笑顔の君で

 仕入れからおおよそ一か月以上が経過した。

 例のごとく暗幕を払うと、

「お願いします。お願いしますから、ウチを外に出してください」

 少女はぼろぼろに泣きながらそう訴えてきた。ここまで弱々しい姿は初めて見る。不安なのだろうと察する。

「ごめんね、外には出せないんだ」

「お願いします。ウチにできることならなんでもしますから」

「そんなことはしなくてもいいんだ。君はただ受け入れるだけで」

 ここが君の居場所だってね。海藤の呟きに、少女はすすり泣きで応じる。

「帰りたいよぉ。パパァ、ママァ」

 その悲し気な声に、不安をぬぐってあげたいと強く思う。

「君に泣き顔は似合わないよ」

「お願いしますぅ」

「笑ってごらん」

「帰してください」

「そしたらきっとわかるんだ」

「パパとママに会わせてください」

「ここが君の居場所だって」

「帰りたいよぉぉ」

 ……海藤は暗幕を手にする。わかってもらうには、まだまだ時間がかかるようだ。じっくり行こう。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る