ファンタジー 転生……転性!?
気が付いたら森の中に居た。最後に見た光景は、トラックに轢かれそうになっているところだったから、恐らくそのまま死んだのだろう。
ああ、猫なんて助けるんじゃなかった。猫の恩返しなんて見た後だったからか……?
「それにしても、ここはどこだろう? 見た事も無い鳥が木にとまっているんだけど……」
体長が1メートルほどある鳥だ。そして、その鳥は何故か僕を狙っている様に見える。
「まさか、肉食じゃないよね……?」
そう言った瞬間、その鳥は僕の方へと飛んできた。あんなのについばまれたら大怪我必死だ。だけど、鳥もこういう場所での狩りに特化しているのか、樹の間を器用に飛んでくる。まるで、戦闘機のアクロバット飛行の様。
「って、見とれてる場合じゃない、逃げないと!」
僕は距離を取ろうと走り出す。けれど、鳥は思ったよりも飛ぶのが遅いのか、それとも障害物がやはり邪魔なのかなかなか追いついて来ない。
「はぁ、はぁ、もう走れない……」
片手を地面につき、もう一方の手を息があがった胸を押さえて……。
「え? 胸が柔らかい?」
今更ながら、自分の胸を確認すると少し膨らんでいる。そして、これも今更だが着ているのは魔術師の様な服だった。それも、下にはいているのはまさか……。
「スカート? そんな、僕は女性になってしまったのか!? はっ!?」
そして、自分が鳥に追いかけられていたことを思い出して後ろを見る。すると、鳥はすでに木の枝に停まっていて、心なしかニヤリと笑ったような気がした。
「まさか、ワザと僕を疲れさせたと言う事なのか? 鳥の癖に、なんて賢い……って感心している場合じゃない、逃げないと!」
けれど、体力の限界まで走った僕はすぐには立ち上がれそうにない。女性の体になったからか、尚更体力が少ないのかもしれない。
それを見て、ころあいと判断したのか、鳥は木から飛び立ち、僕の方へと飛んでくる。
「く、くるなー!」
僕はとっさに手をつきだし、鳥に向ける。すると、何も無い空間から白い手が伸びると、鳥を掴む。鳥も、何も無いところから攻撃されるとは思ってもみなかったのか、翼を掴まれた為地面に落ちる。
「よくわかんないけど、とりあえずそのまま抑えつけて……って、え?」
自分がこんなに驚きやすいとは思ってもいなかった。いや、見た事も無い出来事ばかりなんだから仕方ないだろう。そして、それよりも今は地面から生えてきた手だ。さっきの手とは違って、こっちは白骨の手なんだけど。
その地面から生えた骨の手は、鳥の首を掴むとそのまま握りしめる。ほどなくして、鳥の首はゴキリと音を立てて折れた。そして、死んだことが確定したからか、白い手と骨の手は再び消えた。
「な、なんだったんだ?」
よく分からないまま、呆然としていたらさっきの鳥が起き上がり始めた。え、君、首折れてるよね?
「あわわわわっ」
僕は後ずさりながら鳥から離れようとする。けれども、鳥はひょこひょこと器用に地面を歩き、僕に追いついてきた。けれども、それだけだ。それ以上、攻撃するでもなく、僕に近づくだけ。僕が離れたらその分近づく。
「襲われない……?」
襲われないと分かって少し落ち着いた。まあ、この鳥がさらに賢くて僕を油断させる演技だったら終わりなんだけど、大丈夫みたい。
「はぁ、一体何なんだ? 僕の体は女性になってるし、変な鳥には襲われるし、よく分かんないものに助けられるし」
ふと横を見ると、小さな湖があった。走りすぎて喉が渇いたので、このさい湖の水でもいいから飲みたい。いや、さすがに洗剤で泡立っていたり、色がおかしかったら飲まないけれど。
「……すごく、綺麗だ……」
その水は、透明度が高くて綺麗な水のようだ。
「いやいや、違う! 僕の顔、すごく綺麗な女の子だ!」
体を見ただけでは年齢が分からなかったけれど、湖に写った顔は中学生か高校生くらいの少女に見える。服装は、黒い魔術師のよう。すると、頭にひらめくものがあった。
「ス、ステータス……?」
呟いてみて、一瞬、自分は何を馬鹿な事を言っているのかと思ったが、実際に現れた半透明のウィンドウを見て愕然とする。
「何、これ」
しげしげとウィンドウを見る。上から順番に見ていくと。
「名前の欄は、何故か空欄か。レベルは3、HPとMPはゲームみたいだな。あ、年齢も出るんだ。15歳か、やっぱり若いね。職業……ネクロマンサー?」
何故15歳の少女がそんな職業についているのか分からないが、これで多少は納得した。さっきの白い手や骨の手は、この少女のスキルか何かだったのだろう。実際、MPが少し減っているし。そして……。
「配下に鳥って書いてあるんだけど……まさか!?」
後ろを振り向くと、さっきの鳥が大人しく待っていた。こいつ、配下になったの? 僕に殺されたから? いや、殺したのは骨の手だけど、やっぱりあれは僕のスキルだったんだろうか。
「え……こんな、首の折れた鳥をずっと連れ歩かなくちゃならないのか? それに、翼も傷ついて飛べないみたいだし、いらないんだけど……」
そう思って、何か無いかなと必死に思い出そうとする。すると、一つの魔法が思い浮かんだ。
「ダーク・ヒール」
死体にヒールとはどういう事なのか分からないけれど、鳥を黒いもやが覆う。すると、ゴキリという音がして鳥の首が元に戻った。
「うわっ、怖い!」
その様子は、ホラー映画を見ているかのよう。でも、翼の傷も治ったのか、鳥ははばたいて宙に飛ぶ。
「さ、お行き。もう怪我は治ったよ」
僕は、さもやさしげに鳥を諭す。
「お前はもう自由だ、好きに生きると良い」
僕は鳥に手を振るが、鳥はまったく僕から離れようとはしない。ちらりと見たステータスウィンドには、まだはっきりと配下に鳥と書かれている。どうやら、仲間にしたらもう放逐できないようだ。
「はぁ……。でもまあ、一人旅よりはいいかな? こんな美少女じゃ、誰に襲われるか分からないし」
鳥が仲間になった事を前向きにとらえる。幸いにも、見た目はただの鳥に戻ったから、不快では無いし。
「ご主人様、そろそろよろしいですか?」
「うわっ!」
落ち着いたころに、再び驚かす何かの声。やはりこれはホラー映画なのだろうか。そして、声のしたところから白い手が。さっき鳥を捉まえてくれた手だ。え? これって僕のスキルじゃ無かったの?
「わたくしとの約束、まさか忘れたわけじゃありませんわよね?」
「えっと、ぼ……私、いきなり記憶喪失になったみたいで……」
僕はとっさに私に言い変える。恐らくだけど、この体の持ち主は自分の事を僕とは呼んでないだろうから。
「そんな冗談、わたくしが信じるとでも?」
「いや、本当だって!」
「はぁ……つまり、憑依の実験は失敗したって事かしら?」
「憑依の実験?」
「本当に、記憶が失われたのかしら。だとしたら、なんてめんどくさいことに……だから、やめた方が良いと進言しましたのに」
「いや、それは知らないんだけど」
「わかりましたわ。わたくしが丁寧に説明申し上げますわ」
僕は、よく分からないまま説教交じりの説明を受ける事になったのだった。
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