男たちの服もすべて取られた。代わりに、布の服みたいなものを頭からかぶせられて腰を紐で結ばれた。


「お前たちはこれから貴族のペットとして売るのだから、大人しくしなさい」


「ふざけるな!」


命令は長時間持続しないのか、いつの間にか動けるようになっていたようで、不良1は商人に殴り掛かる。


「こいつは要りませんね。見せしめに処分してください」


「おう」


皮鎧が、腰に吊ってある剣を抜くと、不良1をあっさりと切り捨てた。


「ひっ!」


不良2と3はそれをみて息を飲み、不良女は血を見て気絶した。商人は、何事もなかったかのようにチョーカーを回収する。


「これを見ても逆らうようなら……」


「さ、逆らいません!」


3人とも、商人に逆らおうという意識が無くなった。こんなにあっさりと死ぬなんて……。


「女は担いで馬車へ入れろ。男どもは自分の足でついてきてください」


俺達3人は、大人しく自分から馬車へ乗る。


それから、地獄のような生活が3日続いた。食事はコップ一杯の水と硬いパンが1つ。それが朝と夕方の2回だけ配給された。不良2が、文句を言おうとしたが、皮鎧がすぐに剣の柄に手をかけるので、すぐにやめた。それから、何を言っても無駄だと思い、腹が減らないように極力静かに、大人しく馬車へ乗っていた。


それに変化が起きたのは4日目の夕方だった。なんと、馬車が魔物に襲われたのだ。この世界には魔物が居るらしいな。見た感じ、ゴブリンだと思うが、正式な名前は分からない。


「くそっ、数が多すぎる! 奴隷を囮にして逃げるぞ! 女と男一人以外は置いていけ!」


4人の中で、不良女と顔が一番かっこよかった不良3が残され、俺と不良2が馬車の外へと追い出された。


「お前達、時間を稼げ」


ボロい剣が1本だけ投げ渡され、馬車は走り出す。俺と不良2は、命令に逆らう事が出来ない。剣を拾ってゴブリンを倒すしか無いようだ。だが、1本しかない剣は、不良2がさっさと拾ってしまったので俺は丸腰だ。


「くそおぉぉ!」


不良2は、バットの様に剣をフルスイングしてゴブリンに攻撃する。そして、ゴブリンの1匹を見事に倒した。


「やった……ぜ?」


だけど、そのあとすぐに頭部に矢が刺さっていた。弓を使うゴブリンも居るらしい……って、冷静に見ている場合じゃない! だけど、命令のせいで逃げる事が出来ない。


「いや、命令は時間を稼げであって、ゴブリンを倒せじゃない」


(俺は逃げていない、時間を稼ぐために走って囮になっているんだ)


そう自分に言い聞かせながら走ると、離れる事が出来た。けれど、ゴブリンがそれを簡単に見逃すはずがなかった。数匹のゴブリンは、戦利品の不良2を引きずって巣に持ち帰るようで、ゴブリンの数自体は減ったけど、何本か矢が飛んできている。運よく、今のところ当たってはいないけど、いつ不良2の様になるか……。


「いてっ!」


一生懸命に走っていたら、俺は何も無いところでつまづいた。つまづいたものを反射的に見るが、何も無い。俺は何故か、何につまづいたのか気になって、時間もないのにつまづいた場所を手で探る。


「何かある」


俺の手に、何か触れるものがあった。3キロくらいありそうな、四角い金属の塊のような物で、何故か目に見えない。その代わり、視線の先には弓を引くゴブリンの姿があった。


「ひぃっ!」


俺はとっさにその塊を差し出し、矢を防げるよう強く念じた。すると、ゴブリンの放った矢は、俺の目の前で何かにぶつかって地面に落ちる。


「な、何が起きたんだ?」


目の前を手で調べると、壁のような物があった。まさか、この見えない塊が変形したのか? 試しに、元の四角い塊に戻れと念じると、再び手の中に四角い感触が戻った。


「それなら……」


俺は再び走り出す。当然、ゴブリンたちが追いかけてくる。だが、今度は逃げるために走ったんじゃないぞ。


「戻れ」


「グビャア!」


俺は、塊をピアノ線の様に細く伸ばし、木の間にセットしていた。そして、ゴブリン達が通るタイミングで塊に戻した。すると、通り道に居たゴブリンがピアノ線で寸断されたっていうわけだ。グロい。


それを見た弓ゴブリンは、引き返していった。仲間を呼びに行ったのかもしれない。もう、戦う気力何てないぞ。けれど、俺は時間を稼げと言う命令を達成したからか、もう自由に動く事が出来るようになっていた。


俺は念のためにゴブリンが持っていたボロい剣を拾い、馬車が向かったのと違う方角へ向かう事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る