ホラー 古城からの脱出
「はぁっ、はぁっ、何だありゃ!」
俺は人が殺されるのを目撃してしまった。黒づくめの男が、参加者の一人をナイフで刺したのだ。幸い、俺には気が付かずにどこかへ行ったが、こんな話は聞いていない。
「くそっ、何がゲームだ! クリアさせる気なんて無いだろ絶対!」
俺は、どうにもならない状況で後悔していた。
きっかけは、一通の手紙だった。ポストに投函されていた封筒には、差出人どころか宛先、切手もないまっさらなものだった。つまり、誰かが直接足を運んでうちのポストに投函したって事だ。
「何だってそんなめんどくさいことを」
そんなめんどくさい手段をとって届けられた封筒。どう考えても怪しい。普通であれば、開封すらせずに捨てられても文句は言えないだろう。だけど、俺はそんな怪しい封筒すら何かの足しになるのではないかと考えてしまっていた。
俺の親は、俺を残して1年前に蒸発した。俺に一切何も言わずに。それどころか、借金という置き土産をして。高校生の俺には、バイトで自分の飯代を稼ぐので精一杯で借金を返すなんて到底無理だ。だから、こんな怪しい封筒でも簡単には捨てられない。
「とりあえず、開けてみるか……」
封筒の中には、一通の手紙と、名前の記入がされていない小切手が入っていた。その小切手には――。
「一、十、百、千、万……嘘だろ、1千万の小切手だと?!」
名前が記入されていないので有効な小切手ではないが、1千万あれば借金を返せる。俺は、手紙の方を読むしかなかった。
「ゲームの招待状……か。ゲームをクリアしたら、この小切手にサインを入れてくれると」
ゲームの詳細は書かれていないが、参加者は下記の日時に〇〇空港に集まってほしいと書かれていた。この空港なら、遠いが自転車でも行ける。それに、ご丁寧にも夏休み期間に合わせてあった。
「まるで、俺に参加して欲しいって言ってるみたいだな」
実際には違うだろうが、俺にとって都合がいいのは確かだ。自慢じゃないが、俺には人に言えるような特技も何も無いからな。
「行くしか無いか」
俺は記されていた日時に間に合うように空港へと向かった。
「……個人所有の飛行機だと?」
行ってみたら、そこに用意されていたのは飛行機だった。そういえば、俺はパスポートも持っていないんだった。招待状があるから、勝手に何もいらないと思って、リュックには着替えぐらいしか持ってきていない。
それはそうと、個人で飛行機を持てるくらいの金持ちなら、1千万円くらいはした金だろう。本当に、ゲームをクリアしたら金をもらえる真実味が出てきた。
俺はどこへ行くか分からない飛行機に一人だけ乗せられていた。パイロットすら居るのかいないのか分からないくらいの無人感だ。ぼーっと外を見ていたら、シューッという音がした。見ると、天井から白い煙が噴き出してきていた。
「な、なんだ!?」
俺はとっさに鼻と口を手で覆ったが、効果が無かったのか、段々と眠くなっていった。
「ここはどこだ?」
目を覚ますと、周り中石で出来た見た事も無い部屋だった。窓から外を見ると、どうやらお城の様で、比較対象が無いから正確な高さは分からないが、ビルの十階以上はありそうに見える。
「まさか、誘拐されたのか?」
一応、ドアを開けるとカギはかかっていなかった。まあ、かかっていたとしても内カギだから開けられるんだけど。廊下へ出ると、ずっと待っていたのか、スーツ姿の老人が立っていた。
「おわっ!」
「驚かせて申し訳ありません。目が覚められたのでしたら、会場へご案内します」
「あ、ああ……」
俺は良く分からないまま、老人の後ろを着いて行く。会場とやらは同じ階にあり、開けると広間になっていた。その広間には、数人の男女がすでに集まっていた。そして、俺が入り終わると扉が閉められる。どうやら、俺が最後の参加者だったみたいだ。
「皆さま、長らくお待たせしました。まずは、集まってくれたお礼を」
老人は、静かに礼をする。そして、顔を上げると続けて話をする。
「それでは、わたくしの方からゲームの説明をさせていただきます。まず、ここはある国にある古城でございます。ゲームの会場となる様、いろいろと改造されております。そこで、皆さまにはこの城から脱出するゲームをしていただきます」
周りがざわつく。ただ、知り合い同士というのは居ないのか、独り言が多い様で何を言っているのかまでは分からない。ただ、日本語以外も混じっているし、髪の色も金髪とか居るから、染めているので無ければ素直に外国人だと思う。
「お静かにお願いします。手段は問いませんが、先ほども言った通り皆様の脱出を妨害する仕掛けかいくつもあります。それらを乗り越え、脱出した者には小切手にサインを致します」
ここに居る人達全員に空欄の小切手が送られていたようだ。ただ、脱出者一人だけとは言わなかったから、脱出者全員にサインしてもらえるのか? それなら協力して……。
「なあ、質問いいか? それって、全員が脱出しても貰えるんだろうな?」
俺と同じことを思ったらしい青年が老人に質問をしてくれた。
「もちろん……最初に脱出した1名のみでございます。ただ、他の参加者の妨害をされても困りますので、他の参加者へ危害を加える事は禁止致します。それでは、一度先ほどの部屋へ戻っていただき、1時間後に開始いたします」
俺は部屋へ戻ると考え事をする。俺達が脱出するのを邪魔するのは、老人が言う通りなら仕掛けのみになる。それなら、時間をかければクリアできるものなのだろう。ただ、のんびりしていると誰かがクリアしてしまう。そして、最初の一名しか金は貰えない。しかし、他者の邪魔は出来ない。
「けど、協力すれば……。要は、金が貰えるのは最初の一名だけだけど、そいつが協力者に金を払えば……」
例えば、俺の借金は5百万だ。それなら、1千万貰えるなら最悪半分の5百万を協力者に払えば俺の借金はチャラになる。けど、老人……運営側はそれを想定していないのだろうか? 仮に、全員が協力してクリアする事もありえると考えているんじゃないのか?
いろいろと思考しているうちに、1時間が経つ。すると、どこかにスピーカーが設置されているのか、先ほどの老人の声が流れる。
「それでは皆様、時間となりました。スタートでございます」
俺はすぐに扉を開け、廊下へと飛び出す。俺の隣の部屋の奴も同じことを考えていたのか、すぐに飛び出してきていた。そして、迷うことなく男は俺がいない方向へと走っていった。
「迷いなくあっちへいったな。何かあったのか?」
俺は、すぐに追いかけたい衝動をこらえ、その男の部屋へと入る。すると、壁には分かりやすくこの階の地図が張ってあった。俺の部屋には無かったものだ。そして、あの男が向かった先には、下の階へと続く階段があるようだ。ただ、壁に直に書かれているため記憶するしかない。部屋には、メモ用紙も書くものも用意されていなかったからだ。
「くそっ、出遅れた!」
もしかしたら、他の部屋には他の階の地図なんかも用意されていたりするのだろうか。しかし、それを確認する暇はない。何としても、最初にこの城を脱出しなければならないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます