ローファンタジー 未来の娯楽

少女は、刀を携えた剣士だった。彼女が見ている先には、円形の舞台がある。


「ここも支配されているのね……」


彼女が舞台へ足を踏み入れると、空中にホログラムでピエロの様なキャラクターが映し出される。


「ようこそ、和歌山市のゲームへ。まずは、君のステータスを確認させてもらうよ」


ピエロがそう言うと、少女の側に小さな球が現れる。少女は、慣れたようにその球へ触れる。


「ほぅ、驚いた。君は若いのにもうレベルが5もあるんだね」


「どうせもいいわ。早くゲームを開始して」


「まってまって、慌てる必要は無いだろう? 君も分かっている通り、これはエンターテイメントなんだ。観客を楽しませなくちゃ」


「ちっ、こっちの気も知らないで」


「ははっ、それは僕たちには関係ないからね。おっと、君の態度を見て要望が入ったよ。何々、彼女が泣き叫んで助けを乞うような内容がいいって? 難しいなぁ、ははっ」


「何が可笑しいのよ!」


「おっと、別に悪気はないさ。ただ、どう楽しませればいいのかなって考えただけだよ。君のレベルにあった内容じゃあ、即死しかないから難しいなぁって」


少女は、ギリッと奥歯を噛みしめるが、それ以上何も言わなかった。何か言い返しても、ゲームの難易度が上がるだけでいいことは無さそうだと思ったからだ。しかし、性格的に我慢できない質なので後悔しかない。


「それじゃあ、久しぶりに視聴者参加型にしようかな? 参加したい人ー」


ピエロがどこかに話しかけると、ピエロの周りに複数のウィンドウが開き、そこにはプロフィールのようなものが描かれていた。いや、文字なのだろうが読めないので記号にしか見えない。


「ははっ、君は人気があるね。でも、どの参加者も彼女では力不足かなぁ。あっ、いい感じの人みっけ」


ピエロは、ウィンドウの一つにタッチする。その画面が大きくなり、円形の舞台に現れた。


「彼は、最近買ったおもちゃで遊びたいみたい。投げ銭が多かったから、彼にしたよ」


舞台に現れたのは、2メートルくらいの人型のアンドロイドだった。今まで対峙した異形の化物や改造人間なんかよりはマシに見えるが、いままで楽に勝てた試合は無い。


「……もう、初めていいの?」


「あっ、起動に30秒くらいかかるからもうちょっと待って欲しいってさ」


「ちっ!」


少女は再び舌打ちするが、不意打ちを仕掛けたりはしない。過去に、不意打ちをしたことがあるが、即座に全身に電撃が流されて強制的にストップさせられた経験があった。


「それじゃあ、準備が出来たみたいだから、はじめ!」


ピエロがそう言うと同時に、アンドロイドの目が赤く光る。その光が線に見える速度でアンドロイドは少女のすぐ横へと着いた。


「なっ、早すぎ!」


少女は、すぐに刀を抜くとそれを盾にする。そして、すぐにそこに衝撃が走り、少女は舞台を転がる。


「おいおい、すぐに終わらせないでくれよ? 尺が余ったら困るんだから」


アンドロイドは、手を振って「わかったわかった」というようなジェスチャーをする。少女は、それをみて腹を立てるが、怒りは動きを単調にすると分かっているため、冷静に立ち上がる。


アンドロイドは、人差し指でクイッと「来い」というジェスチャーをする。少女は、前回の戦いの賞品として貰った加速ブーツを起動させる。それによって、先ほどのアンドロイドよりも早く動き、アンドロイドに斬りつける。


「なっ」


少女は足の関節を狙って斬りつけたが、弾かれる。アンドロイドは、少し驚いた様な感じだったが、それだけだった。


「おっとぉ、賞品持ちっていう事を伝え忘れていましたね。え? レベル5なら当然だって? ですよねー」


少女が複数の装備を持っているのは知られていることだった。ただ、何を持っているのかはずっと彼女を見てきたものでも居ない限りは知らないはずだ。そして、複数のフィールドに渡って同じ人が見ている確率はものすごく低い。大体、みんな同じフィールドを見るからだ。


アンドロイドは、指先を少女に向ける。


「何?」


少女は、何か言いたいのかと問いかけるが、返事は無い。その代わりに、指先が光るとビームが発射された。


少女は、間一髪のところで刀で防いだ。刀に当たったのはただの運だけど。


「おぉ、さすが最新型のアンドロイド。色々な武器が仕込んでありますねぇ。え? 高かった操作式だから当然だって? そうですか~」


「操作式って何?」


「あ、操作式を知らない? 意味は無いけど教えておくと、直接脳波で動かせるタイプのやつですよ。これだけ操作にラグが無いのなら、よほど高いやつなんでしょうねぇ、本当にうらやましい限りです」


「そう……」


少女にとっては、朗報だった。これが本当にロボットであれば、駆け引きなんて通用しない。ただ、最効率で攻撃されれば、いつかは少女が殺されるだけだ。けれど、これを人間が動かしているのなら……。


「やぁっ!」


少女は、持っていた刀をアンドロイドに投げる。ロボットであれば、その攻撃にすぐに対処するだろうが、人間はその攻撃に意味を見出そうとする。そこに、わずかに隙が出来た。


少女は脇差を取り出すと、さっき投げた刀とアンドロイドをはさむように動く。アンドロイドだからなのか、自身に危機感を感じていないのか、「何をするの?」という感じで動く様子は無い。


「壊れろ!」


少女は、脇差にあるスイッチを押す。すると、刀と脇差の間に高圧電流が流れた。刀では傷つかない装甲でも、電気なら通じるはず……。


「おっと、電気による攻撃でしたかー。しかし、残念。そのアンドロイドには耐電処理があるそうです――え?」


解説者の立ち位置であるピエロが間抜けな声を上げる。刀と脇差の間に流れた電気は、アンドロイドを拘束していた。


「これで……終わりよ!」


少女は、脇差を舞台に刺すとアンドロイドに向かって走り出す。そして、右手のグローブに力を入れると、バチバチと放電する。この放電は、攻撃するためではなく筋肉を強化するためだ。


「ガフッ!」


少女は、勝利を確信してアンドロイドに一撃を食らわせるべくパンチを放ったが、アンドロイドの足が伸びたため防がれた。


「え? やられそうなふりも大変だなって? ははっ、役者ですねぇ。エンターテイメント的には助かりますが!」


アンドロイドは、拘束していた電気の鎖をあっさりと引きちぎる。


「さあ、命乞いが聞けますかね? ほら、そのままだと殺されちゃいますよ?」


「……誰が、命乞いなどするものか」


「あちゃー、それじゃあリスナーの要望を満たせないじゃ無いですねぇ。どうです? 手足を一本ずつ折っていくというのは」


ピエロが、何とかリスナーの要望を満たそうとアンドロイドに提案する。アンドロイドがそれを了承したのかどうかは分からないが、少女にはもうアンドロイドを倒す手段が残されていなかった。


「今日はここまでみたいですねー。それじゃあ、次回も――」


ピエロがしめようとしたところで、舞台に亀裂が入る。舞台からは、逃げ出せないように、また乱入防止のためにバリアが張られている。しかし、舞台の下からの乱入は想定外だったのか、舞台の下にはバリアは無い。けれど、舞台もそれなりに硬いのだが。アーティファクトである少女の刀の様な賞品でない限り傷つける事は不可能に近い。


「どりゃーーー!」


舞台の下から、叫び声と共に現れたのはどこかの高校の制服を着た男だった。

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