昔話

@ku-ro-usagi

ショートショート

それをしている時

それが

「悪いこと」

とは思わなかった

家の居心地が悪かったから外に居たかった

私に限らず

そういう子って自己肯定感低いからね

自分を売ることが悪いことって思えないんだ

だって身内より他人の方がよっぽど優しいし

男の人は特にね

優しい

母親にもさ

私があんまりお金持ってると怪しまれるから

相場より少し安くしてたんだ

だから相手もすぐに見つかった

タイミング合えばご飯も奢ってくれたし

それに私は運が良かったんだろうね

ああいう出会いの中ではまともな人がほとんどだった

彼女と別れてしばらくしてなくてしたくなったとか

嫁さんが相手してくれなくてとか

普通に彼女いるけどただ別の子としたいって人もいた

私から見たら「当たり」の人たち

お兄さんでもおじさんでも構わなかった

私はストライクゾーン広いんだ

変わった所ではプロレスラーの見習いさんもいた

ごく普通にエッチしてさよなら

ほとんど誰とも二度目は会わなかった

女の子に渡すお金とホテル代も必要だから

男の人は社会人が当たり前で

私は合間にその人たちの仕事の話を聞くの好きだったな

お話はやっぱり長く生きてるおじさんが楽しかった


その人は

中距離の運転手してる人だった

昔は長距離だったけど体力的にも今は中距離だって

「大昔はな、よくこっそり乗せてたんだ

ヒッチハイクの子とか

夜中にふらふら歩いててトラックに手を振ってくる子なんかさ

連れてってやったよ

今?今は酷しくて全然駄目だ

こっそり乗せてる奴はいるかもだけどな」


その日は

臨時で出たんだよ

いつもの奴がいきなり倒れちゃって

出たのは夜の7時過ぎ

走って走って田舎道というより山道に近い道に入ったのは

もう夜中も夜中

まだ当時はあそこの国道が出来てなくて

でかいトラックでもそこ走るしかなかったんだよ

当然人っ子一人いない雑木林の中をずーっと走ってた

多分な

ドライブ中に喧嘩でもして彼氏の車から降ろされたんじゃねぇかな若い女の子だったよ

いきなり脇から飛び出してきたんだ

彼氏への当て付けで死のうとでも思ったのかもな

こっちはほら

まだ届け先に行く途中だから特に重い荷物積んでてさ

急には停まれねぇしよ

呆気なく跳ね飛ばしちまったよその子を

軽いからな

雑木林の中にポーンッと飛んでよ

さすがに慌てて車から降りたんだ

暗かったけどその子の着てた服が明るい色だったから暗い中でもすぐ見つかった

まだ息はあったかな

でももう虫の息でな

うまく頭が当たったのかそれっぽい傷は見えなくて

どうすっかなとは思ったんだよ

面倒くせぇなとも思って少し暗がりの中で迷ってたな

でも

その子のさ

浅くて早いヒュッヒュッと聞こえてくる呼吸が

何か無性にくるものがあったんだよ

俺の中で

当時は嫁さん妊娠中で溜まってたのもあって

「どうせ死ぬならその前に」

って

楽しませてもらったんだ

でも

あぁ

その間にその子は死んでた

俺はスッキリして

これどうするよ

捕まっちまうから警察呼ぶ気なんかさらさらないしな

ここは

夜中でも自分以外の車通りも稀にある

この暗さなら

ヘッドライトで認識しても停まる前に誰かが轢いてくれるだろう

飛ばしてるトラックなら特にそうだ

って考えて

道の真ん中まで引き摺ってさ

ほんの気持ちだけ

服の乱れは直してやって

届け先まで向かったよ

その後に雨が降ってきて

色々洗い流してくれるしツイてるなとは思ったな

あぁ

ニュースにはなってたぞ

恋人と喧嘩して車から降ろされた少女が

反省して戻ってきた彼氏の車に轢かれて死んだって

男の方は容疑を否認なんてあった気がする

でも警察もさ

彼氏1人に全部押し付けるのが、それが一番楽だわな

あんな誰もいない場所だ

中に残った俺のものも、調べなきゃ彼氏のってことになるだろうし

いや

まだあの時代だから

なんちゃら鑑定もあったかなかったかな微妙な時だしな

その後も色々あったっぽいけど

結局

ろくな捜査もなされず終わったんだろうよ

俺が逮捕されてないのがいい証拠だ

「それに昔すぎて覚えてねぇなもう」

そう言っておじさんは笑った

だからそのお話の後の2回目は

「人形みたいに無反応でいいぞ」

と言ってくれたのは

おじさんが当時の事を思い出して興奮したからなんだろうね

私は

気持ちいいけど死んだふりして反応しないようにしたら

すごい興奮してた

一度目とは大違いで腰振ってた

その2回目をされながら

私は

不思議と別の事を感じていた

なぜか

ベッドから立ち上ってくる土の匂いとか

固い木の根っこが這う地面とか

くすぐったい疎らな草の感触

むせ返る緑の青臭さ

どこからか漏れ始めた血と体液の生臭さも

ふわりと気紛れに漂ってくる排気ガスの臭いも

今にも雨が降りだしそうな山の濃い湿度は肌で感じ

小動物がガサガサと移動する足音まで聞こえた気がする

そして

もう死が近い少女の

それでも放たれる甘い体臭までも全て

あの瞬間

微かにあった少女の息が止まった時

おじさんは絶頂に達したのだろう



あぁ

そうだ

おじさんとだけは何回か会った

首絞めかけられてからは着拒否したけどね

それからは大学入って

色々窮屈だよって聞いていた寮に入ったけど

家より遥かに居心地良くて

私は余所に居場所を見つける必要がなくなり

自分を売ることもやめた


それからたった半年後位かな

隣の県で

出会い系で知り合った少女の首を絞めて殺した男が逮捕された

あのおじさんだった


しかも山の中でね

殺してた


あの時

私がおとなしく殺されていれば良かったのかな

でも苦しくて無理だった

本能が抵抗するんだよ

しつこく続報追ったりネットで調べてたら

初めは女の子を車から降ろして轢こうとしてたんだって

でも当然逃げるでしょ

それで

山の中に入った女の子を追いかけて殺してから乱暴したって

きっとおじさんはさ

私の後に買った女の子たちにもさせていたんだろうね

死んだふり

でも

おじさんは

死んだふりだけじゃもう我慢できなくなっていたんだ



おじさんは

満足できたのかな

どうなんだろう

いつか

聞いてみたいな

また

会いたいな




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