硝子の棺
仕入れから一年後。
「おはようございます、海藤さん♪」
声を弾ませた少女が挨拶をしてくる。最初に会った時よりも大分、笑顔が柔らかくなった。
「おはよう。今日も元気そうだね」
「はい。幸せです♪」
そう口にする少女のために、一晩寝かしたカレーを手にする。
「海藤さんったら、最近はあの娘がお気に入りみたい」
「新入りなのに、生意気」
「いいじゃない、どうせ今だけだよ」
周りからは、この娘よりも前に仕入れた、昔少女だった女たちの声がガスケースの中から聞こえる。海藤は、モテモテで困ってしまうなと感じつつ、少女の口にカレーをあーんした。目の前で頬を弛める姿はとても愛らしかった。
不意に、こちらを強く睨んでいた少女の眼差しが頭にチラつく。ほんの少しだけ懐かしい気がした。
「どうしたんですか、海藤さん?」
「いいや、なんでもないよ。今日も君は可愛いなって」
「そんな、海藤さんったら。恥ずかしいですよ♪」
頬を赤らめる少女に愛想笑いを向けながら、そろそろ新しい仕入れに行くべきかもしれない、と思いはじめていた。
硝子の棺に入るべき少女は、まだまだたくさんいるはずなのだから……。
硝子の棺 ムラサキハルカ @harukamurasaki
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