ファンタジー 遥かなる未来
科学文明は一度、栄華を誇り、そして科学文明の暴走によって滅んだ
地表は砂漠化し、時間が経つほどに都市は砂の下へと埋まっていった
そして、半分以上砂漠化していた地表の一部が、再び緑に覆われたころ、生き残っていた僅かな人類は再び発展し始めていた
文明のレベルとしては古墳時代程度ではあったが、まだ生きている過去のテクノロジーの産物が人類の発展を助けていた
何も無い場所でも水が湧くポンプの様なもの、光を当てるだけで怪我の治療や病気の治療ができる光線銃型の治療道具、街に獣を寄せ付けない広範囲結界など
それらを複製する事は出来なかったが、どの機械にも一様に自己修復機能があり、光にさえあててやれば自然とエネルギーが補充され、修復されていった
人類には、それらを使う事ができる知能があった
それらは、アーティファクトと呼ばれ、それを探すものをアーティファクターと呼んだ
アーティファクターは、砂漠の中に地下へと通じる道を見つけては、アーティファクトを探した
そして、いくつものアーティファクトを発見し、売り、生計を立てていた
そして、全く利用価値が無いと判断された部品は、捨てられていった。いつからか、それらは山となり、主人公の遊び場となっていた
「お、これはまだ使えるんじゃないかな」
少年は、物心がつく頃にはすでにガラクタ山で遊んでいた記憶があった。そして、年を重ねるごとに山が高くなり、少年はその中から使えそうなものを集めるようになった
それから10年、少年は青年と呼ぶにはまだ少し早い年になった
「もう、10年か……それでも、もうすぐ完成するのかな?」
少年の前には、部品が少し足りない少女のロボットがあった。多少の傷や部品の欠損であれば、自己修復機能で直るが、体の大半が失われていたこのロボットには、その機能があっても修復できなかった
見つけたのは10年前。はじめは、ガラクタ山の中に人が埋まっているのだと思った。ガラクタの中から少女の頭だけが出ていたからだ
「今、助けるぞ!」
少年は、そう思ってガラクタをどかそうと思ったが、下手にどかすと崩れかねない。かといって、5歳の少年には力が無かった
けれども、何か出来ないかと取り合えず頭をひっぱったら、すぽっと抜けたのだ。壊れた訳では無く、元々頭だけが捨てられていただけのようだ
少年は、その首だけの少女を正面から見る
「……かわいい」
一目ぼれだった。別に、死体趣味だとかではなく、アーティファクトであることは分かっていた。それから、少年はガラクタの山から少女に使えそうな部品を探すことが日課になった
面白いことに、少女の傷口……最初の頃なら首の切断面に小さな部品を近づけると、磁石の様にくっついて変形していった。ただ、大きすぎるものでは時間がかかりすぎるのか、見ている限りでは全く変化が無いようだった
部品にしても、何でもいいというものでは無かった。少年は知らないが、鉄に近いものでないと反応しなかった。そして、それは少女のロボットの機能によって改変され、修復に当てられていったのだ
少年は徐々に少女のロボットが修復されていくのが楽しみで仕方がなかった。けれども、修復の速度にも限界があるのか、本当に1日に指1本程度くらいしか修復されて行かなかった
「なんとか、見た目は完全に直ったんだけどな……」
完全に外見が直った少女のロボットは、継ぎ目も何も無く、見た目はほぼ人間だった。ただ、髪の毛の繊維が金属っぽかったり、ほくろや余分なシワが無い、人間にしては左右対称で完璧すぎるなどの理由があるだけで
「で、どうやって起動させるんだ?」
少年は、この少女以外の人間とほとんど関わった事がないので、少女の裸に照れる事も無くジロジロと全身を見ていく
頭の上からつま先までみていっても、ボタンの様なものが見当たらない。大抵のアーティファクトには、起動させるのには何かしらのスイッチが存在しているというのに
「まさか、外から見えない場所にでもあるのか?」
少年は、少女のロボットをうつ伏せにして、お尻の方へ回ったり、持ち上げたりして見る
「っとと、うわ」
少年は持ち上げた拍子にバランスを崩し、尻もちをつく。そして、少女のロボットはそのまま少年へと覆いかぶさる
その拍子に、偶然に少女のロボットの唇と、少年の唇が重なる
「……唾液からDNAの採取が完了いたしました。本登録が終わるまで、マスターとして仮登録します。起動シークエンス……」
「しゃ、しゃべった!」
少女のロボットの口は動いていないが、声が聞こえる。とても澄んだ声で、この少女の声としてはぴったりだ。少年にとっては何を言っているのか分からない呪文の様なものがふいに途切れる。しばらくして、少女のロボットは目を開けた。少年は、12、3歳くらいの少女にしてはやけに知的な目をしているなと感じた
「起動、完了しました。マスター、登録名をつけてください」
そこで初めて、少年は自分がマスターを呼ばれていると気が付いた
「マスターって、俺の事?」
「はい。それとも、別の方をマスターとして登録しますか?」
「いや、やっ、俺だ、俺がマスターだ」
少年は、マスターがどういう意味かは分からなかったが、言葉的の感じ方的に、この少女のロボットが誰かに取られるかと思い、慌てて返事をする
「かしこまりました。それでは改めて、私に登録名をつけてください。それをもって登録が完了します」
少年は、少し考える。正直、少女のロボットに名前をつけようとは思ってもいなかった。むしろ、自分から名乗ってくれるものだと勝手に思っていたのだ
少年は、出来る限り名前の発声が綺麗になるような名前をつけたいと思い、しばらく考える
「よし、君の名前は――だ」
「かしこまりました。私の登録名は――です。マスター、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。っと、裸のままじゃ寒いよね? すぐに服を持ってくるよ」
「ご心配には及びません。マスター、この周りにある部品を使用しもよろしいですか?」
「ああ、いいと思うぜ。ここにある物はすべて捨てられたものだからな」
「それでは、トランスフォーム」
少女のロボットがそう言うと、周りの部品が少女の体に張り付き、変形していく。修復にかかった時間が嘘のように、数秒で見た目が変わる
少女の全身には……兵器が装着されていた
少女は戦闘用ロボットだったのだ
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